Introduction
ここでは,速度や加速度という具体的な概念を通して微分について説明し,Newtonの運動方程式の解説を行う 微分を苦手とする高校生は多いと聞くが,微分という操作の概念的な意味はとても単純なものだ。 微分について学んだことがない人も,一度学んだけどよく理解できなかった,あるいは忘れてしまったという人も心配せず,気軽な気持ちで読んでほしい。平均の速度と瞬間の速度
こんなお話を考えよう。あなたは自宅から車で出発してちょうど1時間,60kmの道のりを走ったところで警察に止められた。理由は制限スピード60km/hのところを,80km/hで走っていたからだという。あなたはこう反論する。「そんなはずはない。私は1時間で60km走ったところだ。ちょうど制限スピードの60km/hで走っていたはずだよ」。あなたの計算はこうだ:
だがもちろんこの主張は通らない。警察の計測器はあなたの車が80km/hで走っているのを測定しているし,その時あなたの車のスピードメーターも確かにその値を示していたはずである。では(
(
まず,問題を簡単にするために,あなたの進んだ道のりをビーっと真っすぐの線に直して,問題を1次元の直線上で議論するようにする。そして,あなたが家を出た時間を

するとあなたが進んだ距離は,最初の位置と止められた位置の差で
と表せる。このとき,

今の場合
と表せる。 これが瞬間の速度を求める式であり,ここで行った変化率の極限操作が微分である。 また,微分によって得られる関数を導関数という。
家を出てすぐの速度には興味がないので,時間のラベルを付けなおし,警察が測定を始めた時刻を
と表す。 あるいは
という表し方をしても同じだ。
具体例と微分の基本公式
具体的な例として
となる。
そして,最後に残っている
という結果が得られる。
上の例での計算と同様にして
といった計算が成り立つことも確認できる。そして,これらを一般化することで,任意の自然数
が得られる。
この公式は,実際には
今度は,何らかの定数
と,
定数が微分に寄与しない物理的理由は,
加速度とNewtonの運動方程式
位置の時間変化率としての速度が得られたのだが,今度は同じようにして,速度が時間的にどう変化するのかということも考えることができる。
引き続き簡単のために1次元の直線上で問題を考えよう。
速度の時間変化も,(
としてやればいい。こう定義される速度の時間変化率
加速度は速度の時間微分だが,速度は位置の時間微分であった。よって加速度は
と表すこともできる。
Newtonの運動方程式は物体の加速度と,物体に加わる力
と書かれる2。ここで
物体がある時刻にどこに存在しているか,そしてその後にどこに向かって運動していくか,あるいはどこからやってきたのかという情報がわかれば,その物体の各瞬間での位置
運動方程式(
より,その物体の加速度を知ることができるということである。
加速度
1. どの方向にどれだけの速さ(speed)で進んでいるかを表す量が速度(velocity)であるが,ここでは1次元で正の方向の運動しか考えていないため,実質的な違いはない。
2. より正確には
であるが,質量