ここで説明するのは以下の図のように,回転する棒があって,それに力を入れて回転させるとき,より効率的で勢いよく回すには
という直観的にもわかりやすいことで,それを表す力のモーメントとという量が存在する,ということである。
運動の基本法則から,質点(大きさのない点)の場合は,外力(外からかかっている力)の和がゼロであれば力のつり合いが保たれていて,運動の様子に変化は起きないといえた。 しかし,物体が大きさを持つ場合には事情が変わってくる。 質点が静止している条件は,それに作用する力の和が0であることであった。 例えば図のような,大きさがあり全体として回転が可能な系を考えたらどうなるだろうか。
例: 図1のように,中心が支点となっている重さを無視できる固い棒の両端に,球1と2がつけられている。これらの球に,それぞれ力をかけて全体を効率よく回転させるにはどうすればよいだろうか。棒の中心を原点$o$とし,それぞれの球の位置を$\bm{x}_1$および$\bm{x}_2$とする。また,簡単のために,球はどちらも同じ質量$m$をもっており,かける力の大きさも同じだとする。
図1
これらの球に力を加えるとしても,球1と2それぞれにかかる力の向きがどちらも球と球を結ぶ直線と平行であれば,この系は回転をしないということが想像できるだろう(図2左)。一方力が,符号は反対で球同士が結ぶ直線と直交する方向を向いていれば,最も効果的に回転の勢いを与えられることがわかる(図2右)。さらに,それぞれの腕の長さ(球の位置の原点からの距離)が大きければ,回転の勢いは増す。
つまり,この場合,それぞれの力の向きと腕の位置の外積
が,回転の勢いを与えるある種の効率に対応する量を表しているとみなせる。改めて,力がどちらも腕方向を向いている最初の例において,この量の大きさは
と0になる一方で,力が腕と直交している場合は
と与えられた腕の長さと力に関して最大値をとることが確認できる。
物体の位置$\bm{x}$とそこに働く力$\bm{F}$の外積
として定義されるこのより一般的な量は力のモーメント(moment of force),あるいはトルク(torque)と呼ばれる。上の例で見たように,例え系全体にかかる外力の和がゼロであっても,剛体(大きさはあるが,変形しない物体)の場合は,回転運動も可能になるから,力のモーメントのつり合いが保たれていなければ物体のつりあいは保たれない。