群論 2022-06-05

Cartan部分代数とルート

ScienceTime Team
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Cartan部分代数とルート

Introduction

ここでは,半単純Lie代数の構造を決定す上で中心的な役割を果たすCartan部分代数とルートという概念について説明する。

※本ノートの内容について誤植の指摘と質問がありましたが,返信先が明記されていなかったため,こちらで内容の修正と補足をするとともに,感謝の意を示させていただきます。

Cartan部分代数

Lie代数の可換な部分Lie代数hがあり,そのすべての元と可換なXは,hの元にかならず含まれているとき,h極大(maximal)であるという。 形式的に述べ直すと次のようになる:

定義: Lie代数の可換な部分Lie代数hが極大であるとは,すべてのHhに対し,[X,H]=0であればXhであることをいう。

複素半単純Lie代数gの中から,互いに可換でエルミートな元

(1)Hi=Hi,[Hi,Hj]=0,i,j=1,2,...,l

を選ぶことができる。 このような元からなる部分代数のうち,次元lが最大のもの,すなわち極大なものhを,Cartan部分代数(Cartan subalgebra)という。 Cartan部分代数の構成には任意性があるが,互いに同型な写像で移り合えるので,1つのLie代数に対し本質的にはただ1つのCartan部分代数が定まる。 Cartan部分代数の次元lをLie代数g階数(rank)という。

ルート

随伴表現の性質より,各Hiについて可換

(2)[ad(Hi),ad(Hj)]=0

であるから,同時に対角化可能であり,Hermitian

(3)ad(Hi)=ad(Hi)

であるから固有値は実数である。 すなわち,l個の実数固有値をaiとし,固有値方程式

(4)ad(Hi)X=aiX,Xg

が成り立つ。

(4)においてl個のHiに対応し,l個の固有値aiがある。 これらaiは,hの双対空間hの元を,基底eiを用いて

(5)α=i=1laiei=a1e1+a2e2++alel

と展開した時の係数に対応する。 このαのうち,ゼロでないものをルート(root)という。 この関係については以下で内積を導入したのちに再び議論する

特定のルートα=iaieiに対し(4)を満たすXgを,Eαと表す。 すなわち

(6)ad(Hi)Eα=[Hi,Eα]=aiEα

である。 この式を満たすために,Eαには定数倍の任意性があることに注意しよう。 またこの式のエルミート共役は

(7)[Hi,Eα]=[Hi,Eα]=αEα

であるから,αがルートであれば,αもルートであり

(8)Eα=Eα

が対応する固有ベクトルになることがわかる。

2つのルート

(9)α=i=1laiei,β=i=1lbiei,

に対し

(10)ad(Hi)[Eα,Eβ]=[[Hi,Eα],Eβ]+[Eα,[Hi,Eβ]]=[ad(Hi)Eα,Eβ]+[Eα,ad(Hi)Eβ]=ai[Eα,Eβ]+bi[Eα,Eβ]=(ai+bi)[Eα,Eβ]

であるから,α=β のとき

(11)ad(Hi)[Eα,Eα]=0

となる。 [Eα,Eα]はすべてのHiと交換するgの元であるから,すなわちhの元であり

(12)[Eα,Eα]=Hαi=1laiHi,

と表すことができる。

Killing形式とCartan計量

hh,したがってaiaiを関係づける計量を定義しよう。 Hα,HiKilling形式を計算してみると

(13)B(Hi,Hα)=tr(ad(Hi),ad([Eα,Eα]))=tr(ad(Hi)ad(j=1lajHj))=trj=1laj(ad(Hi)ad(Hj))

となる。 他方,同じ量は

(14)B(Hi,Hα)=tr(ad(Hi)[ad(Eα),ad(Eα)])=tr([ad(Hi),ad(Eα)]ad(Eα)])=tr(ad([Hi,Eα])ad(Eα)])=aitr(ad(Eα)ad(Eα))

でもあり,適当な規格化によって

(15)tr(ad(Eα)ad(Eα))=1

とできるから,Hi,HjのKilling形式

(16)gijtr(ad(Hi)ad(Hj))

が計量テンソルの役割を果たし

(17)ai=j=1lgijaj

が成り立つ。 ここで,(16)をCartan計量(Cartan metric)という。 これを用いると,h上の内積を

(18)α(Hβ)=(α,β)=B(Hα,Hβ)=i,j=1lgijaibj

と定義することができる(h上でKilling形式が非退化になることについては『ルートの性質』を参照)。

ルート(再)

内積が定義できたので,これを利用して再びhhおよびルートの関係を整理しておこう。 基底{Hi}の同時固有ベクトルをXとすると,(4)より何らかのH=iaiHihについて

(19)ad(H)X=ad(i=1laiHi)X=i=1laiad(Hi)X=i=1laiaiX

が成り立つ。 ここでaihの基底eiHの内積

(20)ai=ei(H)=ei(j=1lajHj)

で与えられるから

(21)i=1lei(H)aiX=α(H)X

と書き換えられる。 したがって

(22)ad(H)X=α(H)X

である。 改めて,すべてのHについて,上の固有値方程式を成り立たせるαのうち,ゼロでないものがルートである。

References

  • Arvanitogeōrgos, A. (2003). An Introduction to Lie groups and the Geometry of Homogeneous Spaces. American Mathematical Society.
  • Bincer, A. M. (2013). Lie Groups and Lie Algebras: A Physicist's Perspective. Oxford University Press.
  • Das, A., & Okubo, S. (2014). Lie Groups and Lie Algebras for Physicists. World Scientific.
  • Georgi, H. (2018). Lie Algebras in Particle Physics: From Isospin to Unified Theories. CRC Press.
  • 佐藤 肇. (2000). リー代数入門: 線形代数の続編として. 裳華房.
  • 島和久. (1981). 連続群とその表現. 岩波書店.