動いていないのに動いて見える不思議な画像は,SNSでも大人気だが,その奇妙さを体験するのはヒトだけではない。

上の動画のように,猫も同様の錯視を体験することが研究によって示されている。猫がじゃれている画像は,研究の共著者である立命館大学の北岡明佳教授が作成した『蛇の回転』と呼ばれるものだ。

もちろんヒトあるいはホモ・サピエンスは単なる動物の一種に過ぎず,生理システムの大部分を共有する他の動物が同様の認知システムを持っていることは不思議ではない。しかし,より興味深いのは,ヒトの脳の構造を模した人工知能も同様の錯視を経験するということが研究によって示されているということだ。

予測符号化理論と呼ばれる理論によれば,脳は外部からの情報を受動的に収集して処理するのではなく,積極的に自ら先に起こる状況を予測しモデル化する装置であり,その予測と実際の刺激の誤差(エラー)によって学習を行うのだとみなされる。

2018年の研究によれば,基礎生物学研究所の渡辺英治准教授と北岡教授を含めた研究者らは,予測符号化理論を組み込んだディープラーニングマシーンに,日常的な風景動画を見せることでヒトの一般的な視覚体験を学習させたのち,上述の画像を含めたいくつかの画像を見せた。すると,人工知能は,画像の回転を予測し,画像が回転しているという実際には存在しない情報を検出した。

この研究結果は,予測符号化理論の有力な裏付けの一つになるだけでなく,知覚のより具体的なメカニズム理解につながる重要な一歩となる可能性がある。一方,この種の研究結果は,知覚を持ち,苦しみを経験する人工知能,あるいは「人工意識」の創造に対する懸念を,ますます増加させるようにも思える。

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