Cartan部分代数
複素半単純Lie代数$\frg$の中から,互いに可換でエルミートな元
\begin{align}
H_i^\dagger = H_i,
\quad
[H_i,H_j]=0,
\quad
i,j=1,2,...,l
\end{align}
を選ぶことができる。
このような元からなる部分代数のうち,次元$l$が最大のもの$\frh$を,Cartan部分代数(Cartan subalgebra)という。
Cartan部分代数の構成には任意性があるが,互いに同型な写像で移り合えるので,1つのLie代数に対し本質的にはただ1つのCartan部分代数が定まる。
Cartan部分代数の次元$l$をLie代数$\frg$の階数(rank)という
各$H_i$の随伴表現についても
\begin{align}
[\ad(H_i),\ad(H_j)]=0,
\quad
\ad(H_i)^\dagger=\ad(H_i)
\end{align}
であるから,$l$個の$\ad(H_i)$も実数固有値によって同時に対角化可能である。
すなわち
\begin{align}
\label{eq:adX_aX}
\ad(H_i)X=a_i X,
\quad
X\in \frg
\end{align}
である。
ルート
各$H_i$に対応し,$l$個の$a_i$が存在し,それらは$\frh$の双対空間$\frh^*$を構成する。
$\frh^*$の任意の元$\alpha$は,基底$\bm{e}^i= \alpha_i$を用いて
\begin{align}
\alpha=\sum_{i=1}^l a_i \bm{e}^i
\end{align}
と表すことができる。
これを,ルート(root)という。
特定の$\alpha=\sum_i a_i\bm{e}^i$に対し(\ref{eq:adX_aX})を満たす$X\in\frg$を,$E_\alpha$と表す。
すなわち
\begin{align}
\ad(H_i)E_\alpha=[H_i,E_\alpha]=a_i E_\alpha
\end{align}
である。
この式を満たすために,$E_\alpha$には定数倍の任意性があることに注意しよう。
またこの式のエルミート共役は
\begin{align}
[H_i,E_\alpha]^\dagger
=
-[H_i,E_\alpha^\dagger]
=
-\alpha E_\alpha^\dagger
\end{align}
であるから,$\alpha$がルートであれば,$-\alpha$もルートであり
\begin{align}
E_{-\alpha}=E_\alpha^\dagger
\end{align}
が対応する固有ベクトルになることがわかる。
2つのルート
\begin{align}
\alpha=\sum_{i=1}^l a_i \bm{e}^i,
\quad
\beta=\sum_{i=1}^l b_i \bm{e}^i,
\end{align}
に対し
\begin{equation}
\begin{split}
\ad(H_i)[E_\alpha,E_\beta]
=&
[[H_i,E_\alpha],E_\beta]+[E_\alpha,[H_i,E_\beta]] \\
=&
[\ad(H_i)E_\alpha,E_\beta]+[E_\alpha,\ad(H_i)E_\beta] \\
=&
a_i[E_\alpha,E_\beta]+b_i[E_\alpha,E_\beta]\\
=&(a_i+b_i)[E_\alpha,E_\beta]
\end{split}
\end{equation}
であるから,$\alpha=-\beta$
のとき
\begin{align}
\ad(H_i)[E_\alpha,E_{-\alpha}]=0
\end{align}
となる。
$[E_\alpha,E_{-\alpha}]$はすべての$H_i$と交換する$\frg$の元であるから,すなわち$\frh$の元であり
\begin{align}
[E_\alpha,E_{-\alpha}]
=H_\alpha
\equiv \sum_{i=1}^l a^i H_i,
\end{align}
と表すことができる。
Killing形式とCartan計量
$a_i$と$a^i$を関係づける計量定義しよう。
$H_\alpha,H_i$のKilling形式を計算してみると
\begin{equation}
\begin{split}
B(H_i,H_\alpha)
=&
\tr(\ad(H_i),\ad([E_\alpha,E_{-\alpha}])) \\
=&
\tr\left(\ad(H_i) \ad(\sum_{j=1}^l a^j H_j)\right) \\
=&
\tr\sum_{j=1}^la^j
\left(\ad(H_i) \ad(H_j)\right)
\end{split}
\end{equation}
となる。
他方,同じ量は
\begin{equation}
\begin{split}
B(H_i,H_\alpha)
=&
\tr(\ad(H_i)[\ad(E_\alpha),\ad(E_{-\alpha})]) \\
=&
\tr([\ad(H_i),\ad(E_\alpha)]\ad(E_{-\alpha})]) \\
=&
\tr(\ad([H_i,E_\alpha])\ad(E_{-\alpha})]) \\
=&
a_i\tr(\ad(E_\alpha)\ad(E_{-\alpha}))
\end{split}
\end{equation}
でもあり,適当な規格化によって
\begin{align}
\tr(\ad(E_\alpha)\ad(E_{-\alpha}))=1
\end{align}
とできるから,$H_i,H_j$のKilling形式
\begin{align}
\label{eq:cartanMetric}
g_{ij}\equiv \tr(\ad(H_i)\ad(H_j))
\end{align}
が計量テンソルの役割を果たし
\begin{align}
a_i=\sum_{j=1}^l g_{ij}a^j
\end{align}
が成り立つ。
ここで,(\ref{eq:cartanMetric})をCartan計量(Cartan metric)という。
これを用いると,$\frh$上の内積を
\begin{align}
\alpha(H_\beta)
=
(\alpha,\beta)
=
B(H_\alpha,H_\beta)
=
\sum_{i,j=1}^l g_{ij} a^i b^j
\end{align}
と定義することができる($\frh$上でKilling形式が非退化になることについては『ルートの性質』を参照)。