Euler-Lagrange方程式

Dr. SSS 2019/06/29 - 08:14:41 4613 古典力学

古典力学がNewton 個人の超人的・特異点的功績により一挙に出来上がり完成したという見方は,非歴史的である…通常「Newton力学」と称されている古典力学は, Newtonによるこの総合を批判的に継承し発展させたヨーロッパの知的エリート, とりわけ大陸の数学者達のネットワークのほぼ1世紀にわたる連続した協同作業により形成されていったのである。 ―山本義隆『古典力学の形成

はじめに

ここでは,物理学において最も重要な概念のいくつかである,Lagrangian,作用,最小作用の原理そして,Euler-Lagrange方程式などについて説明する。変分とは何か,汎関数とは何か,位置と速度を独立変数とみなすとはどういう意味なのか,といった疑問がある方は,先に『変分法:2点間の最短距離』を参照してもらいたい。


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内容

Newton力学の復習

力$\bm{F}$と,物体の質量$m$が既知である場合,Newtonの運動方程式

\begin{equation} m\ddot{\bm{x}}=\bm{F} \end{equation}

は,積分定数に対応する初期位置と初期速度が与えられれば,解として軌道$\bm{x}(t)$を与え,それにより我々は,未来でも過去でも,各時刻における質点の位置が決定できるようになるのであった。 つまり,運動の予測に必要な情報は各時刻における位置と速度の値であり,これらを指定することを力学的状態を決定するというのであった。

位置を指定するのに,必ずしもCartesian 座標を用いる必要はない。 $(x,y,z)$の代わりに,極座標$(r,\theta,\phi)$を用いてやってもいいし,都合が良ければ他の座標を使ってもいい。 しかし,1つの粒子の位置の指定に用いる変数の数は,拘束条件がなければどの座標系を用いても$3$次元なら$3$個と変わらない。 拘束条件というのは,例えば運動が$x$一定の領域に制限されており,位置を指定するのに$(y,z)$を指定すれば十分であるというような条件のことである。 位置の指定に必要なこの変数の数を自由度(degree of freedom)という。 $N$個の質点から成る一般の系の自由度は,$3N$から拘束条件の数を引いた数になる。

ところで,位置と速度が独立な変数であるということに違和感を持つ人がしばしばいるようだが,速度が位置と無関係な量だということを理解するのはむつかしくない。 例えば人々が行きかうストリートを考えてみよう。 いろんな人が異なる方向から様々な速さでやって来て同じストリートのレンガブロックを踏んでいくが,そのブロックを踏んだら一律に自動的に速度が決定されるということはなく,それぞれまた異なる速度で通り過ぎていく。

実際は,速度を決定するのは位置ではなく軌道の形である。 簡単のために1次元で考えると,速度$v(t)=\dot{x}(t)$は軌道$x(t)$の接線として与えられる。 このとき,接線の値は$x$の値によって決まるようにも見えるが,実際は$x(t)$の形とパラメータ$t$によって決まるのだということに注意しよう。 この点についてより詳しい説明が必要な場合は,『変分法:2点間の最短距離』を参照してもらいたい。



最小作用の原理とEuler-Lagrange方程式

さて,$N$個の質点の位置は,座標の取り方によらず,自由度の数$3N$の変数で指定できるのであった。 この$3N$の変数を一般的な表現として$q=(q^1,q^2,..., q^n)$とし,一般化座標(generalized coordinate)と呼ぶ。 また,この一般化座標によって構成される$3N$次元の空間を配位空間(configuraton space)と呼ぶ。 運動の状態を決定するのは,同じ数の速度変数も必要であったが,それは一般化座標の1階微分,一般化速度(generalized velocity)$\dot{q}=({\dot{q}}^1,{\dot{q}}^2,...,{\dot{q}}^n)$が担う。

この力学的状態を決定する変数である一般化座標と一般化速度を座標とする空間を,状態空間(state space)と呼ぶが,この状態空間上で,Lagrangianと呼ばれる関数$L(q,\dot{q},t)$が定義される。 非相対論的な古典的質点の場合,Lagrangianは,運動エネルギー$T$とポテンシャルエネルギー$U$の差

\begin{equation} L=T-U \end{equation}

で与えられる。 そして,物理的に実現される軌道は作用積分(action integral)あるいは単に作用(action)

\begin{equation} S[x] \equiv \int_{t_i}^{t_f}dtL(q,\dot{q},t), \end{equation}

が,始点と終点を固定した変分の下で不変であるという条件

\begin{equation} \delta S =\delta\int_{t_i}^{t_f}dtL(q,\dot{q},t)=0, \end{equation}

を満たす軌道として与えられるということがわかっている。 これを最小作用の原理(principle of least action)という。 ここで$t_i$と$t_f$はそれぞれ初期時刻と終時刻である。

実際に,微小パラメーター$\epsilon$と任意の関数$g(t)$から,$q(t)$の変分$\delta q(t)=\epsilon g(t)$を定義して加えると,軌道$q(t)$の形自体が変わるので,それに伴ってパラメータ$t$毎によるその接線$\dot{q}(t)$の関数形も変わり,$\dot{q}\to \dot{q}+\delta \dot{q}$となる。 よって,微小量の1次まででLagrangianの差は

\begin{equation} L(q+\delta q,\dot{q} + \delta \dot{q},t) -L(q,\dot{q},t) = \frac{\pd L(q,\dot{q},t)}{\pd q}\delta q +\frac{\pd L(q,\dot{q},t)}{\pd \dot{q}}\delta \dot{q} \end{equation}

となるから,作用積分は

\begin{equation} \delta S = \int_{t_i}^{t_f} \left[ \frac{\pd L(q,\dot{q},t)}{\pd q}\delta q +\frac{\pd L(q,\dot{q},t)}{\pd \dot{q}}\delta \dot{q}\right] dt \end{equation}

と変形できる。 そして

\begin{equation} \delta \dot{q} =\frac{d(q+\delta q)}{dt}-\frac{dq}{dt} =\frac{d}{dt} \delta q \end{equation}

を用いて,括弧内2項目を部分積分することで

\begin{equation} \delta S = \int_{t_i}^{t_f} dt \left[ \frac{\pd L(q,\dot{q},t)}{\pd q} - \frac{d}{dt} \frac{\pd L(q,\dot{q},t)}{\pd \dot{q}} \right]\delta q + \left[ \frac{\pd L(q,\dot{q},t)}{\pd \dot{q}}\delta q \right]_{t_i}^{t_f} \end{equation}

となり,最後の項は,両端を固定しているという条件,すなわち$\delta q(t_i)=\delta q(t_f)=0$より消える。 そして変分$\delta q$が任意であったことから,$\delta S$がゼロであるためには

\begin{equation} \label{eq:euler-lagrange_eq} \frac{\pd L(q,\dot{q},t)}{\pd q} - \frac{d}{dt} \frac{\pd L(q,\dot{q},t)}{\pd \dot{q}} =0 \end{equation}

が成り立つ必要があることがわかる。この式をEuler-Lagrange方程式(Eular-Lagrange equation)と呼ぶ。 成分毎に書けば

\begin{equation} \frac{\pd L(q,\dot{q},t)}{\pd q^i} - \frac{d}{dt} \frac{\pd L(q,\dot{q},t)}{\pd \dot{q}^i} =0 \end{equation}

である。

最小作用の原理と,そこから導かれるこの方程式は,物理学において極めて重要な役割を果たす。 その具体的な理由を理解するには,ここで漠然とした説明をするより実際の応用を見てもらう方が早いだろう。


参考文献