はじめに
二項定理(binomial theorem)
\begin{align}
\notag
(x+y)^n
=
\sum_{k=0}^n \left(
\begin{array}{c}
n \\ k
\end{array}
\right) x^k y^{n-k}
\end{align}
は,高校で習う初等的な定理であるが,大学以降の物理を学ぶ上でもしばしば必要になる。ここでは,単純な例から始めて,二項定理の理屈を簡単に説明する。
以下を読み進める前に
\begin{align}
\notag
\left(
\begin{array}{c}
n \\ k
\end{array}
\right)
=
\frac{n!}{k!(n-k)!}
\end{align}
の関係だけ確認しておいてほしい。高校では同じものを${_n C_k}$と記すのが一般的かもしれない。
$(x+1)^n$のケース
はじめに
\begin{align}
(x+1)^2=(x+1)(x+1)
\end{align}
を展開することを考える。
この式の展開は,左の$(x+1)$から$x$か$1$を選び,右の$(x+1)$から$x$か$1$選んだものと掛け合わせたものを,全部足し合わせて得られる。
つまり,やり方としては全部で
- 左の$(x+1)$から$x$を選び,右の$(x+1)$から$x$を選んでかける:$x^2$
- 左の$(x+1)$から$x$を選び,右の$(x+1)$から$1$を選んでかける:$x$
- 左の$(x+1)$から$1$を選び,右の$(x+1)$から$x$を選んでかける:$x$
- 左の$(x+1)$から$1$を選び,右の$(x+1)$から$1$を選んでかける:$1$
のパターンがあり,これらを全部足して
\begin{align}
(x+1)^2=x^2+2x+1
\end{align}
と答えが得られる。
このとき,$x$同士の掛け算は,両方で合わせて2つある$x$から2つとも選んだ場合の$x^2$で,それは1通りしかない。
つまり
\begin{align}
\notag
\left(
\begin{array}{c}
2 \\ 2
\end{array}
\right) x^2=x^2
\end{align}
で,上の(1)に対応する。
一方,$x$が1次の項は,2つある$x$から1つだけを選んだ場合に作られる項$x \times 1$で,上の(2)と(3)に対応してその作り方は2通りあるから
\begin{align}
\notag
\left(
\begin{array}{c}
2 \\ 1
\end{array}
\right)x^1
=2x
\end{align}
である。
最後に,$x$について0次の項は,2つある$x$から1つも選ばない場合
\begin{align}
\notag
\left(
\begin{array}{c}
2 \\ 0
\end{array}
\right)x^0
=1
\end{align}
で,上の(4)に対応する。
3次の式
\begin{align}
(x+1)^3=(x+1)(x+1)(x+1)
\end{align}
についても同じで
- 3つある$x$から3つとも選ぶ:
$$
\left(
\begin{array}{c}
3 \\ 3
\end{array}
\right)x^3
=x^3
$$
- 3つある$x$から2つ選ぶ:
$$
\left(
\begin{array}{c}
3 \\ 2
\end{array}
\right)x^2
=3x^2
$$
- 3つある$x$から1つだけ選ぶ:
$$
\left(
\begin{array}{c}
3 \\ 1
\end{array}
\right)x^1
=3x
$$
-
3つある$x$から1つも選ばない:
$$
\left(
\begin{array}{c}
3 \\ 0
\end{array}
\right)x^0
=1
$$
のパターンがあり,全部足して
\begin{align}
\notag
(x+1)^3
=&
\left(
\begin{array}{c}
3 \\ 0
\end{array}
\right)x^0
+
\left(
\begin{array}{c}
3 \\ 1
\end{array}
\right)x^1
+
\left(
\begin{array}{c}
3 \\ 2
\end{array}
\right)x^2
+
\left(
\begin{array}{c}
3 \\ 3
\end{array}
\right)x^3 \\
=&
x^3+3x^2+3x+1
\end{align}
が得られる。
これらを一般化することで
\begin{align}
\notag
(x+1)^n
=&
\left(
\begin{array}{c}
n \\ 0
\end{array}
\right)x^0
+
\left(
\begin{array}{c}
n \\ 1
\end{array}
\right)x^1
+
...
+
\left(
\begin{array}{c}
n \\ n-1
\end{array}
\right)x^{n-1}
+
\left(
\begin{array}{c}
n \\ n
\end{array}
\right)x^n
\\
\label {eq:x+1}
=&
\sum_{k=0}^n \left(
\begin{array}{c}
n \\ k
\end{array}
\right) x^k
\end{align}
という公式が得られる。
$(x+y)^n$のケース
ここまでの議論からわかる通り,この関係は,(\ref{eq:x+1})の左辺に含まれる$1$を任意の数$y$に置き換えたケース
\begin{align}
(x+y)^n
\end{align}
についても一般化できる。
$n$個の$x$から$k$個を選び出す場合,$n-k$個の$y$が代わりに選択されることに注意すれば,この場合の展開式は
\begin{align}
\notag
(x+y)^n
=&
\left(
\begin{array}{c}
n \\ 0
\end{array}
\right)x^0 y^n
+
\left(
\begin{array}{c}
n \\ 1
\end{array}
\right)x^1 y^{n-1}
+
...
+
\left(
\begin{array}{c}
n \\ n-1
\end{array}
\right)x^{n-1} y^1
+
\left(
\begin{array}{c}
n \\ n
\end{array}
\right)x^n y^0
\\
=&
\sum_{k=0}^n \left(
\begin{array}{c}
n \\ k
\end{array}
\right) x^k y^{n-k}
\end{align}
となることがわかる。これが,始めに示した二項定理の一般的な形である。