Queenのギタリスト ブライアン・メイは何を専門に研究しているのか

Dr. SSS 2019/07/15 - 20:24:31 物理と天文
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言わずと知れた伝説のロックバンドQueenのギタリストであり、天体物理学博士でもあることで知られるブライアン・メイであるが、より具体的に彼はいったい何を専門にしているのだろうと気になった方もいるのではないだろうか?ここでは、彼の研究論文からその内容を探ってみようと思う。

だがその前に、彼の人物像や奇跡(Miracle)のような経歴を簡単に紹介しておこう。


略歴

1947年生まれの彼は、インペリアル・カレッジ・ロンドンの学生であった1968年に、後にQueenの前身となるバンドSmileを結成し1969年にはレコードもリリースしている。その後1970年からは博士論文のための研究を始めるが、その間にメンバー変更を経て1971年頃にQueenが結成され、1973年にはデビューアルバム『Queen』がリリースされる。そして、翌年の2ndアルバム『Queen II』のヒットにより、本格的にブレイクを果たす。すると、いよいよ音楽活動との両立が困難になり、研究は中断されることになる。

その後、30年以上経た2006年に研究活動を再開し、2007年に博士号を取得している。2007年には『BANG! 宇宙の起源と進化の不思議』という一般向けの科学本を出版し、近年では、NASAによる冥王星を含めた太陽系外縁天体の探査プロジェクトNew Horizonsに参加するなど、ミュージシャンと科学研究者どちらの顔としても著名な人物となっている。

これだけでも十分すごいことだが、ブライアンの偉大さはこれだけではない。彼はヒトでない動物の擁護派としても知られ

私がこの世を去ったら、間違いなくQueenのギタリストとして人々の記憶に残るでしょうが、私自身はそれよりもむしろ、私たちの仲間である動物たちの扱いを変えようと努力した人物として覚えていてもらいたい。

とも述べている[1]。また、世界的に有名なアニマルライツ・アクティビストであるゲイリー・ヨーロフスキーの『世界で最も重要なスピーチ』にも紹介コメントを提供している。



研究内容

さて、ブライアンの研究であるが、彼の博士論文『A Survey of Radial Velocities in the Zodiacal Dust Cloud』[2]のテーマは、惑星間ダストからの反射光と、太陽系のダストの速度に関するものだ。

タイトルにあるZodiacal lightというのは、日本語で黄道光と呼ばれ、日暮れ直後の西の地平線、あるいは日の出前の東の地平線から上空に向かって伸びる淡い光の帯のことである。日の出の前に見えることもあるため、偽りの夜明けとも呼ばれてきた(Liar!)。

黄道光の発生源こそ、太陽系に円盤状に散らばる無数のダストだ。このダストに太陽光が散乱することで、地上からは光の帯に見えるのである。だが、このダストの起源については未だに新たな発見や議論があり、現在も生きたトピックとなっている。

ブライアンの研究は、黄道光の分光観測とその解析であり、博士論文で用いられているデータはすでに70年代に収集していたもので、その結果はQueenのメンバーとして活動中の1972年と1974年に、共著者として名を連ねたレビュー論文で発表されている[3,4]。そのうち、1本はnatureに掲載されているものだ。これらの論文の著者名は、Hicks、May、Reayの順になっているが、これはアルファベット順にすることを彼らの間で決めただけで、実際はブライアン主導の研究であったことが博士論文の前書きで述べられている。

博士論文の内容は、これらの結果に、30年以上のブランクの間に得られた発見を加味し、まとめられたものとなっている。

また、ブライアンは、3D 'Owl viewerという立体視ゴーグルをプロデュースし特許を取得しており、前述のNew Horizonsでは、New Horizons探査機が撮影した、人類が到達した最も遠い天体Ultima Thule(ウルティマ・トゥーレ)の3D画像作成に関与している。2017年には、その3D技術を用いたQueenの自叙伝『QUEEN in 3-D』を発売して話題になった。

物理学の父ニュートンにそっくりともいわれる古き良き(good old-fashioned)スタイルが似合い、偉大なミュージシャンとしての功績よりも道徳的活動に誇りを持ち、音楽作品だけでなく、研究トピックまで高度でおしゃれという、誰もがそのすべてを欲しがるだろう(want it all)ブライアンの人物像に、これまでファンではなかった人さえも、きっと熱中する(ga ga)ことだろう。


参考

  1. http://www.contactmusic.com/queen/news/brian-may-converts-estate-into-wildlife-refuge_1359933
  2. May, B. (2008). A survey of radial velocities in the zodiacal dust cloud. Springer Science & Business Media.
  3. Hicks, T. R., May, B. H., & Reay, N. K. (1972). MgI emission in the night sky spectrum. Nature, 240(5381), 401.
  4. Hicks, T. R., May, B. H., & Reay, N. K. (1974). An investigation of the motion of zodiacal dust particles—I: Radial Velocity Measurements on Fraunhofer Line Profiles. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 166(2), 439-448.

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