2016年5月5日、ペンシルベニア大学の経済学者グイド・メンジオ(Guido Menzio)は、自分が共著者である論文に関する発表を行うクイーンズ大学のあるオンタリオ行きに乗り継ぐために、フィラデルフィアからシラキュースに向かう飛行機に搭乗していた。 離陸を待つ間、彼は微分方程式に取り組んでいた。 隣に座っていた30代くらいの女性と簡単に言葉を交わした後、彼は自分の研究に注意を戻した。
しかし、それからしばらくしても、飛行機は滑走路にとどまったまま離陸せずにいた。 そして30分ほどすると、飛行機はゲートに引き返し、隣の女性が体調不良を訴えて飛行機を降りて行った。
だが、飛行機を降りたのは女性だけでなく、メンジオも搭乗員に席を外すよう要求された。 飛行機を降ろされた後、彼はゲート係員に何が起こっていたのかを知らされる。
先に女性が降りた理由は、本当は体調不良などではなかった。 彼女はメンジオが書いていた記号が数学の記号であることを理解できず、アラビア語か、あるいは何らかの怪しい暗号と勘違いしていたのだ。 また、真剣な顔でその「暗号」に取り組む姿から、テロ計画のような、何か緊迫したものを感じたようだった。 メンジオは実際はイタリア人であるが、風貌から中東系の人物であると誤解されたとも言われている。彼女が搭乗員にそのことを訴えるメモを渡していたことが離陸遅延の原因だった。
このことを知らされたメンジオは笑って事実を伝え、航空会社を提訴するようなこともしなかった。 しかし彼は同時に、人種差別に関する懸念も示している。 特にこの時、トランプが当選した2016年の大統領選が終わり、トランプ政権が始動して間もなかったのもあり、トランプの選挙活動によって掻き立てられた外国人差別が、今後益々悪化することを危惧してこう述べている:
被害妄想の伝染をどうやって防いだらいいのだろう。このような出来事の中では、トランプの投票基盤の精神を認識しないではいられない。
トランプのアメリカはもう始まっている。
すなわちこれは、基本的な教養と、多様性を理解して受け入れる心の欠如、まさにトランプのような人物を大統領にしてしまった原因であるアメリカ社会の問題を象徴するような教訓的な出来事であった。 ただ、こうした問題はアメリカに限定されたものではない。 公共の場で安心して数学もできないような社会になってしまわぬように、柔軟な頭と広いリベラルな心を失わないよう努めて行こう。
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