偏微分

Dr. SSS 2019/06/02 - 10:27:16 14110 微分積分
はじめに

ここでは,物理を学ぶ上では必須となる,偏微分について,図を用いてわかりやすく解説する。 決して難しい概念ではないため,構えずにリラックスして読んでもらいたい。


keywords: 数学, 解析学, 偏微分, 図解, 基礎

内容

微分の復習

微分の基礎』で説明したように,変数$x$が増加したときの関数$f(x)$の増分は

\begin{align} df = \frac{d f}{dx}dx \end{align}

と書かれた。ここで

\begin{align} \frac{d }{d x}f(x)=&\lim_{\Delta x\to 0} \frac{f(x+\Delta x)-f(x)}{\Delta x} \end{align}

である。


偏微分

では,$x$と$y$という2変数の関数$f(x,y)$の場合はどうか。このような関数の変化は

\begin{align} \label {df} df =\frac{\pd f}{\pd x} dx + \frac{\pd f}{\pd y} dy \end{align}

と書かれる。このように,1次までの近似($dx$や$dy$の2乗の大きさ以降を無視する近似)で変化分を表したのを,全微分という。ここで$dx$の係数は

\begin{align} \frac{\pd }{\pd x}f(x,y)\equiv&\lim_{\Delta x\to 0} \frac{f(x+\Delta x,y)-f(x,y)}{\Delta x} \end{align}

で定義され,関数$f$の$x$に関する偏導関数と呼ばれる。 また,偏導関数を求める操作を偏微分という。 このとき,変数$y$は固定した定数として扱われる。$dy$の係数も同様に

\begin{align} \frac{\pd }{\pd y}f(x,y)\equiv&\lim_{\Delta y\to 0} \frac{f(x,y+\Delta y)-f(x,y)}{\Delta y} \end{align}

で,$x$を固定した$f$の導関数であり,$y$に関する偏導関数と呼ばれる。 (\ref{df})のイメージは,以下の図1を参照。


図1:全微分のイメージ。$(\pd f(x,y)/ \pd y)$と$(\pd f(x+\Delta x,y)/ \pd y)$の置き換えについては,文末を参照。

具体的な関数において,一方の変数を固定するということをイメージするには,図2を見てもらいたい。 図では$f(x,y)=-x^2-y^2$という関数について,$y=y_0$を固定したときの,$x$方向の$f$の傾きを表している。この例から,$x$を固定した場合や,別の形の関数の場合もイメージしやすくなるだろう。


図2:他の変数を固定して微分するということのイメージ

偏微分のこれらの議論は,変数が2つの場合だけではなく,任意の個数の場合にも一般化される。独立変数が$(x_1,...x_n)$と$n$個ある場合,(\ref{df})に対応する式は

\begin{align} df =\frac{\pd f}{\pd x_1} dx_1 + \frac{\pd f}{\pd x_2} dx_2+...+\frac{\pd f}{\pd x_n} dx_n =\sum_{i=1}^n \frac{\pd f}{\pd x_i} dx_i \end{align}

となる。


表記

偏微分の表記として,

\begin{align} \left( \frac{\pd f(x,y)}{\pd x} \right)_y \end{align}

のように,固定する変数を明示されることもある。特に,独立変数の取り方が自明でない場合などには,このような表記がなされることが多い。

また,省略形として

\begin{align} f_x=&\frac{\pd f}{\pd x} , \notag \\ f_{xx}=& \frac{\pd^2 f}{\pd x^2}, \\ f_{xy}=&\frac{\pd^2 f}{\pd x \pd y} \notag \end{align}

などが用いられることもある。二つ目以降は二階の偏微分であり,最後の例は$x$および$y$でそれぞれ他の変数を固定しながら微分するという意味である。




例題

最後に,いくつか例題を示そう。

Q. $f(x,y)=-x^2-y^2$を$x$で偏微分してみよう。

A.

\begin{align} \notag \frac{\pd}{\pd x}f(x,y)=& -\frac{\pd}{\pd x}(x^2)-{\frac{\pd}{\pd x}(y^2)} \\ \notag =&-2x \end{align}


Q. $f(x,y)=x^2y$を$x$および$y$で順に偏微分してみよう。

A.

\begin{equation} \notag \begin{split} \frac{\pd}{\pd x}(x^2y)=&2xy \\ \frac{\pd^2}{\pd x \pd y}(x^2y)=&\frac{\pd}{\pd y}(2xy) \\ =& 2x \end{split} \end{equation}


Q. 最後に,図1にある

\begin{align}\label {repl} \frac{\pd f(x,y)}{\pd y} \simeq \frac{\pd f(x+\Delta x,y)}{\pd y} \end{align}

の正当性を示そう。


A. これらの二つの関数の差を取ると

\begin{align} \notag \frac{\pd f (x+\Delta x,y)}{\pd y}-\frac{\pd f(x,y)}{\pd y} =\frac{\pd^2 f(x,y)}{\pd x \pd y} \Delta x \end{align}

となり,$\Delta x\to 0$の極限で

\begin{align} \notag \frac{\pd f(x+\Delta x,y)}{\pd y} dy = \frac{\pd f (x,y)}{\pd y} dy +\frac{\pd^2 f(x,y)}{\pd x \pd y} dy dx \end{align}

と微小量の2次の違いしかなくなるため,1次近似(\ref{df})に入れたとき,(\ref{repl})の間で置き換えが可能になる。



参考文献