Newton力学の基礎:運動の法則

Dr. SSS 2019/06/06 - 15:38:16 77622 古典力学
はじめに

ここでは,Newton力学の基本的概念である,「運動量」,「力」,および「運動の法則」についてわかりやすく説明する。難しい数学は使わないから,数学に苦手意識がある人でも大丈夫。


keywords: Isaac Newton, 古典力学, 高校物理

内容

運動量

Newton力学において,運動量(momentum)$\bm{p}$は,質量$m$かける速度$\bm{v}$で与えられる:

\begin{align} \bm{p}=m\bm{v} \end{align}

この量は,比較的直観的な解釈がしやすく,「運動の勢い」を表していると考えることができる。同じ大きさの球が飛んできてあなたに当たったとしたら,その球の質量と速度が大きければ大きいほど,大きな衝撃を感じることが想像できるだろう。

この量は,角運動量(angular momentum)と呼ばれる別の量と区別するために,線形運動量(linear momentum)と呼ばれることもある。

運動量や速度は太字で表してあるが,これは,大きさだけではなく向きも持つベクトル量であることを示している。


力とNewtonの運動方程式

次に,物体の運動量を変化させることを考える。 運動量$\bm{p}$の変化を,変化を起こすのに要した時間を$\Delta t$で割れば,運動量の時間変化率が得られる。この量

\begin{align} \label {Fp} \bm{F}=\frac{\Delta \bm{p}}{\Delta t} \end{align}

力(force)といい,式(\ref{Fp})によって表される,物体の運動のしかたと力の関係を示す法則を,運動の法則(laws of motion)という。また,式(\ref{Fp})をNewtonの運動方程式という。

この量も直観的に理解しやすい。例として質量は一定の場合を考えよう。このとき,運動量$\bm{p}$の変化$\Delta \bm{p}$は,速度の変化$\Delta \bm{v}$を使って

\begin{align} \Delta \bm{p}=m\Delta \bm{v} \end{align}

と書けるから,力は

\begin{align} \label {dvdt} \bm{F}=m\frac{\Delta \bm{v}}{\Delta t} \end{align}

となる。これを

\begin{align} \frac{\Delta \bm{v}}{\Delta t}=\frac{\bm{F}}{m} \end{align}

と変形すると,「力が大きければ大きいほど速度を増加させることができる一方で,質量が大きければ大きいほど,速度を増加させることがむつかしい」ということが見て取れる。 この速度の時間変化率を,加速度(acceleration)という。静止している物体を押して加速させる場合や,勢いよく走っている車を減速させる場面を考えるとイメージしやすいだろう。


鉄の塊を動かすほうが,空の段ボールを動かすより困難である。

ただし,本質的な見方をするなら,力はこのように運動量の変化率として「定義」されるようなものではなく,力それ自体で独自に性質を持つものであるということを注意しておく。 この点については最後にも簡単に触れる。

複数の力が作用している場合,式(\ref{Fp})における力$\bm{F}$は,その物体に働くすべての力のとなる。 例えば,物体に逆方向の力$\bm{F}_1$と$\bm{F}_2$が作用している場合,物体に作用する正味の力は

\begin{align} \label{eq:Fsum} \bm{F}=\bm{F}_1+\bm{F}_2 \end{align}

であり,それらの力の大きさが等しい場合,正味の力は$\bm{F}=\bm{F}_1+\bm{F}_2=0$となり,運動量は変化しない。


運動量保存則

改めて,(\ref{Fp})より,$\bm{F}=0$の場合,物体の運動量は時間的に変化しないということがわかる。 これを,運動量保存則(conservation of momentum)という。この運動量保存則は,複数の物体から成る系でも一般に成り立つ。

