Newton力学における時間と空間および運動の法則

Dr. SSS 2023/07/02 - 09:50:58 1412 古典力学
はじめに

世界は絶えず変化している。 月は満ち欠けを繰り返し,太陽は登っては沈む。 太古の人々はこうした天体の運動に自分たちの運命を占った。 天体に神秘的な力はなくとも,物体の運動の法則を知ることができれば,未来を予測し,過去を推定できる。

物体の運動について,我々は日常的な経験からある程度の性質や規則性を認識している。 物体を投げ上げれば,重力によって次第に減速し,落下に転じる。 床の上に静止している物体を移動させるには力を加える必要がある。 床が粗ければ粗いほど,摩擦力によってその運動は妨げられる。 これらのことから,物体の運動には「力」が関係しており,力には方向性があるということがわかる。 こうした力と運動の間にある関係を扱うのが力学(mechanics)である。

ここでは,Newton力学の最も基本的な概念を導入する。


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内容

運動の法則

17世紀から18世紀にかけて,GalileoやNewtonらの研究を基に力学の基礎が築かれた。 Newtonは力と運動を関係づける運動の基本法則を次の3つにまとめあげた:

  1. すべての物体は,そこに作用する力によって変化を及ぼされない限り,静止状態,あるいは直線上の一様な運動を続ける。
  2. 運動の変化は及ぼされる駆動力に比例し,その力が及ぼされる直線方向に行われる。
  3. すべての作用に対し,常に等しい大きさの反作用が存在する。

これらの法則を数学的に表現しなおし,運動を定量的に記述するために,各用語の意味や定義を明確化していこう。

時間と空間

運動とは位置の変化のことである。 そして,我々の直感的認識では,位置の変化は時間経過に従って起こる。 よって,運動を定量的に記述するためには,まず運動が展開される空間と時間を数学的にモデルし,その基本的な性質を定める必要がある。

だがその前に,空間中に置かれた物体が,時間経過に従ってその位置変化を起こすという直感的描像に対していくつか批判的な考察をすべきだろう。 まず,時間や空間が物質に先行して存在しているという見方は正しいのだろうか? 我々は天体や時計の針などの物体の位置の変化から時間経過を測定している。 あるいは脳内の分子の運動がその認識を生んでいる。 しかし,もし一切の物体が運動を止めたら,あるいは物体が一切存在しない宇宙がありうるとしたら,それでも時間の流れが存在するといえるだろうか? 空間についても同様の疑問が生じる。 空間とは,物体同士の相対的な位置関係によって決まるものに過ぎないということはないだろうか? あるいはむしろ,物質と空間は互いにその状態を決定し合う関係にあるということはないだろうか? これらの問いに対する答えとして,そしてまた力学の基礎としてNewtonが主張したのが,絶対時間(absolute time)および絶対空間(absolute space)の存在である。 Newtonはこう説明している:

  • 絶対空間は,いかなる外的事物とも無関係に,その本性として常に不変で不動のものである。
  • 絶対的な,真の数理的時間とは,外部と一切かかわりなく,いかなる外的事物とも無関係に,その本性として,等しく流れるものである。

すなわちNewtonは,時間や空間は物質の状態とは無関係に存在しており,物質の状態にかかわらずどこでも等しく一様なもので,その性質は変化することがないと主張しているのである。

この仮定が正しいかどうかは実験によって検証される必要がある。 通常それは,この仮定に基づいて構築される数理モデルを用いて得られる計算結果が,観測結果と整合するかどうかによって判断される。 結論を言えば,この仮定に基づくモデルには限界があり,絶対時間・空間が存在するという信念が誤りであるということがEinsteinの相対性理論と,それを実証する実験によって明らかにされている。 しかし一方で,我々が日常的な時間・空間スケールで観測する現象の大半は,その理論の限界の内に収まる。 その意味で,Newtonの絶対時間・空間の概念は,我々の日常的な時間・空間スケールで生じる現象を十分な精度で記述する上で,妥当な仮定となる。 それゆえ,この仮定に基づいて構築されたNewton力学は大きな成功をおさめ,現在でも有用な理論として利用されているのである。 そして,相対性理論も,適切な極限でNewton力学の結果を再現する。

