Lie群と不変ベクトル場

Dr. SSS 2021/02/07 - 12:41:21 微分幾何学
はじめに

Lie群とは,群構造を持つ多様体で,その群演算が$C^\infty$級である群のことである。 Lie群は左(または右)移動と呼ばれる$G$自身への微分同相写像により,単位元から任意の点へと構造を保ったまま移ることができる。 よって,Lie群は局所的には,任意の点の近傍で同様の構造を持っており,単位元周辺の構造さえわかればLie群全体の構造を知ることができる。 こうした事情から,Lie群の性質を調べるにあたって,単位元上の接空間が重要な役割を果たす。

以下,$C^\infty$級多様体を念頭に議論するため,特に断りのない限り,多様体という言葉は$C^\infty$級多様体を指すものとする。 また,Einsteinの規約に従い,上下繰り返しの添え字は和を取ることとする($\pd_i \equiv \pd/\pd x^i$は右辺の表現でも下付きとみなす)。


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内容

Lie群の定義

Lie群とは,群構造を持ち,かつ群演算

  1. $G\times G\to G, \ (g,h)\to gh$
  2. $G \to G, \ g\to g^{-1}$

が$C^\infty$級写像である微分可能多様体$G$のことをいう。

例1:$n$次元Euclid空間$R^n$は,加法を群演算とすると,$n$次元の可換Lie群となる。 単位元は0ベクトルである。


例2:正則な正方行列$A$の全体からなる群

\begin{align} GL(n,R) \equiv \{A \in R^{n\times n} \ | \ \det{A}\neq 0 \} \end{align}

を$n$次の実一般線形群(real general linear group)という(複素数を成分とする行列からなる場合は$GL(n,C)$と表し,複素一般線形群(complex general linear group)と呼ぶ)。 物理において特に重要になるのが,一般線形群の閉部分群として定義される線形Lie群(linear Lie group)である。 一般線形群についてより詳しくは『一般線形群』を参照




左移動と不変ベクトル場

$g$と$h$を$G$の元としたとき,$h$の$g$による左移動(left translation)および右移動(right translation)と呼ばれる微分同相写像がそれぞれ

\begin{align} \label{eq:left-translation} L_g:G\to G ,\ h\to L_gh=gh \\ R_g:G\to G ,\ h\to R_g h=hg \end{align}

で定義される。 右でも左でも同様の議論になるため,以下左移動に関して議論をする。

任意の$h\in G$上の接ベクトル$X_h \in T_h G$に対し,左移動(\ref{eq:left-translation})に伴う微分

\begin{align} L_{g*}:T_h G \to T_{gh}G ,\ X_h \to X_{gh} \end{align}

が定義できる。 すると,単位元$e\in G$と任意の$g\in G$について$ge=g$であるから

\begin{align} \label{eq:Lg_related} L_{g*}X_e=X_{ge}=X_g \end{align}

により,任意の点で接ベクトルを指定できるため,これによってベクトル場を構成することができる。 こうして作られるベクトル場$X$は,定義からして,左移動によって自分自身に写像される:

\begin{align} L_{*g}:X\to X \end{align}

すなわち,左移動に対して不変となる。 このように,左移動に対して不変なベクトル場を,左不変ベクトル場(left invariant vector field)という。 右移動を用いれば同様にして右不変ベクトル場が構成できる。

例3: $R$の左移動は,任意の$g,x \in R$に対して

\begin{align} L_g(x)=x+g \end{align}

である。 ベクトル場

\begin{align} X=\frac{d}{d x} \end{align}

の左移動を考えると,$L_{g*}(d/d x)_e$は$g$上でのベクトルとなるから,何らかのスカラー$a$を用いて

\begin{align} \left. L_{g*}\frac{d}{d x} \right|_e = \left. a\frac{d}{d x} \right|_g \end{align}

と表せるはずである。 これを,関数$f(x)=x$に作用させると,右辺の表現を用いた場合は

\begin{align} \left. a\frac{d}{d x} \right|_g x = a \end{align}

左辺の表現で考えた場合は

\begin{align} \left. L_{g*}\frac{d}{d x} \right|_e f = \left. \frac{d}{d x} \right|_e f\circ L_g = \left. \frac{d}{d x} \right|_e (x+g) = 1 \end{align}

となるから

\begin{align} \left. L_{g*}\frac{d}{d x} \right|_e = \left. \frac{d}{d x} \right|_g \end{align}

が成り立つ。 すなわち,$d/dx$は左不変ベクトル場である。


例4: $GL(n,R)$の元である正方行列$g$の成分を$x^{i}_{\ j}(g)$と表すと,左移動は

\begin{align} L_{g*}h =x^i_{\ j}(g) x^j_{\ k}(h) \end{align}

という行列の積演算になる。 $e$上のベクトル

\begin{align} V=V^i_{\ j} \left. \frac{\pd}{\pd x^i_{\ j}}\right|_e \end{align}

が与えられると,任意の$g$におけるベクトルの成分は,$X^i_{\ j}=X^k_{\ l}\pd^k_{\ l} x^i_{\ j}$より

\begin{equation} \begin{split} X^i_{\ j}(g) =& (L_{g*}V)x^i_{\ j} \\ =& V(x^i_{\ j}\circ L_g) \\ =& V^l_{\ m} \left.\frac{\pd}{\pd x^l_{\ m}}\right|_e x(g)^i_{\ k} x^k_{\ j} \\ =& V^l_{\ m}x^i_{\ k} (g) \delta^k_{\ l}\delta^m_{\ j} \\ =& x^i_{\ k} (g)V^k_{\ j} \end{split} \end{equation}

となるから

\begin{align} \left.X\right|_g = L_{g*}V = (gV)^i_{\ j} \left. \frac{\pd}{\pd x^i_{\ j}}\right|_g \end{align}

で定められるベクトル場$X$は不変ベクトル場となる。 ここで$(gV)^i_{\ j}=x^i_{\ k} (g)V^k_{\ j}$である。



参考文献


自然科学に関する質問やノート作りは『AfterSchool』で。