1948年4月にPhysical Reveiwに掲載された"The Origin of Chemical Elements"というラルフ・アルファー(Ralph Alpher)とハンス・ベーテ(Hans Bethe)そしてジョージ・ガモフ(George Gamow)によって書かれたビッグバンによる元素合成に関する有名な論文がある。
だがこの三人の著者のうち、一人は全くこの論文の研究に関与していない。彼はただジョークのために加えられたのだ。
この論文の研究内容は、当時学生であったアルファーの博士論文のテーマであり、それを指導していたのがジョージ・ガモフであった。
ガモフはアルファーの名前がギリシア文字のαに、自分の名前がγに近く、友人のベーテを加えれば、α-β-γに似たごろの良い著者名の並びになると考え、研究に全く関与していないベーテを共著者に加えることにした。
ベーテはこれを承諾し、実際にこの論文はα-β-γ論文として有名になったのだが、アルファーは論文に対する正当な評価が得られなくなるという懸念から、自分の大事な研究にジョークで無関係な人物を共著者として加えるという指導教官の行いに怒り、その後もしばらく恨みを持ち続けた。
一方でガモフは、次の論文でα-β-γ-δを完成されるために、当時ポスドクだったロバート・ハーマン(Robert Herman)に名前をDelterに改名するよう説得していたという。
ベーテは元々恒星のエネルギーが核融合反応によるものであることを発見し、その後その発見を含めた原子核反応に関する研究でノーベル賞を受賞することになる有名な研究者であったし、その後も多岐にわたる研究を行い一線の物理学者として活躍した。
また、ガモフはα-β-γ論文の発表後宇宙マイクロ背景放射を予言するなど宇宙論の研究で活躍し、一般向け著書の執筆などでも有名となる。
一方で、アルファーはその新たな理論によって博士号を取得し、いっときは世間の関心を惹いたが、その功績は次第に忘れられていき、事情を知らない読者にはα-β-γ論文の著者としてガモフと(無関係な)ベーテ以上の印象を与えなくなっていった。
このことからも、この出来事は完全な笑い話にはできないかもしれない。そして、アルファーの功績を改めて評価すべきだという声もあがっているようである。
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