双一次形式

Dr. SSS 2021/05/30 - 11:25:59 線形代数とベクトル解析
はじめに

双一次形式とは,2つのベクトルからスカラー(実数,複素数,四元数など)を与える双線形な(それぞれの引数に対して線形な)関数のことである。 最も身近な例が,Euclid空間上の内積である。 以下で,これについてより形式的な定義と,いくつかの性質についての説明を与える。


keywords: 線形代数, ベクトル空間, 内積

内容

双一次形式の定義

定義双一次形式(bilinear form)または双線形形式とは$U,V$を体$F$上のベクトル空間としたとき,$U\times V$から$F$への写像で,次の条件を満たすものである:

\begin{align} \notag B(ax+bx',y)=&aB(x,y)+bB(x',y) \\ \notag B(x,ay+by')=&aB(x,y)+bB(x,y') \end{align}

ここで,$x,x' \in U, y,y' \in V$である。

双一次形式$B$は,任意の$x,y$について$B(x,y)=B(y,x)$であるとき対称(symmetric),$B(x,y)=-B(x,y)$であるとき反対称(anti-symmetric)または歪対称(skew-symmetric),$B(x,x)=0$であるときシンプレクティック(symplectic)であるという。


行列表現

以下,$U=V$の場合に限って考える。

$V$の次元を$n$とし,その基底を$\{ \bm{e}_i \}_{i=1}^n$とすると,双一次形式は行列

\begin{align} B_{ij}=B(\bm{e}_i,\bm{e}_j) \end{align}

によって一意に決定できる。

実際$x=\sum_i x_i \bm{e}_i$,$y=\sum_j y_j \bm{e}_j$とすると

\begin{align} B(x,y) = \sum_{ij} B(x_i\bm{e}_i,y_j\bm{e}_j) = \sum_{ij} B_{ij}x_iy_j \end{align}

である。




非退化性

$x,y \in V$に対し

\begin{align} B_y(x)=B(x,y) \end{align}

とすれば,$B_y$は$V$上の線形関数となる。 任意の$y\in V$に対して$B(x,y)=0$なら,$x=0$であるとき,$B$は非退化(non-degenerate)であるという。

非退化である場合,任意の$y\in V$について$B_x(y)=B(x,y)=0$なら,$x=0$ということであるが,これは

\begin{align} B_{x-x'}=0 \to B_x-B_{x'}=0 \to x-x'=0 \end{align}

より写像$\varphi: V\to V^* , x\to B_x$が単射であることを意味し,かつその逆も成り立つから,$V$と$V^*$の元は一対一に対応付けられる(すなわち$V$と$V^*$は同型)。 よって

双線形関数$B$が非退化であるためには,写像$\varphi: V\to V^* , x\to B_x$が同型写像であることが必要十分条件である。


Euclid内積

上で導入した概念を用いて,実Euclid空間$R^n$における内積の定義を与えよう。 Euclid空間$R^n$上の内積とは,任意の2つの数ベクトル$\bm{x}=(x^1,...,x^n)$と$\bm{y}=(y^1,...,y^n)$を,実数に対応付ける非退化な関数

\begin{align} \langle \bm{x},\bm{y} \rangle = x^i y^i \end{align}

のことであり,以下のいくつかの性質を満たす。

まず,対称性

\begin{align} \langle\bm{x},\bm{y}\rangle = \langle\bm{y},\bm{x}\rangle \end{align}

および双線形性

\begin{align} \langle a\bm{x}+b\bm{x}',\bm{y}\rangle = & a\langle\bm{x},\bm{y}\rangle + b\langle\bm{x}',\bm{y}\rangle \\ % \langle \bm{x},a\bm{y}+b\bm{y}' \rangle = & a\langle\bm{x},\bm{y}\rangle + b\langle\bm{x},\bm{y}' \rangle \end{align}

である。

さらに,同一のベクトル同士の内積について

\begin{align} \langle\bm{x},\bm{x}\rangle \geq 0 \end{align}

であり,等式が成り立つときは$\bm{x}=0$に限られる。 $\bm{x}=0$でない場合,必ず正の値を取ることを正定値性(positive definiteness)という。

これらをまとめると,実Euclid空間における内積とは,「非退化で正定値かつ対称な双線形関数のこと」であるといえる。



参考文献