古典力学 2020-06-19

仕事とエネルギー

ScienceTime Team
146 views
仕事とエネルギー
Source: imgur

Introduction

ここでは,仕事とエネルギーという物理における2つの基本概念について解説する。

仕事とエネルギー保存則

仕事と保存力

Fの下,点AからBに移動したとき,経路に沿って定義される積分

(1)WAB=ABFdx

を力Fがした仕事(work)という。 この定義からわかるように,変位dx直交する力は仕事をしない。

(1)の値は一般に経路に依存する(『線積分』を参照)。 しかし,力が,あるスカラー関数ϕを用いて

(2)F=ϕ=(ϕx1e1+ϕx2e2+ϕx3e3)

の形にかけるとき,仕事は

(3)WAB=ABϕdx=AB(ϕx1dx1+ϕx2dx2+ϕx3dx3) =ABdϕ=ϕ(A)ϕ(B)

となり,始点と終点の値のみで決まる。 このように,仕事が経路に依存せず,始点と終点における値の差のみで決まるとき,F保存力(conservative force)と呼ばれ,対応するスカラー関数ϕポテンシャルエネルギー(potential energy)という。

エネルギー保存則

力が保存力の場合,運動方程式は

(4)md2xdt2=ϕ

と書ける。

右辺を運動の軌道に沿って積分したものは,ポテンシャルエネルギーの差になるのであった。 一方,左辺も同様に積分した結果は

ABmd2xdt2dx=ABmd2xdt2dxdtdt=m2ABddt(dxdtdxdt)dt(5)=12mvB212mvA2

となる。 ここに現れる

(6)12mv2=m2|dxdt|2

運動エネルギー(kinetic energy)という。

(4)の左辺と右辺を積分した結果は,それぞれ(5)と(???)であるから

(7)12mvB212mvA2=ϕ(A)ϕ(B)

が成り立つ。 これを並び替えると

(8)12mvB2+ϕ(B)=12mvA2+ϕ(A)

が得られる。 これは,運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和である全エネルギー

(9)E12mv2+ϕ

が軌道上の2点間で不変であることを示している。 2点間の選択は任意であるため,任意の時刻で

(10)ddtE=ddt(12mv2+ϕ)=0

が成り立つ。 このように,力が保存的であるとき,質点の全エネルギーが一定であることをエネルギー保存則(law of the conservation of energy)という。

(10)を

(11)ddt(12mv2)=ddtϕ

と書き直すと,他方の形態のエネルギーの増加(減少)分が,もう一方の形態のエネルギーの減少(増加)分となることがわかりやすくなる。

具体例

保存力の典型的な例の1つが,それぞれ位置x1x2にある2つの質点間に働く万有引力

(12)F=Gm1m2r3r

である。 ここで,m1m2はそれぞれの質量で,Gは万有引力定数,r=x1x2およびr=|r|である。

(13)rr3=1r

であるから,万有引力に対して,ポテンシャル

(14)ϕ=Gm1m2r

が定義できる。

これに対し,典型的な非保存力の一つは摩擦力だ。 比例定数をγとすると,摩擦力は一般に速度に比例する形

(15)F=γv

における。 よってこの力がする仕事は

(16)Fdx=Fvdt=γv2dt

となる。 これを,(4)の左辺を積分した結果(運動エネルギー)と結び,時間で微分すると

(17)ddt(12mv2)=γv2

となり,この場合質点の運動エネルギーの変化分は,ポテンシャルエネルギーに形態を変えるのではなく,摩擦によって散逸していくことが示される。


保存力の判定

保存力のなす仕事が始点と終点の差のみで決まるということは,保存力の場合

(18)CFdx=0

が成り立つということである。 これにStokesの定理を適用すると

(19)S(×F)dS=0

となる。 ここで,Sは曲線Cが囲む面積で,dSは向きを含めたその面積要素である。 Cの選択は任意であるため,この場合

(20)×F=0

が成り立つことがわかる。 つまり,回転がゼロの力は保存力であり,その逆も成り立つ。 保存力の回転がゼロであることは,任意のスカラー関数ϕについて成り立つベクトル公式

(21)×ϕ=0

からも確かめられる。