Lie群のLie代数

ScienceTime Team
92 views
Lie群のLie代数

Introduction

Lie群Gは一般に複雑な構造を持った対象であるが,左移動という微分同相写像のために,その局所的な情報は単位元eの近傍に集約されている。 そのため,接空間を考えるにあたっても,e上の接空間TeGが特別な重要性を持つ。 特に,Lie群の接空間はベクトル空間であるだけでなく,以下で定義する群のLie代数と呼ばれる構造を持っており,Lie群Gの多くの情報がそこに含まれている。 このLie代数の構造もまた,TeG上に課された構造とみなすことができ,これによりLie群全体の構造を分析するための効率的なアプローチが提供される。

以下,C級多様体を念頭に議論するため,特に断りのない限り,多様体という言葉はC級多様体を指すものとする。 また,Einsteinの規約に従い,上下繰り返しの添え字は和を取ることとする(i/xiは右辺の表現でも下付きとみなす)。

Lie代数

Lie群G上の任意の不変ベクトル場X,Yは,任意のa,bRに対し

(1)(aX+bY)|g=aX|g+bY|g,gG

を満たす。 つまり,G上の不変ベクトル場全体の集合もまたベクトル場を構成する。 このベクトル場をgと記す。

以下で示すように,gの任意の2元X,YgからなるLie括弧[X,Y]=XYYX

(2)Lg[X,Y]h=[X,Y]gh

を満たすから,[X,Y]gであり,gはLie括弧に関して閉じている。 gとそのLie括弧[ , ]:g×ggを合わせて,Lie群GLie代数(Lie algebra)という。

gの任意の元,つまりG上の不変ベクトル場Xが与えられたとき,そのe上での値X|eがわかれば

(3)X|g=LgX|e

によって任意の点上の値もわかるから,左不変ベクトル場はeでの値によって決定される。 反対に,e上の接空間TeGの元vが与えられると,Lgv=Xv|gによってXv|e=vとなる左不変ベクトル場Xvを定義できる。 したがって,gTeGは1対1に対応付けられる。 これより,Lie代数の次元は,Lie群Gの次元と一致する。

この1対1対応があるため,Lie代数の構造を調べるにあたっても,e上での構造がわかればいい。


構造定数

単位元e上の接空間TeGの基底を{Vi}i=1nとし,Lie括弧[Vi,Vj]を考えると,これもTeGの元であるから,基底{Vi}i=1nを用いて

(4)[Vi,Vj]=fij kVk

と表すことができる。 ここに現れる係数fij k構造定数(structure constants)という。 Lie群の群構造はこの構造定数によってほぼ決まる。 先に述べた事情から構造定数はgに独立な定数である。

実際,基底{Vi}i=1nから左移動により各gGにおいてXi|g=LgViとなる線形独立なベクトル場の組{Xi}i=1nが作れる。 そして,[Vi,Vj]=[Xi,Xj]e=fij kXk|eであるから,(4)を左移動すると,(3)および(2)より

(5)Lg[Xi,Xj]e=[Xi,Xj]g=fij kXk|g

となり,fij kgによらない定数でないといけないことが確認できる。


式(2)の証明

定義: 多様体MからMへの滑らかな(C級)写像φがあり,M上のベクトル場XM上のベクトル場Xが,任意のpMに関して

(6)φXp=Xφ(p)

を満たすとき,ベクトル場XXφ-関係(φ-related)にあるという。


補題: M上のベクトル場XM上のベクトル場Xφ-関係にあるとき,M上の滑らかな写像fと,任意のpMに対して

(7)(Xf)φ=X(fφ)

が成り立つ。

proof  

  1. φ-関係にあるという仮定より

    (8)φ(Xpf)=Xφ(p)f

    である。

  2. 微分φの定義とXp(f)=(Xf)(p)より,左辺は

    (9)Xp(fφ)=(X(fφ))(p)

    右辺は

    (10)(Xf)(φ(p))=(Xf)φ(p)

    である。

  3. pは任意であるから,求める関係が得られる。


補題:M上のベクトル場X,YM上のベクトル場X,Yがそれぞれ互いにφ-関係にあるとき,Lie括弧[X,Y][X,Y]φ-関係にある。

proof  

(11)[X,Y]φ(p)f=Xφ(p)(Yf)Yφ(p)(Xf)=Xp((Yf)φ)Yp((Xf)φ)=Xp(Y(fφ))Yp(X(fφ))=[X,Y]p(fφ)=φ[X,Y]pf

となり,求める結果が得られる。 最初と4つ目の等式はLie括弧の定義,2つ目の等式はXφ(p)f=(φXp)f=Xp(fφ),3つ目の等式は式(7):(Xf)φ=X(fφ),最後の等式は微分の定義を用いた。

さて,LgXe=Xgより,左不変ベクトル場は左移動に関して(6)の関係を満たすから,上の補題より

(12)Lg[X,Y]=[X,Y]

が成り立つ。 すなわち,左不変ベクトル場のLie括弧も左不変である。 こうして式(2)が示された。