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    Kelvin-Helmholtz不安定性

    Dr. SSS 2023/04/17 - 13:56:34 1786 流体力学
    はじめに

    層状に重なり合った流体が,互いに異なる速度で水平運動をする場合,接触面に不安定性が生じ,流体の混合が起こる。 これをKelvin-Helmholtz不安定性という。 波打つような興味深い形をした雲は,その効果が見られる最も身近な例の一つである。 ここでは,簡単なモデルを用いてその分散関係を調べることで,確かにこのような不安定性が生じることを確認する。


    keywords: 不安定性, 気象, 大気, 乱流, , Kelvin-Helmholtz不安定性

    運動方程式

    2つの流体が重なり合っており,接線方向に相対的な運動が生じている場合を考える。 鉛直方向に$z$軸を,流体の運動の方向に$x$軸をとる。 また,これらの層はそれぞれ速度一定であるとし,互いが接触する面は,そこで物理量が不連続に変化する不連続面であると考え,その近傍での安定性を調べる。 接触面を$z=0$にとり,必要がある場合は,その上側の層の量に添え字1を,下側の層の量に添え字2をつけて表すことにする。

    重要なのは相対速度であるため,どちらか一方の層と同じ速度で動く座標系から見ているものとし,一方の速度を0と置いても一般性は失われない。 今は,下側の層の速度は0とし,上側の層の速度を単に$\bm{v}=(u,0,0)$と表記する。 粘性は無視できるとすると,運動方程式は

    \begin{equation} \label{eq:KHI_equation_of_motion} \frac{\pd\bm{v}}{\pd t} + (\bm{v}\cdot\nabla)\bm{v} = -\frac{1}{\rho}\nabla p +\bm{g}, \end{equation}

    である。 ここで,$\rho$は質量密度,$p$は圧力,$\bm{g}$は重力加速度である。 左辺2項目は,運動が$x$方向に一様なものであるという仮定から0であるが,以下の議論でのわかりやすいさのための残しておく。 また,流体は非圧縮であるとする:

    \begin{equation} \nabla\cdot\bm{v}=0 \end{equation}

    このようにして用意された系の不連続面$z=z_s$に摂動を加える。 それに応じて,不連続面の位置$z_s$,圧力$p$および速度$\bm{v}$に微小な乱れが生じたとする(今の議論では本質的な影響がないため,密度の変異は無視する。 これは,$\rho_1$と$\rho_2$の値が十分近いほど妥当な近似となる)。 乱れに対応する量をそれぞれ$\delta z_s$,圧力$\delta p$および速度$\delta \bm{v}$と表すと,運動方程式は

    \begin{equation} \label{eq:KHI_equation_of_motion_purturb} \frac{\pd(\bm{v}+\delta\bm{v})}{\pd t} + [(\bm{v}+\delta\bm{v})\cdot\nabla](\bm{v}+\delta\bm{v}) = -\frac{1}{\rho}\nabla (p+\delta p) +\bm{g} \end{equation}

    となる。 (\ref{eq:KHI_equation_of_motion_purturb})から(\ref{eq:KHI_equation_of_motion})を差し引き,乱れは微小であるという仮定から,摂動量に関する2次の項$(\delta\bm{v}\cdot\nabla)\delta\bm{v}$を無視すると

    \begin{equation} \frac{\pd \delta\bm{v}}{\pd t} + (\bm{v}\cdot\nabla)\delta\bm{v} = -\frac{1}{\rho_m}\nabla \delta p \end{equation}

    を得る。 非圧縮性条件についても同様にし

    \begin{equation} \nabla\cdot \delta\bm{v}=0 \end{equation}

    を得る。

    線形化された運動方程式(\ref{eq:KHI_equation_of_motion_purturb})の$x$成分は

    \begin{equation} \label{eq:KHI_equation_of_motion_purturb_x} \frac{\pd \delta u}{\pd t} + u \frac{\pd \delta u}{\pd x} = -\frac{1}{\rho} \frac{\pd}{\pd x} \delta p \end{equation}

