貧困家庭に生まれ育ったレオナルド・サスキンド(Leonard Susskind)は病気の父に代わって16歳から配管工として働いていたが,その後入学したエンジニアリングスクールで物理学と恋に落ちた。
父に,後は継がず,物理学者になりたいと打ち明けたときのエピソードをこう語っている
物理学者になりたいというと,父は「薬局で働くなんて絶対にダメだ」と言った。「違うよ,薬剤師(pharmacist)じゃない,物理学者(physicist)だよ」というと彼は「物理学者ってなんだ?」というので「アインシュタインみたいな人だ」と答えると,彼はショックを受けたようだがすぐに理解した。母は泣きながら「家は破産することになる」と言っていたが,父は母の方を向いて「黙れ,こいつは物理学者になるんだ」と言った。
その後彼は,実際に物理学者になっただけなく,ハドロンの弦理論を提唱し,弦理論の創始者の1人となった。その後,弦理論は衰退したが,超対称性を取り入れるなどして拡張され,改めて注目を浴びるに至り,今や最も「流行りの」量子重力理論の一つとなっている。
他にもサスキンドは,スティーヴン・ホーキング(Stephen Hawking)と20年以上にわたり「ブラックホール情報パラドックス」と呼ばれる,ブラックホールによって情報は失われるのかという問題をめぐって論争を続けたことなどでも知られる。この論争は超弦理論をはじめ量子重力理論の発展を刺激し,ホログラフィック原理など新たな重要な理論の誕生にも導いた。
そんなサスキンドが,自身が教授を務めるスタンフォード大学で一般向けに公開しているのが,現代物理の理解に必要な理論的基礎を教える講義シリーズ「The Theoretical Minimum」である。
彼はこのシリーズで,古典力学から古典及び量子場の理論,そして弦理論まで,基礎をわかりやすく教えてくれている。場の理論には特殊および一般相対性理論の講義も含まれ,宇宙論の講義と合わせ,ブラックホールの物理なども学ぶことができる。
微積分とベクトル解析などの基本を知っていれば,テンソル解析やその他必要な数学は講義の中で教えてくれるので問題ない。
大学の講義ではよくわからなかったとか,関心はあるがどこから始めてよいかわからないという人がきっかけにするには非常に良いシリーズだと思われる。
講義は,こちらのウェブページから視聴できる。また,講義を基にした同タイトルのテキスト『The Theoretical Minimum』の日本語訳が『スタンフォード物理学再入門』として発売されているので,合わせて活用することでよりよく講義を理解する助けにもなるだろう。
参考:
- https://www.telegraph.co.uk/culture/books/10654762/The-man-who-proved-Stephen-Hawking-wrong.html