火星の日没は、地球と違って青い

Dr. SSS 2019/06/22 - 11:02:06 14640 天体の物理
はじめに

上の画像は,探査機Curiosityによって最初にカラーで撮影された,赤い惑星,火星の日没の様子だ。地球の焼けるような日没とは全く異なり,冷たく青白い光が見える。撮影したカメラはヒトの目より青色の感度が低いため,私たちの目で見ればもっと青く見えるそうだ。この違いは一体何によってもたらされるのだろうか?


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内容

地球の空の色

火星の日没について考える前に,まず地球の空の色がどう生まれるかを考えよう。

太陽光は赤外線から紫外線まで幅広い波長の光を含むが,光は地上に届くまでに大気中の分子によって散乱される。大気中の分子の大きさはそれらの光の波長より小さく,Rayleigh散乱と呼ばれる散乱が起こる。このとき,波長の短い光ほど大気の分子によって散乱されやすいという性質がある。

Inductiveload, NASA. Translation by t7o7k, CC0, via Wikimedia Commons

晴れた日中,波長の長い赤やオレンジの光は比較的障害なく私たちの目に届くため,太陽ははっきりした位置に見えるのだが,波長の短い光は上空の大気中で強く散乱されて方々に散らばるため,私たちの目には広い方向から青や紫の光が届く。ヒトは紫の光に対する感度があまりよくないため,結果青色が中心に見え,空全体が青く見えることになる。


昼間の空の見え方

昼間の空の見え方

一方日没になると,太陽の相対的な位置は私たちからより遠くに移るため,太陽光が届くまでに旅する大気の厚さが増える。その間に波長の短い光はバラバラに散乱され,私たちの目にはほとんど届かなくなる。結果,赤っぽい波長の長い光が私たちの目に届き,焼けるような赤い夕焼けが経験される。

夕焼け空の見え方

夕焼け空の見え方




火星の日没

地球では空の色を決めるのに大気中の分子が重要な役割を果たす一方で,火星の日没が青い理由は,火星大気中の塵埃(じんあい)が原因だと考えられている。

火星の大気は地球と比べて1%程の薄さで,多くの塵埃を含んでいる。そしてこの火星大気中の微粒子は,大気の分子より大きく,可視光の波長程度のサイズになる。このとき,Rayleigh散乱ではなく,Mie散乱と呼ばれる散乱が支配的になる。

Mie散乱では,散乱される角度が粒子の大きさに対する相対的な波長の長さによって異なってくる。散乱を起こす粒子の大きさに対して,波長の長い光ほど一様に散乱されるのに対し,波長の短い光ほど散乱される角度が小さく,前方への散乱強度が大きくなるのだ。図1は,左がRayleigh散乱,右がMie散乱,真ん中がその中間的な散乱の様子を示している。

球状の粒子による散乱のイメージ。矢印の大きさは散乱強度に対応する。左がRayleigh散乱,右がMie散乱,真ん中がその中間的な散乱の様子。wikipedia commonsより。

地球の場合と同様,日没には光は大気中を長い距離を移動しないといけないため,可視光のうち,波長の長い光ほどバラバラに散乱されてしまい,散乱角が小さく,前方に効果的に散乱される青に近い波長の短い光だけがCuriosityのカメラまで到達するのである。


参考文献

  • Ehlers, K, et al. "Blue moons and Martian sunsets." Applied optics 53(9), 1808-1819(2014).