集合とは

Dr. SSS 2020/12/25 - 16:36:11 992 集合論
はじめに

独立した数学分野としての集合論は,19世紀後半のGeorg Cantorの研究に始まる。 Cantorが用いた集合の定義からは,いくつかの深刻な矛盾が生じることが後にわかった。 その後,それらの矛盾を回避するため,いくつかの公理に基づくより慎重な体系が整備された。 ここではまず,初期の素朴な理論を通じて,集合論の基本概念を提示する。


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内容

集合とは

素朴な見方では,「集合」という概念は日常的な感覚の通り,「ものの集まり」を指しており, 例えば「(既知の)動物種の集合」というと,我々ホモ・サピエンス(あるいはホモ・ペルニシオサス(Benatar 2015))を含めた動物種を集めたものになる。 Cantorも,集合という概念を次のように定義している。

集合とは,我々の直感や思考の対象となる明確に区別されたもの(objects)$m$を,一つにまとめたもの$M$のことであると理解する。

ある集合を構成する個々のものを,または要素(element)と呼ぶ。 そして,ある元$x$が$A$に属しているということを,$x \in A$や$A\ni x$のように表す。 反対に,$x$が$A$に属さないことを$x \notin A$のように表す。 集合はもの(objects)の集まりとはいえ,その定義には単一の元から成る集合も含まれる。 このような集合をsingletonと呼ぶ。さらに,元を1つも含まないものも,集合とみなされる。 これを$\emptyset$で表し,空集合(empty set)と呼ぶ。

集合の表し方としては,その集合の元である条件$\varphi(x)$を用い

\begin{align} \label{eq:set_expression1} A=\{x \ | \ \varphi(x) \} \end{align}

のように表す。 あるいは,元をそのまま羅列して

\begin{align} A=\{a,b,c,... \} \end{align}

のように表すこともできる。

素朴な集合論の枠組みでは,任意の条件について,それ満たすものの集まりが集合として認められる。 これを無制限な内包公理,あるいはナイーブな内包原理などともいう(ナイーブではない内包公理はコチラで扱っている)。

いくつかの集合については次のような特別な記号を用いることが一般的である。 例えば

\begin{equation} \notag \begin{split} \mathbb{N}=&\{0,1,2,3,4,...\}, \quad \text{自然数の集合}, \\ \mathbb{Z}=&\{0, \pm 1,\pm 2,\pm 3,...\}, \quad \text{整数の集合}, \\ \mathbb{Q}=&\{a/b \ | \ a,b \in Z, \ b \neq 0\}, \quad \text{有理数の集合}, \\ \mathbb{R}=&\text{実数の集合} \end{split} \end{equation}

である。 ここで,「...」はそこから無限に数が続くことを示している。 「$\pm$」は$+$の場合も$-$の場合も含めるということである。 $\mathbb{Q}$の定義は,分数で表せる数であるということを示している。

日常的な場面では,メンバーが同じでも,異なる名前や役割の組織というのは存在するが,集合論的にはメンバーが同じ集合は同一のものとみなされる。 つまり,2つの集合$A$,$B$がまったく同じ元から成立っているとき,それらは等しい$(A=B)$という。これを外延性公理(axiom of extensionality)という。 このことを論理記号を使うと

\begin{align} \forall x (x\in A \leftrightarrow x\in B) \to A=B \end{align}

と表せる。 ここで$\forall x$は「すべての$x$について」の意味で,その隣の括弧内の式が,$x$についての条件を示している。 矢印は,そのお尻の条件が真なら,その頭が指す先の条件も真であることを表す。 $\leftrightarrow$は双方についてその関係が成り立つことを示している。


部分集合と包含関係

集合$B$の元がすべて集合$A$にも含まれるとき,すなわち$x \in B$ならば$x\in A$が常に成り立つとき,$B$は$A$の部分集合(subset)と言い$B \subset A$や$A\supset B$で表す(図1)。 空集合や$A$自身もまた$A$の部分集合とみなされる。

図1:$x\in B \subset A$の関係。

$A=B$であるというのは,すなわち$B \subset A$かつ$A \subset B$であるということである。 $\subset$や$=$で表される関係を包含関係(inclusion relation)という。

例: ホモ・サピエンスの個体の集合$\mathbb{HS}$は動物の個体の集合$\mathbb{A}$の部分集合である。 また,$\mathbb{A}$は生物個体の集合$\mathbb{L}$の部分集合である:

\begin{align} \mathbb{HS} \subset \mathbb{A} \subset \mathbb{L} \end{align}


集合$A=\{ a, b, c \}$の部分集合は

\begin{align} \label{A_subset} \emptyset, \{a \}, \{b\}, \{c\}, \{a,b\}, \{a,c\}, \{b,c\}, \{a,b,c\} \end{align}

である。




共通部分と和集合

$A$にも$B$にも属する元からなる集合を,$A$と$B$の共通部分(intersection)といい,$A\cap B$と表す。 「かつ(and)」に対応する論理記号$\land$を導入し,(\ref{eq:set_expression1})の記法を用いれば

\begin{align} A\cap B = \{x \ | \ x\in A \land x \in B \} \end{align}

である。 $A$か$B$,少なくともどちらかに属する元からなる集合を,$A$と$B$の和集合(union)といい,「または(or)」を表す記号$\lor$を導入すれば

\begin{align} A\cup B = \{x \ | \ x\in A \lor x \in B \} \end{align}

と表される。

図2:$A\cap B$(左)および$A\cup B$(右)。

全体集合とDe Morganの法則

集合について考えるとき,対象を限定化して明確化するために,ある部分集合$U$に限って話を進めることが多い。 このときの$U$を,全体集合(universal set)という。 $U$の部分集合$A$に対し,$A$に属さない元からなる集合を,$A$の補集合(complement)といい,$\overline{A}$と表す(図3)。 すなわち

\begin{align} \overline{A} = \{x \ | \ x\in U \land x \notin A \} \end{align}

である。

図3:$A$と$\overline{A}$。


De Morganの法則: 全体集合$U$およびその部分集合$A$および$B$について,次の関係が成り立つ:

\begin{align} \overline{A\cap B} =\overline{A}\cup \overline{B}, \quad \overline{A\cup B} =\overline{A}\cap \overline{B} \end{align}


図4:$\overline{A\cap B} =\overline{A}\cup \overline{B}$(左)および $\overline{A\cup B} =\overline{A}\cap \overline{B}$(右)。


参考文献

  • Benatar, D. (2015). The misanthropic argument for anti-natalism. Permissible progeny: The morality of procreation and parenting, 34-64.
    (またはBenatar, D. and Wasserman, D. (2015). Debating Procreation: Is it Wrong to Reproduce? Oxford University Press.)