1893年に創設され,物理学の専門誌として最も権威があると言われているPhysical Reviewの歴史の中で最も短い論文が,Friedrich Lenzによる1951年の論文,『The Ratio of Proton and Electron Masses(陽子と電子の質量比)』である(著者のLenzは,電磁気学におけるLenzの法則に名を残したLenzとは別人)。
上の画像の通り,この論文の内容はわずか3行しかない。内容は,陽子と電子の質量比が,近似的に$6\pi^5$に等しいということを報告するものである。
残念ながら,これまでの実験結果からは,この一致は偶然であることが濃厚となっているが,物理的に重要な定数の一つである陽子と電子の質量比が円周率と近似的に結び付けられるという事実はとても示唆的である。
ちなみに,これまで発表された科学論文で最も文字数が少ないのは,1974年に臨床心理学者Dennis Upperが発表した,なんと0文字の論文である。
この論文のタイトルは『The Unsuccessful Self-Treatment of a Case of 'Writer’s Block』,日本語に訳せば『効力の無いスランプの自己療法』である。 つまり著者は,執筆ができないスランプの状態を克服するための試みが失敗したことを,何も書かないということで表現したのである。
この論文のレビュワーは,「レモン汁とX線を使って慎重に調べたが,論文の構成にも様式にも一切問題は見当たらない」として発表を承認した。
参考文献
- Dubé, L. J. (2017). A reminder of the powers of pi. Physics Today, 70(11), 13-13.
- Lenz, F. (1951). The ratio of proton and electron masses. Physical Review, 82(4), 554.
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