基準系の選択

上述の事情を踏まえ,我々はここで絶対時間・空間の仮定に基づくNewton力学を学ぶ。 一様な3次元の絶対空間は,3次元Euclid空間$\mathbb{R}^3$によって,絶対時間は$\mathbb{R}$によってモデルできる。 したがって,適当な座標系を設定すれば,物体の位置は3次元の位置ベクトル$\bm{x}$によって記述できる。 座標系としてはCartesian座標系を選択するのが便利だ。 このように各々の観測者が設定するCartesian座標系を基準系(frame of reference)と呼ぶことにしよう。 基準系は観測者が好きなように選択できるが,加速していない観測者が設定する慣性系(inertial frame of reference)と呼ばれる座標系が特別な意味を持つ。

しかし,いかにして自分が加速していないことを知ることができるだろうか? 運動の第一法則は,外力が作用しない限り,物体の速度は変化しないことを述べている。 では,外力が作用しているかどうかはどのようにすればわかるだろうか? 運動の第二法則によれば,それは運動の変化が手掛かりになるという。 しかしこれでは循環的だ:自分が速度を変える運動,すなわち加速運動をしているかどうかを知るには外力が作用しているかどうかを知る必要があり,外力が作用しているかどうかを知るには,自分が加速運動をしているかどうかを知る必要がある!

この問題から抜け出すためには,外力はいつも他の物体によって及ぼされるという経験的事実を利用する。 実際,どれだけ粗い地面も接触していない物体に摩擦力を及ぼさないし,最も身近な重力も地球という物体によって及ぼされるものであり,そこから遠く離れるほど,その影響は小さくなるということを我々は知っている。 そこで,運動の第一法則を,加速しているか否かや外力が働いているか否かに言及するのではなく,「他のあらゆる物体から隔絶された物体は,静止状態,あるいは直線上の一様な運動を続ける」と言い換えることにしよう。 そして,そのような物体の立場から決められる基準系を,慣性系と定義しよう。

もちろん,他のあらゆる物体から隔絶された状況というのも理想化されたもので,現実に用意することはできない。 しかし,状況に応じて近似的に慣性系の定義を満たすとみなせる基準系を設定することはできる。 例えば太陽系における惑星の運動について考えるとき,太陽系を孤立した系とみなし,中心にある太陽に固定された座標系を慣性系とみなせる。 我々にとってより身近な例が地球表面上に固定された座標系だ。 地球は自転や公転をしているし,地球上では地球による重力の影響も受ける。 しかし,考察する現象に比べ,自転および公転の速さが十分ゆっくりであるとみなせるようなものであり,現象が自転・公転周期よりも十分短い時間で完結するのでれば,これら回転運動の影響は無視してしまえる。 また,重力に関しては,地球上の慣性系で一様に作用する外力とみなす。 このようにすることで,地球上で展開される現象を慣性系に基づいて記述することが可能になる。



運動の記述

さて,座標の原点が選択できれば,物体の位置は3次元の位置ベクトル$\bm{x}$によって記述できる。 このとき,物体に大きさや形があると,変形や密度の偏りなどのややこしい性質に配慮しなければならなくなる。 そこで,物体を質量以外の性質はすべて取り払った大きさのない点で近似してしまおう。 このように理想化された対象を質点という。 座標系としてはCartesian座標系$(x_1,x_2,x_3)$を選択するのが便利だ。 すると,質点の位置は,固定された直交基底ベクトルを用いて

\begin{equation} \bm{x} = x_1\bm{e}_1 +x_2\bm{e}_2 +x_3\bm{e}_3 = \sum_{i=1}^3 x_i \bm{e}_i \end{equation}

のように指定できる。

位置が表現できれば,それを時間の関数とし,時間で微分することで,速度

\begin{equation} \bm{v} = \frac{d\bm{x}}{dt} = \frac{dx_1}{dt}\bm{e}_1 +\frac{dx_2}{dt}\bm{e}_2 +\frac{dx_3}{dt}\bm{e}_3 = \sum_{i=1}^3 \frac{dx_i}{dt} \bm{e}_i \end{equation}

が得られ,これを再び微分することで,速度の時間変化率,すなわち加速度が

\begin{equation} \bm{a} = \frac{d\bm{v}}{dt} = \frac{d^2\bm{x}}{dt^2} = \sum_{i=1}^3 \frac{d^2x_i}{dt^2} \bm{e}_i \end{equation}

