行列のノルムと指数関数

Dr. SSS 2020/12/03 - 10:32:18 群論
はじめに

物理においては,例えばLie群の扱いなどで必要になる行列の列の収束や,正方行列の指数表示などについて説明する。


keywords: 線形代数, 距離空間, Lie群, 行列, 一般線形群, 群論

内容

行列のノルムと距離

$n$次の複素正方行列の集合を$M(n,C)$と表し,その元について考える。 行列$A\in M(n,C)$の$(i,j)$成分を$a_{ij}$としたとき,$A$のノルムは

\begin{align} \| A \|=\sqrt{\sum_{i,j} a_{ij}^2} \end{align}

で定義される。 任意の行列$A,B$と複素数$c \in C$について,以下の性質が成り立つ。

  1. $\| A \| \geq 0$
  2. $\| A\|=0 \Longleftrightarrow A=0$
  3. $\|c A \|=|c| \|A\|$
  4. $\| A+B\| \leq \|A\|+\|B\|$
  5. $\| AB\| \leq\|A\|\|B\|$

また,行列$A$と$B$の距離を

\begin{align} d(A,B)=\|A-B\| \end{align}

で定める。

性質2より,行列の列$A_1,A_2,...$が

\begin{align} \lim_{k\to \infty}\|A_k-A\|=0 \end{align}

を満たすとき

\begin{align} \lim_{k\to \infty}A_k \to A \end{align}

である。 これを,列$A_1,A_2,...$が$A$に収束するという。




行列の指数関数

行列$A$の指数関数は

\begin{align} \label {eq:expA} \exp{A} = e^A \equiv I+\frac{A}{1!}+\frac{A^2}{2!}+... = \sum_{k=0}^\infty \frac{A^k}{k!} \end{align}

で定義される。 ここで,$A^0$は$A$と同じ次数の単位行列$I$に等しいとする。 この右辺の無限級数は任意の行列について収束する。

proof   (\ref{eq:expA})の右辺は $$ \sum_{k=0}^n \frac{A^k}{k!} $$ について$n \to \infty$の極限を取ったものであるため

\begin{align} s_n= \sum_{k=0}^n \frac{A^k}{k!}, \ \ S_n= \sum_{k=0}^n \frac{\|A\| ^k}{k!} \end{align}

といった量について考える。 $n>m$である自然数$n,m$について

\begin{align} \|s_n -s_m\| , \ \ |S_n -S_m| \end{align}

を定義すると

\begin{align} \|s_n -s_m\| =& \left\| \sum_{k=0}^n \frac{A^k}{k!} - \sum_{k=0}^m \frac{A^k}{k!}\right\| = \left\| \sum_{k=m+1}^n \frac{A^k}{k!} \right\| \notag \\ =& \left\| \frac{A^{m+1}}{(m+1)!}+\frac{A^{m+2}}{(m+2)!}+...+ \frac{A^{n}}{n!}\right\| \end{align}

および

\begin{align} |S_n -S_m| =& \left| \sum_{k=0}^n \frac{\|A\|^k}{k!} - \sum_{k=0}^m \frac{\|A\|^k}{k!}\right| = \sum_{k=m+1}^n \frac{\|A\|^k}{k!} \notag \\ =& \frac{\|A\|^{m+1}}{(m+1)!}+\frac{\|A\|^{m+2}}{(m+2)!}+...+ \frac{\|A\|^{n}}{n!} \end{align}

であり,ノルムの関係3および4(和のノルムはノルムの和以下)と5(積のノルムはノルムの積以下)を使うと

\begin{align} \|s_n -s_m\| \leq |S_n -S_m| \end{align}

の関係が成り立つことがわかる。 $S_n$は定義より$e^{\|A\|}$に収束するから,上式より,$s_n$も収束することがわかる。

この表現について,次のことが言える:

$A,B \in M(n,C)$について,$AB=BA$であれば

\begin{align} e^A e^B=e^{A+B} \end{align}

の関係が成り立つ。

これは次のように示せる。

\begin{align} e^{A+B} =&\sum_{j=0}^\infty \frac{1}{j!}(A+B)^j =\sum_{j=0}^\infty \frac{1}{j!} \sum_{k=0}^j \frac{j!}{k!(j-k)!} A^k B^{j-k} \notag \\ =&\sum_{j=0}^\infty \sum_{k=0}^j \frac{A^k}{k!} \frac{B^{j-k}}{(j-k)!} =\left(\sum_{k=0}^\infty \frac{A^k}{k!} \right) \left(\sum_{l=0}^\infty \frac{B^l}{l!} \right) \notag \\ \label{eq:eAeBproof} =& e^A e^B \end{align}

ここで,1行目の2つ目の等式で二項定理を使った。 2行目の和の置き換えは次のように考えるとわかりやすい。

$e^A e^B$は,無限級数に展開して考えると

\begin{align} \label{eq:eAeBsum} \left(1+A+\frac{A^2}{2!}+\frac{A^3}{3!}+...\right) \left(1+B+\frac{B^2}{2!}+\frac{B^3}{3!}+...\right) \end{align}

である。 平面上の点$(k,l)$($k,l$は自然数)を,(\ref{eq:eAeBsum})の展開に現れる$(A^k/k!)(B^l/l!)$に対応付けると

\begin{equation} \begin{split} 1\times &(1+B+\frac{B^2}{2!}+\frac{B^3}{3!}+...)\\ A&\times (1+B+\frac{B^2}{2!}+\frac{B^3}{3!}+...) \\ &\frac{A^2}{2!}\times (1+B+\frac{B^2}{2!}+\frac{B^3}{3!}+...) \\ &... \end{split} \end{equation}

と計算していく過程は(実際にはそれぞれ無限級数であるが),下図の左のように格子点を拾っていくことに対応する。 他方,式(\ref{eq:eAeBproof})の $$ \sum_{j=0}^\infty \sum_{k=0}^j \frac{A^k}{k!} \frac{B^{j-k}}{(j-k)!} $$ のような和は,図の右のような拾い方に対応している。

式(\ref{eq:eAeBproof})における和の置き換えのイメージ


参考文献


自然科学に関する質問やノート作りは『AfterSchool』で。