2019年4月,米国で物理を専攻する女性大学生の実に3/4が,セクシュアルハラスメントの被害を経験しているという調査結果が発表された。
内容は,女性は物理に向いていないといった言葉や,容姿に関するものや性的内容を含むジョークを向けられるといった例,あるいは他の様々な形で,女性であるというだけで見下した態度を取られるなどであった。
他にも,天文学分野の研究ではあるが,性別によって論文の評価に不公平な隔たりがあることを示す研究も発表されている。
これらの扱いは,女性がこの分野で学習や研究を続ける大きな妨げになっていることが予測される。
STEMM(science, technology, engineering, mathematics and medicine)領域に属する女性の数は増加しているものの,その中で物理学はジェンダーギャップが最大の分野であることも示されている。
女性として初のノーベル賞(物理学賞)を受賞,その後化学賞も受賞し,史上初めての2度のノーベル賞受賞者となった マリ・キュリー(1867年- 1934年)は,女性であるという理由ではじめは進学の道も閉ざされ,苦労して研究者になった後も,嫉妬や差別に晒され続けた。
数学者エミー・ネーター(1882年 - 1935年)も,女性であるということで雇用の機会を奪われかけた。偉大な数学者ダフィット・ヒルベルトのアシストにより研究の機会を得たネーターは,物理学において極めて重要となるネーターの定理を示した。
例え才能があっても(あるいは才能があるゆえになおさら),女性が女性であるというだけで困難を課されるこの状況は,未だに続いているのだ。
低俗な偏見や振る舞いで,この分野で研究を進める潜在的な才能を台無することだけではなく,相手が単に女性であるというだけで,特定の分野に携わる機会を阻害することは,許されることではない。
例え研究者になることはなくとも,誰もが公平な環境で,関心を持つ分野を学習する機会が与えられなければならない。そもそも,ジェンダー差別は全く日常的なレベルから根絶しなければならないものである。
また,ジェンダー差別はシス女性(生まれつき身体と性自認が一致している女性)に対するものだけではない。生まれつき身体と性自認が一致しないトランスジェンダーの人々は,一般により多くの困難を抱えている(コチラはトランスジェンダーの物理学者が多くのハラスメントを経験しているという報告)。
学習の機会だけでなく,その人の生まれつきの性質それ自体を理由に,様々な疎外に直面させられ,様々な可能性に拘束を課されているのである。
そして,差別の問題は当然ジェンダーに限ったものではなく,種,性的指向,人種,あるいは学歴に関する様々な差別が,未だに人類の多様な病として存在している。
可能な限りバイアスを取り除いて真実を探求し,権威ではなく研究成果によって評価が与えられることが理想であるこの科学の世界においてこそ,率先してそれらの差別は排除していかなければならない。