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    スピノル:$SO(3)$と$SU(2)$の対応

    Dr. SSS 2021/09/12 - 11:04:17 3288 群論
    はじめに

    3次元回転$SO(3)$は,2次元単位球面$S^2$上の点を$S^2$に写す変換とみなすことができるが, 立体射影を利用し,$S^2$上の点を複素平面上の点に対応付けることで,$SO(3)$の元を,$SU(2)$の元に対応付けることができる。 このとき,$SU(2)$の表現空間の元として,スピノルと呼ばれる量が導入される。


    keywords: Lie群, 回転群, スピノル, 複素解析

    $S^2$と複素平面の対応

    立体射影を行うと,2次元球面$S^2$上の点$\bm{x}=(x,y,z)$と,$z=0$に定義される複素平面上の点$\zeta$の対応は

    \begin{align} \label{eq:xyz} x= \frac{\zeta+\zeta^*}{|\zeta|^2+1}, \quad y= \frac{\zeta-\zeta^*}{i(|\zeta|^2+1)}, \quad z=\frac{|\zeta|^2-1}{|\zeta|^2+1} \end{align}

    となる。

    しかし,このままでは北極$N=(0,0,1)$への対応付けができない。 これに対処するため,$\zeta=\xi_1/\xi_2$とし,2つの複素数$\xi_1,\xi_2$を導入する。 これらを用いることで(\ref{eq:xyz})は

    \begin{align} \label{eq:xyz2} x= \frac{\xi_1 \xi_2^*+\xi_1^*\xi_2}{|\xi_1|^2+|\xi_2|^2}, \quad y= \frac{\xi_1 \xi_2^*-\xi_1^*\xi_2}{i(|\xi_1|^2+|\xi_2|^2)}, \quad z=\frac{|\xi_1|^2-|\xi_2|^2}{|\xi_1|^2+|\xi_2|^2} \end{align}

    と書き換えられ,北極$N$は$\xi_1\neq0,\ \xi_2=0$に対応付けられる。




    $SO(3)$と$SU(2)$の対応

    $z$軸周りの角度$\alpha$の回転により,$(x,y,z)$は

    \begin{align} (x+iy)\to e^{i\alpha}(x+iy), \quad z\to z \end{align}

    という変換を受ける。 この変換を,$\xi_1,\xi_2$に対する変換として表そうとすれば,(\ref{eq:xyz2})より

    \begin{align} U_z(\alpha) = \left( \begin{array}{cc} e^{i\alpha} & 0 \\ 0 & e^{-i\alpha} \end{array} \right) \end{align}

    を用いて

    \begin{align} \left( \begin{array}{c} \xi_1 \\ \xi_2 \end{array} \right) \to U_z(\alpha) \left( \begin{array}{c} \xi_1 \\ \xi_2 \end{array} \right) \end{align}

    とすればよいと分かる。

    同様に,$y$軸周りの回転は,回転角を$\beta$とし

    \begin{align} (z+ix)\to e^{i\alpha}(z+ix), \quad y\to y \end{align}

    であり,対応する$\xi_1,\xi_2$に対する変換は

    \begin{align} U_y(\beta)= \left( \begin{array}{cc} \cos{\frac{\beta}{2}} & \sin{\frac{\beta}{2}} \\ -\sin{\frac{\beta}{2}} & \cos{\frac{\beta}{2}} \end{array} \right) \end{align}

    により

    \begin{align} \left( \begin{array}{c} \xi_1 \\ \xi_2 \end{array} \right) \to U_y(\beta) \left( \begin{array}{c} \xi_1 \\ \xi_2 \end{array} \right) \end{align}

    となる。

    任意の回転を表す変換は,$z$軸および$y$軸周りの回転の組み合わせにより

    \begin{align} U(\alpha,\beta,\gamma) =& U_z(\gamma)U_y(\beta)U_z(\alpha) \notag \\ =& \left( \begin{array}{cc} \cos{\frac{\beta}{2}}e^{i(\alpha+\gamma)/2} & \sin{\frac{\beta}{2}}e^{-i(\alpha-\gamma)/2} \\ -\sin{\frac{\beta}{2}}e^{i(\alpha-\gamma)/2} & \cos{\frac{\beta}{2}}e^{-i(\alpha+\gamma)/2} \end{array} \right) \end{align}

    と得られる。 この行列は

    \begin{align} \det U=1,\quad UU^\dagger=1 \end{align}

    を満たすから,$SU(2)$の具体的な表現になっている。 このとき,表現空間を構成する2成分の複素ベクトル$\xi=(\xi_1,\xi_2)$を,スピノル(spinor)という。

    このように,$SO(3)$と$SU(2)$の間に対応関係があることが分かったが,$\alpha\to \alpha+2\pi$とすると

    \begin{align} U(\alpha+2\pi,\beta,\gamma) = -U(\alpha,\beta,\gamma) \end{align}

    と符号が反転するのに対し,$SO(3)$の元$R$については当然

    \begin{align} R(\alpha+2\pi,\beta,\gamma) = R(\alpha,\beta,\gamma) \end{align}

    であるから,その対応関係は1対1ではなく,1対2である。



    参考文献