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    音波

    Dr. SSS 2023/10/27 - 11:34:58 1199 流体力学
    はじめに

    圧縮性の気体にわずかな摂動を加え,圧力や密度の分布を変化させると,復元力により振動が起こり,その振動は波として周囲に伝播していく。 これが音波(sound wave)である。 ここでは,簡単な非粘性流体のモデルを用いて,音波を記述する方程式と,音速(sound speed)を表す式を導出する。


    keywords: 波動方程式, 音波, 音速, 圧縮性流体, 気体, 振動, 波動

    モデル

    圧力$p$と密度$\rho$を,平衡状態における値と,そこからの微小なずれとして

    \begin{equation} p=p_0+p_1, \quad \rho=\rho_0+\rho_1 \end{equation}

    の形に置く。 速度についても$\bm{v}=\bm{v}_0+\bm{v}_1$であるが,流体が平衡状態で静止している系で考え,$\bm{v}_0=0$とする。

    運動方程式

    \begin{equation} (\rho_0+\rho_1)\frac{\pd\bm{v}_1}{\pd t} + (\bm{v}_1\cdot\nabla)\bm{v}_1 = -\nabla (p_0+p_1) \end{equation}

    であるが,摂動が微小である仮定から,摂動量の1次までを考えればよい。 すると運動方程式は

    \begin{equation} \label{eq:sound_wave_eq_motion} \rho_0\frac{\pd\bm{v}_1}{\pd t} = -\nabla p_1 \end{equation}

    と,摂動量に関して線形な式に近似できる。 このような手続きを線形化(linearization)という。 連続の式も同様にして線形化すると

    \begin{equation} \label{eq:sound_wave_eq_continuity} \frac{\pd\rho_1}{\pd t} +\rho_0 \nabla\cdot\bm{v}_1 =0 \end{equation}

    を得る。

    圧力は2つの状態量を決めれば定まる。 そこで,エントロピー密度$s$と密度$\rho$を変数に選び,$p=p(s,\rho)$とすれば,$p$の全微分は

    \begin{equation} dp =\left(\frac{\pd p}{\pd s}\right)_\rho ds +\left(\frac{\pd p}{\pd \rho}\right)_s d\rho \end{equation}

    となる。 運動が断熱的であれば$ds=0$であるから,平衡値からの微小変異$p_1=p-p_0$と$\rho_1=\rho-\rho_0$に関して

    \begin{equation} \label{eq:sound_wave_eq_adiabatic} p_1 = \left(\frac{\pd p}{\pd\rho_0}\right)_s \rho_1 \end{equation}

    が成り立つ。



    音波の式

    こうして,未知変数$p_1$,$\rho_1$および$\bm{v}_1$に対して,3本の式(\ref{eq:sound_wave_eq_motion}),(\ref{eq:sound_wave_eq_continuity})および(\ref{eq:sound_wave_eq_adiabatic})が得られた。 (\ref{eq:sound_wave_eq_adiabatic})を時間で微分し,(\ref{eq:sound_wave_eq_continuity})を用いて$\rho_1$を消去すると

    \begin{equation} \frac{\pd p_1}{\pd t} =\rho_0 \left(\frac{\pd p}{\pd\rho_0}\right)_s \nabla\cdot\bm{v}_1 =0 \end{equation}

    となり,これを再び時間で微分し,(\ref{eq:sound_wave_eq_motion})を用いて$\bm{v}_1$を消去すると

    \begin{equation} \begin{split} \frac{\pd^2 p_1}{\pd t^2} =&-\rho_0 \left(\frac{\pd p}{\pd\rho_0}\right)_s \nabla\cdot\frac{\pd\bm{v}_1}{\pd t} \\ % =&\left(\frac{\pd p}{\pd\rho_0}\right)_s \nabla\cdot\nabla p_1 \end{split} \end{equation}

    すなわち,波動方程式

    \begin{equation} \frac{\pd^2 p_1}{\pd t^2} =c_s^2 \nabla^2 p_1 \end{equation}

    が得られる。 ここで

    \begin{equation} \label{eq:sound_speed} c_s = \sqrt{\left(\frac{\pd p}{\pd\rho}\right)_s} \end{equation}

    は音波の伝播速度,すなわち音速である。 理想気体であれば,断熱関係式$p=C\rho^\gamma$より

    \begin{equation} c_s = \sqrt\frac{\gamma p}{\rho} \end{equation}

    となる。


    参考文献