大きな数の掛け算、割り算、開平、開立ほど、数学の実行において、厄介で、計算するものを悩ませ、困らせるものはない。それらは多大な時間の浪費になるだけでなく、いくつものつまらない間違いの原因にもなりがちである。このため私は、これらの障害を取り除く確実で手近な手法がないかと考え始めた。この目的で多くの事柄を考慮した挙句に、ついにある巧妙で簡潔な規則を発見した。―John Napier(対数の発見に関して)
ここでは,指数対数の基本的な部分を説明する。指数・対数についてを学んだことがある人には復習の,学んだことがないという人は新たな学習のきっかけとしてもらいたい。
$a$という数を2回かけ合わせたもの$a\times a$を$a^2$,3回かけ合わせたもの$a\times a\times a$を$a^3$と表す。これは,任意の自然数$n$について同じで,$a$を$n$回かけ合わせたものは$a^n$と表される。この$n$を指数という。
$m$と$n$を自然数とし,$a^m$と$a^n$をかけ合わせたものは,全部で$a$を$m+n$回かけあわせたものになるため
となる。
反対に,$a^m$を$a^n$で割ったものは,全部で$a$を$m-n$回かけ合わせたものになるため
である。 また,$a^m$を$n$回かけ合わせたもの,すなわち$(a^m)^n$は,$a$を$m\times n$回かけ合わせたものなので
となる。
このことは,$m$,$n$が自然数ではなく実数の場合も含め一般に成り立つ:
この関係より,任意の数$a$の$0$乗は
と定義すると辻褄が合うことがわかる。
例えば$a^{1/2}$のような数は,2乗すると
となる。 このように,$1/2$乗した数を
と表し,$a$の平方根,あるいはルートと呼ぶ。 これを一般化し,任意の自然数$n,m=1,2,3,...$について
という表現をする。
次に,$a$を何回かかけ合わせたら$x$になることがわかっていたとしよう。その何回かを$n$とすると,$a^n=x$である。これをひっくり返して,$n$に関する式として
と表す。これが$\log$という記号の意味であり,この「何回か」を表す$n$を対数という。 このときの$a$を底というが,底がNapier数と呼ばれる特別な数$e$であるとき
などと省略して書かれることが多い。ただ,底が$10$の時も同じ略記がされることもあるので,$e$を底としていることを明示するために$\ln{x}$という表記がされることもある。
最初の基本的な性質として,(\ref{zero})より,任意の$a$について
が成り立つ。
次に,$a$を$m$回かけたものが$y$,すなわち$a^m=y$だったとすると,$a^m \times a^n=a^{m+n}$は$x\times y$となるから,これを対数の形にすると$\log_a{xy}=m+n$,すなわち
となる。
他に重要な性質として(\ref{eq pls})と,その符号を反対にした場合の関係
および(\ref{eqmn})より,正の数$x$と実数$t$について
が成り立つ。
対数の実用的な例としては,例えば『Shannonの情報エントロピー』参照。
例題: 地震のエネルギーの規模を示す値,マグニチュード$M$は,地震により解放されるエネルギー$E$の対数を用いて
と定義される。 $M$が$1$大きくなると$E$は約$32$倍,$M$が$2$大きくなると$E$は$1000$倍になることを計算により確かめよ。 ただし,$10^{0.5}\simeq 3.2$とする。
ちなみに,東日本大震災(2011)のマグニチュードは$9$,阪神大震災(1995)および熊本地震(2016)はマグニチュード$7.3$と推定される。
さて,これまでの説明からすると,トップ画像のような
という形の式は,一般に成り立たないことがわかる。しかし
の例は間違った式ではない。それは,$1+2+3=1\cdot 2 \cdot 3=6$より,(\ref{eq pls})の等式が成り立つためである。 また,連続する自然数$n, n+1, n+2$について(\ref{abc})が成り立つのは,(\ref{123})の場合だけであることが示せる。
微分の基本法則として,任意の自然数$n$について
が成り立つのであった。 ここで
という関数を作って,その微分を考えてみる。 その前に馴染みない人のために記号の説明をしておくと,$n!$は$n$の階乗と呼ばれ,$n\cdot(n-1)\cdot(n-2)\cdot...\cdot 1$という演算を表している。 例えば$3!$であれば$3!=3\cdot 2\cdot 1=6$となる。 一番右の$ \sum_{n=0}^\infty$は,$n$に$0$から$\infty$まで代入したそれぞれの値を全部足し合わせることを示している。
こんな関数を作って何がありがたいかは,実際に微分してみるとわかる。
右辺1項目は定数の微分なので$0$,2項目は$1$,3項目は$2x/2!=x$,4項目は$3x^2/6=x/2...$となり,それぞれ微分する前に1つ前に並んでいた項に等しくなる。 これが無限に続くため,結局$f(x)$を$x$で微分した結果は
となり,微分する前と変わらないことになる。 この関数は$f(x)$はある数の$x$乗$e^x$と等しいことが示される。 つまり
である。 $e$は,$e^x$に$x=1$を代入したときの値
で,$2.71728...$という値に収束する。 これを,Euler数やNapier数と呼ぶ。
この数はまた
あるいは$h=1/n$として
と表すこともできる。 (\ref{def:e2})が(\ref{def:e1})に一致することは,二項定理を使って$(1+1/n)^n$を実際に展開し,その後に$n\to \infty$の極限を取ることで確認できる。
対数$y=\log_a {x}$の微分を定義通り考えると
となる。 2つ目の等式では(\ref{x-y})を使った。 ここで$h = \Delta x/x$とし,(\ref{def:e3})の定義を用いると
と変形できる。 上で説明した対数の基本的な関係を用いると
を示せるため,最終的に
が得られる。 特に$a=e$のとき
である。 $x < 0$の場合も同様の結果が得られるため
という公式が得られる。
続いて,$y=e^{x}$の導関数を求めるため
の微分を考える。 左辺の$x$に関する微分は,(\ref{dlnx})とチェーンルールより
となる。 一方右辺は(\ref{lnxt})より
であるから,$x$で微分すると$1$になる。 左辺と右辺を結んで
つまり,先に示した結果
が得られる。 $x$によらない量$a$が含まれた$y=e^{ax}$の微分についても,(\ref{lnex})を
と置き換えることで
となることがわかる。