と得られる。

運動の法則の数学的表現

これで,運動の法則を数学的に記述する準備が整った。 Newtonの第二法則で述べられている運動の変化とは,現代の言葉で運動量と呼ばれる

\begin{equation} \bm{p}=m\bm{v} \end{equation}

の変化に対応する。 したがって,質量が一定であれば,運動量の変化は

\begin{equation} \frac{d\bm{p}}{dt}=m\bm{a} \end{equation}

で与えられる。 そして,運動の第二法則はこれが力(force)と呼ばれる量に比例することを述べている。 よって,比例係数を含めて力を表すベクトルを$\bm{F}$とすれば,第二法則は次のようにして数学的に表現できる:

\begin{equation} \label{eq:Newton_2nd_law} m\frac{d^2\bm{x}}{dt^2}=\bm{F} \end{equation}

これを,運動方程式(equation of motion)という。 第二法則をこのような微分方程式に翻訳したのは,微分を発明したNewton自身ではなく,Eulerであったとされる(山本 1997)。 第一法則は,$\bm{F}=0$であれば,物体は静止状態あるいは一様な直線状の運動を続けると述べている。 これを,慣性の法則(law of inertia)という。 実際に(\ref{eq:Newton_2nd_law})の右辺を0とし,$m$を払うと

\begin{equation} \label{eq:Newton_1st_Law} \frac{d^2\bm{x}}{dt^2}=\frac{d\bm{v}}{dt}=0 \end{equation}

となる。 これは,速度$\bm{v}$の変化率が0であるということだから,第二法則が成り立てば,第一法則も確かに成り立つことが分かる。 しかし,上述の議論を思い出せば,第一法則が第二法則に内包されるのではなく,第一法則が成り立つような基準系,すなわち慣性系を取ることによって,第二法則の記述が可能になる。 したがって,運動の第一法則はむしろ,(\ref{eq:Newton_1st_Law})が成り立つ慣性系の存在を主張するものであるとみなすのが妥当だ。

最後に,第三法則は物体1が物体2に力$\bm{F}_{1\to 2}$を及ぼすとき,物体1は物体2から

\begin{equation} \bm{F}_{2\to 1}=-\bm{F}_{1\to 2} \end{equation}

の力を受ける,ということである。

ところ,ある慣性系$K$に対して等速度$\bm{u}$で運動している観測者が設定する基準系$K'$から見た物体の位置は$\bm{x}'$は,$K$系から見た位置$\bm{x}$と

\begin{equation} \label{eq:x_inertia} \bm{x}'=\bm{x}+\bm{u}t \end{equation}

の関係で結ばれる。 ここで,$t$は時間である。 (\ref{eq:x_inertia})を(\ref{eq:Newton_1st_Law})に代入すると

\begin{equation} \label{eq:exc_inertia} \frac{d^2\bm{x}'}{dt^2} =\frac{d^2\bm{x}}{dt^2} =0 \end{equation}

となるから,$K'$系も第一法則を満たす。 このように,ある慣性系に対して等速度運動する系も慣性系である。 しかし,$\bm{u}$が時間に依存する場合,(\ref{eq:exc_inertia})の関係は成り立たず,運動方程式は形が変わってしまう。 これが,慣性系が特別な意味を持つ理由である。

運動の法則のまとめ

運動の法則の内容を整理してまとめよう。

運動の法則:

  1. 外力が作用しない限り,物体の速度が一定に保たれる座標系,慣性系が存在する。
  2. 慣性系において,運動方程式

    \begin{equation} \notag m\frac{d^2\bm{x}}{dt^2}=\bm{F} \end{equation}

    が成立する。

  3. 2つの物体が相互作用するとき,互いに及ぼす力は大きさが等しく逆向きである:

    \begin{equation} \notag \bm{F}_{2\to 1}=-\bm{F}_{1\to 2} \end{equation}

ところで,我々はまだ,力というものが何なのかにということについて何も触れていない。 運動方程式を見れば,質量が分かっている物体の加速度から力の向きと大きさを測れることが分かる。 しかし,物体が加速しているのか,それを眺めている自分が逆方向に加速しているのかは,どちらに力が作用しているかがわからないと判断できない。 結局,ここでも循環的な議論にはまり込んでしまう。 これは,力の性質が運動の三法則だけからは定められないことを示している。 そして,はじめてある力が,それ自体の性質を数学的に厳密な形で記述することを可能にされた例が,Newtonによる万有引力の定式化である。


参考文献