接バンドルとベクトル場および積分曲線

Dr. SSS 2021/01/24 - 10:43:55 3966 微分幾何学
Yapparina, CC0, via Wikimedia Commons
はじめに

ここでは,多様体における接バンドル,ベクトル場そしてベクトル場の積分曲線といった概念について説明する。 以下,$C^\infty$級多様体を念頭に議論するため,特に断りのない限り,多様体という言葉は$C^\infty$級多様体を指すものとする。 また,Einsteinの規約に従い,上下繰り返しの添え字は和を取ることとする($\pd_i \equiv \pd/\pd x^i$は右辺の表現でも下付きとみなす)。


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内容

多様体上の関数

多様体$M$上の接ベクトルをすべて集めたもの,すなわち接空間の和集合

\begin{align} TM \equiv \bigcup_{p\in M}T_p M \end{align}

も1つの多様体であり,接バンドル(tangent bundle)と呼ばれる。

接バンドル$TM$の元は接ベクトル$\bm{v}_p$であるから,多様体としての$TM$上の点は,$M$の点$p$と対応する接ベクトル$\bm{v}_p$の組$(p,\bm{v}_p)$で指定される。

点$p$を局所座標$(x^1,...,x^n)$,$\bm{v}_p$をその成分

\begin{align} v^i \equiv \frac{dx^i}{dt}, \quad (i=1,2,...,n) \end{align}

を使って表せば,接バンドル上の点は

\begin{align} (x^1,...,x^n, v^1,...,v^n) \end{align}

と馴染み深い表現によって表せる。 実際,質点の位置と速度で座標が指定される力学における状態空間は,微分幾何学の観点から見れば配位空間の接バンドルに他ならない。




ベクトル場と積分曲線

多様体$M$上の各点$p$に対して,接ベクトル$\bm{v}_p \in T_p M$を1つずつ対応付ける規則

\begin{align} X:M\to TM ,\ p\in M\to \bm{v}_p \in T_p M \end{align}

ベクトル場(vector field)という。 これについても,流体の速度場や電磁場のような純粋な物理的文脈で語られる例をイメージするといい。

ある点からスタートし,ベクトル場$X$の規則に従って定まるベクトルに沿って点をつないで得られる曲線を,ベクトル場$X$の積分曲線(integral curve)という。 つまり,ある点における接ベクトルが,ベクトル場$X$によって指定されるベクトルと一致するということだから,積分曲線とは,曲線のパラメータ領域$(a,b)$に渡って

\begin{align} \label{eq:int_curve} \left. \frac{dc}{dt} \right|_t = X(c(t)) \end{align}

を満たす曲線$c$ということである。

(\ref{eq:int_curve})の左辺は,局所座標で表すと

\begin{align} \left. \frac{dc}{dt} \right|_t = \frac{dx^i(t)}{d t} \left( \frac{\pd}{\pd x^i} \right)_{c(t)} \end{align}

である。 他方,右辺のベクトルは

\begin{align} X(c(t)) = X^i(c(t)) \left( \frac{\pd}{\pd x^i} \right)_{c(t)} \end{align}

と表現できるから,(\ref{eq:int_curve})は

\begin{align} \frac{dx^i(t)}{dt} =X^i(x^1(t),...,x^n(t)), \quad (i=1,...,n) \end{align}

という$n$個の微分方程式として書き表せる。


参考文献