固有空間と固有空間分解

Dr. SSS 2021/06/23 - 11:36:05 4650 線形代数とベクトル解析
はじめに

ここでは,固有空間と,それによるベクトル空間の直和分解について説明する。


keywords: 線形代数, ベクトル空間, 線形変換, 固有値, 固有値問題, 固有ベクトル, 固有空間

内容

固有空間

$V$を$C$上のベクトル空間,$A$を$V$の線形変換とする。 $A$の固有値$\lambda$に対して定義される$V$の部分空間

\begin{align} W(\lambda)\equiv \{ \bm{x}\in V \ | \ (A-\lambda I) \bm{x}=0 \} \end{align}

を,固有値$\lambda$に属する(対応する)固有空間(eigenspace)という。 同じものを$W_\lambda$のようにも記す。

ベクトル空間$V$の部分空間$W$が

\begin{align} \bm{x}\in W \to A\bm{x}\in W \end{align}

を満たすとき,$W$は$A$に対して不変(invariant),または$A$-不変であるというが,線形変換$A$の固有ベクトルは$A$によって定数倍されるだけであるため,$A$の固有空間はすべて$A$-不変である。




固有空間分解

ベクトル空間$V$の部分空間$V_1,V_2$の和$V_1+V_2$を

\begin{align} V_1+V_2 = \{v_1+v_2 \in V \ | \ v_1 \in V_1, v_2 \in V_2 \} \end{align}

で定義する。 特に,$V_1 \cap V_2=\emptyset$であるとき,この和を直和(direct sum)といい,$V_1 \oplus V_2$と表す。

命題: $V$上の$n$次線形変換$A$が対角化可能なら,$V$は固有空間の直和に分解できる。

proof   対角化可能であるための条件より,$A$が対角化可能であるということは,$A$は$n$個の線形独立な固有ベクトルを持つということである。 これら$n$個の固有ベクトルは$V$の基底となる。 よって,$V$の任意の元はこれらのベクトルの線形結合として表せる。 このとき,これら各ベクトルに対応する固有値を$\lambda_i$,対応する固有空間を$W(\lambda_i)$とすると

\begin{align} W(\lambda_i) \cap W(\lambda_j)=\emptyset, (i\neq j) \end{align}

であるから

\begin{align} V=W(\lambda_1)\oplus ...\oplus W(\lambda_n) \end{align}

と$V$を固有空間の直和で表せる。

この固有空間によるベクトル空間の直和分解を,固有空間分解(eigenspace decomposition)という。



参考文献