例えば二つの粒子が衝突した場合,互いの間で力を及ぼしあい,運動量を交換するが,それらの運動量の合計は変化しない。 すなわち,それぞれの粒子の運動量を$\bm{p}_1$,$\bm{p}_2$とし,そのトータルの運動量を$\bm{p}_{tot}=\bm{p}_1+\bm{p}_2$とすれば,全運動量変化がゼロであるということは

\begin{align} \notag \frac{\Delta \bm{p}_{tot}}{\Delta t} =&\frac{\Delta \bm{p}_1}{\Delta t}+\frac{\Delta \bm{p}_2}{\Delta t} \\ \label{eqF-F} =& \bm{F}_1+\bm{F}_2 \\ \notag =&0 \end{align}

と表せる。ここで$ \bm{F}_1=\Delta \bm{p}_1/\Delta t$および$ \bm{F}_2=\Delta \bm{p}_2/\Delta t$である。


衝突後のそれぞれの物体の運動量は変化するため,「'」をつけて表しているが,その合計は変わらない。




作用反作用の法則と慣性の法則

式(\ref{eqF-F})は

\begin{align} \label {FF} \bm{F}_1=-\bm{F}_2 \end{align}

と変形できるが,$\bm{F}_1$とは,粒子1が粒子2によって及ぼされた力であり,$\bm{F}_2$は,反対に粒子1が粒子2に及ぼした力であるから(\ref{FF})は「物体が他の物体に力を及ぼすとき,大きさは同じで,逆符号の力を受ける」ということを表していると読める。 これを作用反作用の法則(law of action-reaction)という。また,(\ref{dvdt})より,質量が一定で力が加わっていない物体は,一定の速度で運動を続けるということがわかる。 これを,慣性の法則(law of inertia)という。


運動の法則のまとめとより詳細な意味

ここで得られた法則は,以下のようにまとめられる:

  • 運動の第一法則(慣性の法則): 物体は力の作用を受けない限り,静止または一定速度の運動を続ける。すなわち,$\bm{F}=0$ならば$\bm{v}=$一定。
  • 運動の第二法則(運動の法則):運動量の変化は,その物体に作用する力に等しく,その向きは力の向きと一致する。すなわち

    \begin{align} \Delta \bm{p}=\bm{F}\Delta t \end{align}

  • 運動の第三法則(作用反作用の法則):物体が他の物体に力を及ぼすとき,同じ大きさで逆方向の力を受ける。

こうして見ると,第一法則(慣性の法則)は運動法則の特殊な場合に過ぎないように思える。 しかし,実際にはそれ以上の意味がある。 第一法則は,力が働かない場合,物体は一定の速度(速度が0の場合も含む)を保つことを述べているが,加速しながら運動する物体の視点から見ればこの法則は成り立たない。 言い換えれば,第一法則はむしろその主張が成り立つ基準となる座標系が取れるということを述べているとみなすことができる。 そのような座標系を慣性系(inertial frame of reference)という。 そして,第二法則は慣性系において成り立つ法則であるため,慣性系の存在を主張する第一法則の上に成り立つ。 数式としては第二法則の特殊な場合に過ぎない第一法則を,第二法則とは独立に記述する意義はここにある。

また,第二法則は,運動の法則のみを見れば,むしろ力の定義式のようにみなせる。 本ページでも,簡単のためにそうした議論の仕方を採用した。 だが,力とは運動量の変化率であり,運動量の変化率は力に等しいといったところで何も得るものはない。 実際には,力とは運動の法則とは独立に実在を持つものであり,運動の三法則はそれと組み合わせることで完全なものとなる。


最後に大事なことを指摘しておかなければならない。 この記事では,変化率を考える際,その時間幅については明言してこなかった。しかし,基本的に知りたい量は瞬間の量である。

その瞬間的な変化率を得るには,時間幅を限りなく0に近づける必要がある。この操作は,微分と呼ばれる操作であり,微分とそれを使ったより正確な定義については,『微分とNewtonの運動方程式』で解説してあるため,参照してもらいたい。 全体として,より厳密な導入は『Newton力学における時間と空間および運動の法則』,で行っている。


参考文献