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    波動方程式

    Dr. SSS 2023/10/19 - 11:12:22 1036 古典力学
    はじめに

    特定の方向,そちらを$x$軸に取ろう,に沿って速さ$c$で伝播する波は,1次元波動方程式

    \begin{equation} \label{eq:wave_equation} \frac{\pd^2\phi}{\pd x^2} -\frac{1}{c^2}\frac{\pd^2\phi}{\pd t^2} =0 \end{equation}

    によって記述される。 ここでは,弦の振動なのか音波なのか電磁波なのか,など具体的な現象は指定せず,波動方程式の一般的性質について解説する。


    keywords: 分散関係, 波動, , 波動方程式

    波動方程式の一般解の形

    波動方程式(\ref{eq:wave_equation})の一般解を得るため,まず変数を$(x,t)$から

    \begin{equation} \xi(x,t) = x-ct, \quad \eta(x,t) = x+ct \end{equation}

    に変換する。 この逆変換は

    \begin{equation} x=\frac{1}{2}(\xi+\eta), \quad t=\frac{1}{2}(-\xi+\eta) \end{equation}

    であるから,微分演算子は

    \begin{equation} \begin{split} \frac{\pd}{\pd\xi} =& \left(\frac{\pd x}{\pd \xi}\right)_\eta \left(\frac{\pd}{\pd x}\right)_t + \left(\frac{\pd t}{\pd \xi}\right)_\eta \left(\frac{\pd}{\pd t}\right)_x \\ % =& \frac{1}{2} \left( \frac{\pd}{\pd x} - \frac{1}{c} \frac{\pd}{\pd t} \right) \end{split} \end{equation}

    \begin{equation} \begin{split} \frac{\pd}{\pd\eta} =& \left(\frac{\pd x}{\pd \eta}\right)_\xi \left(\frac{\pd}{\pd x}\right)_t + \left(\frac{\pd t}{\pd \eta}\right)_\xi \left(\frac{\pd}{\pd t}\right)_x \\ % =& \frac{1}{2} \left( \frac{\pd}{\pd x} + \frac{1}{c} \frac{\pd}{\pd t} \right) \end{split} \end{equation}

    となる。 よって,これら新たな変数を用いると

    \begin{equation} \label{eq:decompose_wave_eq_operator} \begin{split} 4\frac{\pd^2}{\pd\xi\pd\eta} =& \left(\frac{\pd}{\pd x} -\frac{1}{c}\frac{\pd}{\pd t}\right) \left(\frac{\pd}{\pd x} +\frac{1}{c}\frac{\pd}{\pd t}\right) \\ % =& \frac{\pd^2}{\pd x^2} -\frac{1}{c}\frac{\pd}{\pd t}\frac{\pd}{\pd x} +\frac{1}{c}\frac{\pd}{\pd x}\frac{\pd}{\pd t} -\frac{1}{c^2}\frac{\pd^2}{\pd t^2} \\ % =& \frac{\pd^2}{\pd x^2} -\frac{1}{c^2}\frac{\pd^2}{\pd t^2} \end{split} \end{equation}

    より,波動方程式は

    \begin{equation} \frac{\pd^2\phi}{\pd\xi\pd\eta} =0 \end{equation}

    と表される。 これを$\xi$で積分すると,$\xi$によらない関数

    \begin{equation} \label{eq:wave_eq_int_xi} \frac{\pd\phi}{\pd\eta} =F(\eta) \end{equation}

    となり,もう一度積分すると,積分定数としてもう1つ関数が表れ

    \begin{equation} \label{eq:general_sol_form_wave_eq} \phi = f_1(\xi)+f_2(\eta) \end{equation}

    を得る。 (\ref{eq:wave_eq_int_xi})の代わりに$\eta$で積分しても,もちろん同様の結果が得られる。 いわばこの手順は,$\phi$に作用する2階の微分演算子を(\ref{eq:decompose_wave_eq_operator})の1行目のように因数分解し,それぞれ

    \begin{equation} \frac{\pd}{\pd\eta} = \frac{1}{2} \left(\frac{\pd}{\pd x} +\frac{1}{c}\frac{\pd}{\pd t}\right) f_1(\xi)=0 \end{equation}

    \begin{equation} \frac{\pd}{\pd\xi} = \frac{1}{2} \left(\frac{\pd}{\pd x} -\frac{1}{c}\frac{\pd}{\pd t}\right) f_2(\eta)=0 \end{equation}

