はじめに
一般に,変数変換$(x_1,...,x_n)$から$(u_1,...,u_n)$により,体積要素は
\begin{equation}
dx_1\cdots dx_n
=
Jdu_1\cdots du_n
\end{equation}
と関係づけられる。
ここで
\begin{equation}
J
\equiv
\left|\frac{\pd(x_1,...,x_n)}{\pd(u_1,...,u_n)}\right|
\equiv
\det \left(\frac{\pd x_i}{\pd u_j}\right)
\end{equation}
$J$はJacobianである。
ここでは, 正準変換ではJacobianが常に1であり,したがって正準変数$(q_1,...,q_n,p_1,...,p_n)$から別の正準変数への変換$(Q_1,...,Q_n,P_1,...,P_n)$(あるいはその逆)において
\begin{equation}
\equiv
\int dq_1\cdots dq_n dp_1\cdots dp_n
=
\int dQ_1\cdots dQ_n dP_1\cdots dP_n
\end{equation}
が成り立つことを示す。
このことは,Liouvilleの定理(Liouville's theorem)と呼ばれる。
keywords:
相空間,
Jacobian,
正準変換,
Liouvilleの定理
内容
Jacobianの性質
定理を示すために,Jacobianの性質についておさらいしておこう。
改めて,Jacobian$|\pd(x_1,...,x_n)/\pd(u_1,...,u_n)|$は,行列要素を$A_{ij}=\pd x_i/\pd u_j$とする行列の行列式である。
そして,これと$B_{jk}=\pd u_j/\pd \xi_k$を要素とする行列の積は
\begin{equation}
A_{ij}B_{jk}
=
\sum_{k}
\frac{\pd x_i}{\pd u_j}
\frac{\pd u_j}{\pd \xi_k}
\end{equation}
となる。
よって,行列$A,B$の積の行列式$|AB|$は,行列$A,B$それぞれの行列式の積$|A||B|$に等しいという性質から
\begin{equation}
\left|\frac{\pd(x_1,...,x_n)}{\pd(u_1,...,u_n)}\right|
\left|\frac{\pd(u_1,...,u_n)}{\pd(\xi_1,...,\xi_n)}\right|
=
\left|\frac{\pd(x_1,...,x_n)}{\pd(\xi_1,...,\xi_n)}\right|
\end{equation}
が成り立つ。
すなわち,Jacobian同士の積を取るときは,Jacobianを分数のように扱える。
また,上の意味でのJacobianの分子と分母に共通の量がある場合,その量は定数のように扱われ,式が簡略化される。
簡単のために2変数$(x,y)$から$(u,v)$への変換で考えると
\begin{equation}
\begin{split}
\left.\frac{\pd(x,y)}{\pd(u,y)}\right|
=&
\left(\frac{\pd x}{\pd u}\right)_y\left(\frac{\pd y}{\pd y}\right)_u
-\left(\frac{\pd y}{\pd u}\right)_y\left(\frac{\pd x}{\pd y}\right)_u \\
%
=&
\left(\frac{\pd x}{\pd u}\right)_y
\end{split}
\end{equation}
となり,確かに共通の量,ここでは$y$,が定数となることがわかる。
Liouvilleの定理
$(Q_1,...,Q_n,P_1,...,P_n)$から$(q_1,...,q_n,p_1,...,p_n)$への変換におけるJacobianは
\begin{equation}
J
=
\left|\frac{\pd(Q_1,...,Q_nP_1,...,P_n)}{\pd(q_1,...,q_np_1,...,p_n)}\right|
\end{equation}
である。
ここで,上で述べた分数的な性質を用いて$|\pd(q_1,...,q_nP_1,...,P_n)|$を差し込み
\begin{equation}
J
=
\left.
\left|\frac{\pd(Q_1,...,Q_nP_1,...,P_n)}{\pd(q_1,...,q_nP_1,...,P_n)}\right|
\middle/
\left|\frac{\pd(q_1,...,q_np_1,...,p_n)}{\pd(q_1,...,q_nP_1,...,P_n)}\right|
\right.
\end{equation}
とすると,分子分母の共通因子が定数扱いになることから
\begin{equation}
J
=
\left.
\left|\frac{\pd(Q_1,...,Q_n)}{\pd(q_1,...,q_n)}\right|_P
\middle/
\left|\frac{\pd(p_1,...,p_n)}{\pd(P_1,...,P_n)}\right|_q
\right.
\end{equation}
と簡略化される。
ここで,分子は$\pd Q_i/\pd q_j$を,分母は$\pd p_i/\pd P_j$を$ij$要素とする行列の行列式になっている。
ここで,$F(q,P)$型の母関数を用いた正準変換の性質
\begin{equation}
p_i=\frac{\pd F}{\pd q_i},
\quad
Q_i=\frac{\pd F}{\pd P_i}
\end{equation}
を思いだすと,分子,分母の行列要素はそれぞれ
\begin{equation}
\frac{\pd Q_i}{\pd q_j}
=
\frac{\pd^2 F}{\pd q_j \pd P_i}
\end{equation}
および
\begin{equation}
\frac{\pd p_i}{\pd P_j}
=
\frac{\pd^2 F}{\pd q_i \pd P_j}
\end{equation}
となる。
すなわちJacobianの分子分母は,互いに行と列を入れ替えた(転置な)関係にある行列の行列式である。
そして転置しても行列式の値は変わらないから,Jacobianは恒等的に1になる。
こうして定理が確かめれた。
相空間内の運動とLiouvilleの定理
正準変換のところで議論したように,相空間内の運動も正準変換とみなすことができる。
相空間の各点は,それぞれ異なる系の力学的状態に対応し,運動方程式に従って相空間内を移動する。
よって,ある時刻における相空間内のある領域$d\Gamma$を取り,その変化を追跡することは,初期条件がわずかに異なる系の運動を追跡することに対応する。
$d\Gamma$は時間とともに相空間内で形を変えていくが,Liouvilleの定理によれば,体積$d\Gamma$は不変に保たれる。
この性質は,統計力学において重要な役割を果たす。