群論 2020-12-03

行列のノルムと指数関数

ScienceTime Team
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行列のノルムと指数関数

Introduction

物理においては,例えばLie群の扱いなどで必要になる行列の列の収束や,正方行列の指数表示などについて説明する。

行列のノルムと距離

n次の複素正方行列の集合をM(n,C)と表し,その元について考える。 行列AM(n,C)(i,j)成分をaijとしたとき,Aのノルムは

(1)A=i,jaij2

で定義される。 任意の行列A,Bと複素数cCについて,以下の性質が成り立つ。

  1. A0
  2. A=0A=0
  3. cA=|c|A
  4. A+BA+B
  5. ABAB

また,行列ABの距離を

(2)d(A,B)=AB

で定める。

性質2より,行列の列A1,A2,...

(3)limkAkA=0

を満たすとき

(4)limkAkA

である。 これを,列A1,A2,...Aに収束するという。


行列の指数関数

行列Aの指数関数は

(5)expA=eAI+A1!+A22!+...=k=0Akk!

で定義される。 ここで,A0Aと同じ次数の単位行列Iに等しいとする。 この右辺の無限級数は任意の行列について収束する。

proof   (5)の右辺は k=0nAkk! についてnの極限を取ったものであるため

(6)sn=k=0nAkk!,  Sn=k=0nAkk!

といった量について考える。 n>mである自然数n,mについて

(7)snsm,  |SnSm|

を定義すると

snsm=k=0nAkk!k=0mAkk!=k=m+1nAkk!(8)=Am+1(m+1)!+Am+2(m+2)!+...+Ann!

および

|SnSm|=|k=0nAkk!k=0mAkk!|=k=m+1nAkk!(9)=Am+1(m+1)!+Am+2(m+2)!+...+Ann!

であり,ノルムの関係3および4(和のノルムはノルムの和以下)と5(積のノルムはノルムの積以下)を使うと

(10)snsm|SnSm|

の関係が成り立つことがわかる。 Snは定義よりeAに収束するから,上式より,snも収束することがわかる。

この表現について,次のことが言える:

A,BM(n,C)について,AB=BAであれば

(11)eAeB=eA+B

の関係が成り立つ。

これは次のように示せる。

eA+B=j=01j!(A+B)j=j=01j!k=0jj!k!(jk)!AkBjk=j=0k=0jAkk!Bjk(jk)!=(k=0Akk!)(l=0Bll!)(12)=eAeB

ここで,1行目の2つ目の等式で二項定理を使った。 2行目の和の置き換えは次のように考えるとわかりやすい。

eAeBは,無限級数に展開して考えると

(13)(1+A+A22!+A33!+...)(1+B+B22!+B33!+...)

である。 平面上の点(k,l)k,lは自然数)を,(13)の展開に現れる(Ak/k!)(Bl/l!)に対応付けると

(14)1×(1+B+B22!+B33!+...)A×(1+B+B22!+B33!+...)A22!×(1+B+B22!+B33!+...)...

と計算していく過程は(実際にはそれぞれ無限級数であるが),下図の左のように格子点を拾っていくことに対応する。 他方,式(12)の j=0k=0jAkk!Bjk(jk)! のような和は,図の右のような拾い方に対応している。

式(12)における和の置き換えのイメージ