    を満たす解を重ね合わせた形である。 こうして,波動方程式の一般解の形が(\ref{eq:general_sol_form_wave_eq})のように決められる。

    続いて,$f_1$と$f_2$それぞれの性質を調べるために,$f_2=0$の場合,すなわち$\phi=f_1(\xi)=f_1(x-ct)$の場合を考える。 $x$を固定すると,この関数は時間$t$とともに変化する。 また,$\xi=x-ct$が同じ値を取る$x$と$t$の組み合わせは無数にあり,同じ$\xi$の値を与える位置$x$および時刻$t$において,関数$f_1$は同じ値を持つ。 よって,ある位置$x_0$での時刻$t=0$における関数の値を

    \begin{equation} g \equiv f(x_0) \end{equation}

    とすると,時刻$t$後には,$x_0+ct$の位置において,$f(\xi)$の値が$g$となる。 なぜなら

    \begin{equation} f(\xi)=f(x_0+ct-ct)=f(x_0)=g \end{equation}

    したがって,$f_1(x-ct)$は,$x$の正の方向に,速さ$c$で伝播する波を表している。 同様の考察より,$f_2(x+ct)$は,逆方向に伝播する波を表すことが分かる。 よって$f_1(x-ct)$,$f_2(x+ct)$はそれぞれ,右向きおよび左向きの(あるいは正の向きの,負の向きの)進行平面波(traveling plane wave)と呼ばれる。 平面波は,波が同じ位相を持つ面,すなわち波面(wavefront)が,進行方向に垂直な平面になることからそう呼ばれる。 今考えている1次元の波は,3次元空間内を$x$方向に伝播しているものだとすると,$x$と$t$を固定してみたとき,関数$f_1$あるいは$f_2$の値は,$x=$一定で定められる面,すなわち$yz$平面内のどこでも同じであることがわかるだろう。 波面が平面でない波は後に扱う。



    正弦波解

    右向きに進行する波を考える。 固定された点で単振動をする波であるなら,解は

    \begin{equation} \phi(x,t) = a\cos \frac{2\pi}{\lambda}(ct - x) \end{equation}

    と置けるはずである。 ここで

    \begin{equation} \lambda = \frac{2\pi c}{\omega} \end{equation}

    波長(wavelength)である。 時刻$t$を固定すると,$x$が$\lambda$だけずれるとごとに位相が$2\pi$変化するから,$\phi$は三角関数の周期性から同じ値を取る。 他方,位置$x$を固定すれば,調和振動子の解と一致する。 $x=0$とすると

    \begin{equation} \phi(t) = a\cos \frac{2\pi c}{\lambda} = a\cos(\omega t) \end{equation}

    の通りである。

    時間$T=2\pi/\omega$だけずれると位相が$2\pi$変化して$\phi$は元の値に戻るから

    \begin{equation} T = \frac{2\pi}{\omega} \end{equation}

    は波の周期(period)を表している。 周期の逆数

    \begin{equation} \nu = \frac{1}{T} \end{equation}

    振動数(frequency),あるいは周波数と呼ばれるが,波動の問題においては,角振動数$\omega$の方を単に振動数や周波数と呼ぶことが多い。

    また,波数(wavenumber)

    \begin{equation} k =\frac{2\pi}{\lambda} \end{equation}

    を導入すれば

    \begin{equation} \phi(x,t) = a\cos(kx - \omega t) \end{equation}

    とも表現できる($\cos\theta=\cos(-\theta)$)。 複素数を用いるなら

    \begin{equation} \label{eq:wave_solution_exp} \phi(x,t) =\Re{Ae^{i(kx-\omega t)}} \end{equation}

    である。 $\Re$は実部を取ることを意味する。 これが最もスタンダードな表現だろう。

    分散関係と位相速度

    波数と周波数は

    \begin{equation} \label{eq:dispersion_relation} \omega^2 = c^2k^2 \end{equation}

    の関係にある。 このような,波数と周波数の関係を分散関係(dispersion relation)と呼ぶ。 そして

    \begin{equation} c=\frac{\omega}{k} \end{equation}

    で与えられる波の速度を,位相速度(phase velocity)という。 位相速度自体が波数に依存しうるため,周波数はいつも単純に波数に比例するわけではない。 その場合,波は分散的(dispersive)であるという。

    これまで,波の伝播方向を$x$軸にとり,1次元の空間で問題を考えてきたが,任意の座標系で記述できるよう表現を一般化する。 そのためには,位相速度の方向に単位ベクトル$\hat{\bm{n}}$を取り,波数を波数ベクトル(wavenumber vector)

    \begin{equation} \bm{k} =\frac{2\pi}{\lambda}\hat{\bm{n}} \end{equation}

    に置き換える。 これにより,(\ref{eq:wave_solution_exp})は

    \begin{equation} \label{eq:wave_solution_exp_3D} \phi(\bm{x},t) =\Re{Ae^{i(\bm{k}\cdot\bm{x}-\omega t)}} \end{equation}

    と書き換えられる。 分散関係や位相速度の定義は,$k^2=k_x^2+k_y^2+k_z^2$によりそのまま成り立つ。 よって,容易に確かめられるよう,(\ref{eq:wave_solution_exp_3D})が満たす波動方程式は,3次元に一般化された

    \begin{equation} \nabla^2 \phi -\frac{1}{c^2}\frac{\pd^2\phi}{\pd t^2} =0 \end{equation}

    である。

    正弦波解(\ref{eq:wave_solution_exp_3D})が重要なのは,任意の波は,様々な波数$\bm{k}$を持つ正弦波の重ね合わせの形

    \begin{equation} \label{eq:wave_spectrum_decomposition} \phi(\bm{x},t) =\sum_{\bm{k}} \Re{\phi_{\bm{k}} e^{i(\bm{k}\cdot\bm{x}-\omega t)}} \end{equation}

    によって表せるためである。


    参考文献