    であるが,摂動により,不連続面の位置が変化することから,$z$方向の速度成分

    \begin{equation} \label{eq:KHI_w} \delta w \equiv \frac{\pd \delta z_s}{\pd t} + u \frac{\pd \delta z_s}{\pd x} \end{equation}

    も生まれており,運動方程式には$z$成分

    \begin{equation} \label{eq:KHI_equation_of_motion_purturb_z} \frac{\pd \delta w}{\pd t} + u \frac{\pd \delta w}{\pd x} = -\frac{1}{\rho} \frac{\pd}{\pd z}\delta p \end{equation}

    も存在する。



    分散関係

    (\ref{eq:KHI_equation_of_motion_purturb})の発散を取ると,圧力に関する式

    \begin{equation} \nabla^2 \delta p = \left( \frac{\pd^2 }{\pd x^2} + \frac{\pd^2 }{\pd z^2} \right) \delta p = 0 \end{equation}

    が得られる。 摂動量の形を

    \begin{equation} \label{eq:KHI_purturbation} \propto e^{i(kx-\omega t)} \end{equation}

    と仮定すると,この式は

    \begin{equation} \left( \frac{\pd^2 }{\pd z^2} - k^2 \right) \delta p =0 \end{equation}

    と書き換えられる。 そして,この式の一般解は$e^{kz}$と$e^{-kz}$に比例する解の重ね合わせで

    \begin{equation} \delta p = (Ae^{kz}+Be^{-kz})e^{i(kx-\omega t)} \end{equation}

    の形における。 ここで,$z=\pm\infty$で$\delta p$が消えることと,境界面$z=0$で$\delta p_1=\delta p_2$となる条件を考慮すると,解は

    \begin{equation} \label{eq:KHI_sol_delta_p} \begin{array}{ll} \delta p_1 = Ae^{-kz}e^{i(kx-\omega t)} & (z>0) \\ \delta p_2 = Ae^{kz}e^{i(kx-\omega t)} & (z<0) \end{array} \end{equation}

    と決まる。 この$\delta p_1$解を(\ref{eq:KHI_equation_of_motion_purturb_x})に入れると

    \begin{equation} i(ku-\omega)\delta w = \frac{k}{\rho_1}\delta p_1 \end{equation}

    であるが,(\ref{eq:KHI_w})についても同様にすると

    \begin{equation} \delta w = i(ku-\omega)\delta z_s \end{equation}

    が得られるから,合わせて$\delta w$を消去することで

    \begin{equation} \delta p_1 = -\frac{\rho_1(ku-\omega)^2}{k} \end{equation}

    となる。

    同様の手続きを下側の層についても行うと,そちら側では速度が0であること,および圧力摂動の$z$依存性が$\propto e^{kz}$であること(式(\ref{eq:KHI_sol_delta_p}))より

    \begin{equation} \delta w = -i\omega\delta z_s \end{equation}

    および

    \begin{equation} -i\omega\delta w = -\frac{k}{\rho_2}\delta p_2 \end{equation}

    を介して

    \begin{equation} \delta p_2 = \frac{\rho_2\omega^2}{k} \end{equation}

    を得る。 境界において互いの圧力が釣り合うことから,$\rho_1(ku-\omega)^2=\rho_2\omega^2$となり,これを$\omega$について解くことで

    \begin{equation} \omega = ku \frac{\rho_1 \pm i \sqrt{\rho_1 \rho_2}}{\rho_1+\rho_2} \end{equation}

    を得る。 これが,考えている系の周波数と波数の関係,すなわち分散関係である。 周波数が正の虚部$\gamma \equiv ku\sqrt{\rho_1 \rho_2}/(\rho_1+\rho_2)$を持つことから,摂動は時間とともに指数関数的に増大することがわかる。


    参考文献