古典力学 2019-01-30

微分とNewtonの運動方程式

ScienceTime Team
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微分とNewtonの運動方程式

Introduction

ここでは,速度や加速度という具体的な概念を通して微分について説明し,Newtonの運動方程式の解説を行う 微分を苦手とする高校生は多いと聞くが,微分という操作の概念的な意味はとても単純なものだ。 微分について学んだことがない人も,一度学んだけどよく理解できなかった,あるいは忘れてしまったという人も心配せず,気軽な気持ちで読んでほしい。

平均の速度と瞬間の速度

こんなお話を考えよう。あなたは自宅から車で出発してちょうど1時間,60kmの道のりを走ったところで警察に止められた。理由は制限スピード60km/hのところを,80km/hで走っていたからだという。あなたはこう反論する。「そんなはずはない。私は1時間で60km走ったところだ。ちょうど制限スピードの60km/hで走っていたはずだよ」。あなたの計算はこうだ:

(1) v==60 km1 h=60 km/h

だがもちろんこの主張は通らない。警察の計測器はあなたの車が80km/hで走っているのを測定しているし,その時あなたの車のスピードメーターも確かにその値を示していたはずである。では(1)の計算は一体何なのだろうか?スピード違反の基準となる速さとどう違うのだろうか?

(1)で計算していたのは平均の速度と呼ばれる。一方,スピード違反の取り締まりの基準となるのは瞬間の速度である1。 前者をより一般的な場合について議論するために,(1)を次のように表現してみよう。

まず,問題を簡単にするために,あなたの進んだ道のりをビーっと真っすぐの線に直して,問題を1次元の直線上で議論するようにする。そして,あなたが家を出た時間をtとし,そこでの位置をx(t)と表す。家から出発してその位置に来るまでにかかった時間をΔtとすれば,警察に止められた位置はあなたが時刻tからΔtだけ未来にいた場所ということでx(t+Δt)と表せる。 これら時刻と位置の関係をグラフにしたのが下の図1だ。

図1:時刻と位置の関係

するとあなたが進んだ距離は,最初の位置と止められた位置の差でΔxx(t+Δt)x(t)となる。これらを用いると,(1)は任意の値を入れても成り立つ一般的な形として

(2)v=ΔxΔt=x(t+Δt)x(t)Δt

と表せる。このとき,Δx/Δtは,時間を横軸,位置を縦軸にとったときのx(t)x(t+Δt)を結ぶ線分の傾きに対応する(図2)。

図2:Δx/Δtは,青線の傾きに対応する。

今の場合Δtは1時間という着目する現象においては大きな幅を持っているが,瞬間の速度を求めるには,このΔtを小さく小さくとって本当に瞬間的な位置変化を測ってやればいい。 これを表現する数学的操作はとてもストレートなもので,Δtを「限りなく0に小さい極限(limit)にとる」,という記号を用いて

(3)v=limΔt0x(t+Δt)x(t)Δt

と表せる。 これが瞬間の速度を求める式であり,ここで行った変化率の極限操作が微分である。 また,微分によって得られる関数を導関数という。

家を出てすぐの速度には興味がないので,時間のラベルを付けなおし,警察が測定を始めた時刻をtと考えれば,(3)はそのときの車の速度を表す。 このように幅を無限小に縮めたΔtdtと表し,(3)のv

(4)v=dxdt

と表す。 あるいは

(5)v=ddtx

という表し方をしても同じだ。


具体例と微分の基本公式

具体的な例としてx(t)=t2の場合を考えてみよう。tより少し進んだt+Δtではx(t+Δt)=(t+Δt)2=t2+2tΔt+(Δt)2であるから,それぞれ(3)に代入すれば

dxdt=limΔt0t2+2tΔt+(Δt)2t2Δt=limΔt02tΔt+(Δt)2Δt(6)=limΔt0(2t+Δt)

となる。 そして,最後に残っているΔtを限りなく0にしてしまうというのが,limΔt0の操作であるから,お尻の項はゼロになり

(7)dxdt=ddtt2=2t

という結果が得られる。

上の例での計算と同様にして

(8)ddtt3=3t2,  ddtt4=4t3

といった計算が成り立つことも確認できる。そして,これらを一般化することで,任意の自然数n=0,1,2,3,...について成り立つ公式

(9)ddttn=ntn1

が得られる。 この公式は,実際にはnに対応する数が実数でも成り立つ。

今度は,何らかの定数Cを用いて,x(t)=t+Cと表される場合を考えよう。 定数とはその名の通り値が定まっていて変化しない数なので,時刻tであっても,その後の任意の時刻t+Δtであっても,Cの値は変わらない。 よってx(t+Δt)=t+Δ+Cであり,(3)に代入したとき

(10)dxdt=limΔt0(t+Δt+C)(t+C)Δt=limΔt0(t+Δt)tΔt=limΔt0ΔtΔt=1

と,Cの有無とは関係のない結果が得られる。

定数が微分に寄与しない物理的理由は,x=Cとした場合を考えるとより理解しやすい。 位置xが時間によらない定数であるということは,その物体はずっと同じ位置に静止しているということである。 そのため,その物体の速度v=dx/dt=dC/dtは当然ゼロである。 数学的な操作として,一般に以下のことが言える:

(11)ddtC=0,  Cは定数


加速度とNewtonの運動方程式

位置の時間変化率としての速度が得られたのだが,今度は同じようにして,速度が時間的にどう変化するのかということも考えることができる。 引き続き簡単のために1次元の直線上で問題を考えよう。 速度の時間変化も,(3)の場合と同様に瞬間的な変化率を考えて

(12)advdt=limΔt0v(t+Δt)v(t)Δt

としてやればいい。こう定義される速度の時間変化率a加速度である。

加速度は速度の時間微分だが,速度は位置の時間微分であった。よって加速度は

(13)a=dvdt=ddtdxdt=d2xdt2

と表すこともできる。

Newtonの運動方程式は物体の加速度と,物体に加わる力Fの関係を表すもので

(14)md2xdt2=F

と書かれる2。ここでmは考えている物体の質量である。 Newtonの運動方程式が意味しているのは,その位置の時間に関する2階微分(2度微分されている量,「2回」の誤字ではない)が,力と等しいということである。

物体がある時刻にどこに存在しているか,そしてその後にどこに向かって運動していくか,あるいはどこからやってきたのかという情報がわかれば,その物体の各瞬間での位置x(t)を繋いで軌道を描き,過去や未来の運動の様子も知ることができる。 そのため,物体の位置と速度を知ることを,力学的状態を知るという。

運動方程式(14)が意味するのは,物体に作用する力と,その物体の質量がわかれば

(15)d2xdt2=Fm

より,その物体の加速度を知ることができるということである。 加速度d2x(t)/dt2x(t)そのものではない。 しかし,このようなある量の導関数から元の量,今の場合であればx(t)そのものを部分的に復元する術もNewtonは編み出している。 それが微分とある意味逆の操作である積分である。 この積分については別の記事『積分と運動方程式の解』で説明している。


1. どの方向にどれだけの速さ(speed)で進んでいるかを表す量が速度(velocity)であるが,ここでは1次元で正の方向の運動しか考えていないため,実質的な違いはない。

2. より正確には

(16)ddt(mdxdt)=F

であるが,質量mは時間的に変化しない場合を仮定している。