Navier-Stokes方程式

Dr. SSS 2023/04/01 - 20:32:41 1187 流体力学
はじめに

粘性(内部摩擦)が存在する場合,運動量フラックスは,スカラー圧力$p$と運動量密度の流れ$\rho_m \bm{v}\bm{v}$に,粘性に対応する項が加わり

\begin{equation} \bm{P} = p\bm{I} + \rho_m \bm{v}\bm{v} - \bm{\sigma}' \end{equation}

となる。 ここで$\rho_m$は質量密度,$\bm{I}$は2階の単位テンソルである。 $\bm{\sigma}'$を,粘性ストレステンソル(viscous stress tensor)という。 これにより,運動方程式は

\begin{equation} \rho_m \left[\frac{\pd\bm{v}}{\pd t} + (\bm{v}\cdot\nabla)\bm{v} \right] = -\nabla p +\nabla\cdot \bm{\sigma}' \end{equation}

と修正される。 以下$\bm{\sigma}'$の,したがってまた粘性流体の運動方程式の一般的な形を導く。


keywords: 粘性, 非圧縮性流体, 非線形方程式, Newton流体

内容

粘性ストレステンソル

内部摩擦は,流体の要素間で速度が異なることによって生じる。 したがって,$\bm{\sigma}'$は速度の空間微分の関数であるはずであり,例えば

\begin{equation} \bm{\sigma}' = \bm{f} + c_1 \nabla \bm{v} + c_2 (\nabla \bm{v})^T + c_3 \bm{I} \nabla\cdot\bm{v} + c_4 \nabla^2 \bm{v} + \cdots \end{equation}

のような形を想定できる。 ここで$\bm{f}$は速度の空間微分に依存しない2階のテンソルで,$c_1$から$c_4$も各項の速度の空間微分に依存しない部分を表している。 Cartesian座標系を取り,成分で表せば

\begin{equation} \label{eq:stress_hypothetic_component} \sigma_{ik}' = f_{ik} + c_1 \frac{\pd v_i}{\pd x_k} + c_2 \frac{\pd v_k}{\pd x_i} + c_3 \delta_{ik} \frac{\pd v_l}{\pd x_l} + c_4 \frac{\pd^2 v_i}{\pd x_k^2} + \cdots \end{equation}

である(添え字についてEinsteinの規約を採用している)。 しかし,速度の空間変化が小さければ,高階の微分項はすべて無視し,速度の空間微分の1次関数として近似できる。 さらに,速度が一定であれば,$\sigma_{ik}'$はゼロであるから,それを構成する項はすべて$\pd v_i/\pd x_k$を含む。 したがって(\ref{eq:stress_hypothetic_component})における$f_{ik}$に対応するような項は却下できる。 よって,粘性ストレステンソルの形は

\begin{equation} \label{eq:stress_hypothetic2} \bm{\sigma}' = c_1 \nabla\bm{v} + c_2 ( \nabla\bm{v} )^T + c_3 \bm{I} \nabla\cdot\bm{v} \end{equation}

の形に狭められる。

続いて,流体が一様な回転をしている場合を考えてみよう。 この場合,流体要素の回転速度は,回転軸からの距離$r$と,角速度$\bm{\Omega}$の外積により$\bm{v}=\bm{\Omega}\times\bm{r}$で与えられるから,明らかに速度勾配を持つが,一様回転の場合は内部摩擦は生じない。 もし$\bm{\sigma}'$に$\nabla \bm{v}$という項が単独で含まれていたら,一般に$\bm{\sigma}'\neq 0$であるから,このこととつじつまが合わない。 しかし,$\nabla \bm{v} + (\nabla \bm{v})^T$のコンビネーションであれば,$\nabla (\bm{\Omega}\times\bm{r}) - \nabla (\bm{\Omega}\times\bm{r})=0$のように,恒等的にゼロになる。 また,ベクトル公式

\begin{equation} \nabla\cdot(\bm{A}\times\bm{B}) = \bm{B}\cdot\nabla\times\bm{A} - \bm{A}\cdot\nabla\times\bm{B} \end{equation}

より,角速度が空間的に一様であることと,$\nabla\times\bm{r}=0$であることより

\begin{equation} \nabla\cdot\bm{v} = \nabla\cdot(\bm{\Omega}\times\bm{r}) =0 \end{equation}

も成り立つ。 したがって,粘性ストレステンソルの一般的な形は

\begin{equation} \label{eq:stress_general} \bm{\sigma}' = a\left[ \nabla\bm{v} + ( \nabla\bm{v} )^T \right] + b \bm{I} \nabla\cdot\bm{v} \end{equation}

に置ける。 改めてCartesian座標系で成分表示すれば

\begin{equation} \sigma_{ik}' = a \left(\frac{\pd v_i}{\pd x_k} + \frac{\pd v_k}{\pd x_i} \right) + b \delta_{ik} \frac{\pd v_l}{\pd x_l} \end{equation}

