イルカやクジラが出す水中の空気の輪をバブルリングという。これは単独でも愛らしくて美しい現象であるが,2つのバブルリングが衝突したときの様子はさらに美しい。
上の動画は,ダイバーが撮影した実際のバブルリングの衝突の様子と,それをコンピュータサイエンティストのピーター・シュレーダー(Peter Schröder)らがシミュレーションによって再現したものだ。
バブルリングの物理について簡単に触れておこう。
バブルリングは泡を流れが貫くことで形成される。これを形成する方法はいくつもある。例えば,水中では水深によって圧力が異なるため,圧力差が十分ある中で気泡を出すと,圧力の大きい下側,特に中心部が上部より早く浮上し,上面と結合して輪っかを作る(図1)。
図1:圧力差が十分ある中で気泡を出すと,圧力の大きい下側が上部より早く浮上し,上面と結合して輪っかができる。
あるいはイルカたちがやるように,渦に息を吹きかけることで作ることもできる。イルカたちはこれを遊びとして行うようだ。
バブルリングは通常の泡より安定であるが,水面に向かって上昇するにつれて速度を落としながら径を大きしていき,やがて崩壊する。
こういった性質は理解されているが,一般の安定性などの性質は,粘性や輪の大きさ,表面張力など様々なパラメータに複雑に依存するため,現実的な環境における一般的な振る舞いを記述するためには,まだいくつも課題が残っている。
複雑な状況での解析になるほど手計算では困難になるため,数値計算による研究も進められているが,トポロジーの複雑な変化や,パラメータに敏感な不安定性などが原因で,数値計算でも多くの課題が残されているようである。
またバブルリングに限らない渦一般の性質についてもまだ不明なことが多く,現在も研究が進められているため,関心のある人は取り組んでみてもいいテーマかもしれない。
バブルリングに巻き込まれるクラゲ
— 美しき物理学bot (@ST_phys_bot) April 20, 2023
(クラゲは中枢神経を持たないので,苦しみを心配する必要はない #sentientism)pic.twitter.com/se5GzRhy2M