である。 実用上,これを($a=\eta$,$b=\zeta-2\eta/3$と定義しなおして)

\begin{equation} \label{eq:general_viscous_stress_component} \sigma_{ik}' = \eta \left(\frac{\pd v_i}{\pd x_k} + \frac{\pd v_k}{\pd x_i} - \frac{2}{3}\delta_{ik} \frac{\pd v_l}{\pd x_l} \right) + \zeta \delta_{ik} \frac{\pd v_l}{\pd x_l} \end{equation}

とした方が都合がいい(同じ量を表すのに,$\eta$の代わりに$\mu$を用いる文献も多い)。 $i$と$k$について縮約を取ると,$\delta_{ii}=3$より括弧の中身はゼロになる。 $\eta$に比例する項は,速度のずれ(shear)により生じる粘性を表し,$\zeta$に比例する項は体積変化率による粘性を表している(流体の圧縮性と速度の発散の関係を思い出そう)。 そのため,粘性係数$\eta$および$\zeta$は,それぞれずれ粘性率(shear viscosity)および体積粘性率(volume viscosity)と呼ばれる。

$\eta$はまた,動的粘性率(dynamic viscosity)絶対粘性率(absolute viscosity)とも呼ばれる。 動的粘性率(dynamic viscosity)という名称については,以下で定義する運動学的粘性(kinematic viscosity)を動的粘性率と訳している文献もあるため,混同しないように注意が必要である。

上の議論では,粘性係数が速度勾配によらず,粘性ストレステンソルが速度勾配に対して線形であることを仮定した。 このような過程が成り立つ流体を,Newton流体(Newtonian fluid)という。 そうでないものは非Newton流体(non-Newtonian fluid)と総称される。



Navier-Stokes方程式

粘性率$\eta$,$\zeta$が一定とみなせる場合,それらは微分演算子の外に出せるから,粘性項は

\begin{equation} \begin{split} \frac{\pd}{\pd x_k} \sigma_{ik}' =& \frac{\pd}{\pd x_k} \left\{ \eta \left[ \frac{\pd v_i}{\pd x_k} + \frac{\pd v_k }{\pd x_i} - \frac{2}{3}\delta_{ik}\frac{\pd v_l }{\pd x_l}\right] + \zeta\delta_{ik}\frac{\pd v_l}{\pd x_l} \right\} \\ % =& \eta \left[ \frac{\pd^2 v_i}{\pd x_k^2} + \frac{\pd}{\pd x_i}\frac{\pd v_k }{\pd x_k} - \frac{2}{3}\frac{\pd}{\pd x_i}\frac{\pd v_l }{\pd x_l}\right] + \zeta\frac{\pd}{\pd x_i}\frac{\pd v_l}{\pd x_l} \\ =& \eta \left[ \frac{\pd^2 v_i}{\pd x_k^2} + \frac{\pd}{\pd x_i}\frac{\pd v_l}{\pd x_l} - \frac{2}{3}\frac{\pd}{\pd x_i}\frac{\pd v_l }{\pd x_l}\right] + \zeta\frac{\pd}{\pd x_i}\frac{\pd v_l}{\pd x_l} \\ =& \eta\frac{\pd^2 v_i}{\pd x_k^2} +\left(\zeta+\frac{1}{3}\eta\right) \frac{\pd}{\pd x_i}\frac{\pd v_l}{\pd x_l} \end{split} \end{equation}

と簡単化でき,対応する運動方程式は

\begin{equation} \rho_m \left[\frac{\pd\bm{v}}{\pd t} + (\bm{v}\cdot\nabla)\bm{v} \right] = -\nabla p +\eta \nabla^2 \bm{v} +\left(\zeta+\frac{1}{3}\eta\right) \nabla(\nabla \cdot \bm{v}) \end{equation}

となる。 一般にこれを,Navie-Stokes方程式(Navie-Stokes equation)という。 しかし,文献によっては粘性係数が定数でない場合に一般化したものを指してNavie-Stokes方程式と呼んでいるものもある。

重要な応用として,流体が非圧縮な場合は$\nabla\cdot\bm{v}=0$であるから,方程式はさらに簡約化され

\begin{equation} \rho_m \left[\frac{\pd\bm{v}}{\pd t} + (\bm{v}\cdot\nabla)\bm{v} \right] = -\nabla p +\eta \nabla^2 \bm{v} \end{equation}

となる。 また,全体を質量密度で割り,運動学的粘性(kinematic viscosity)$\nu=\eta/\rho$を定義すると

\begin{equation} \frac{\pd\bm{v}}{\pd t} + (\bm{v}\cdot\nabla)\bm{v} = -\frac{1}{\rho_m}\nabla p +\nu \nabla^2 \bm{v} \end{equation}

と書き換えられる。 これをNavie-Stokes方程式と呼ぶ文献も多い。


参考文献