Liouvilleの定理

Dr. SSS 2023/10/29 - 13:49:27 325 古典力学
はじめに

一般に,変数変換$(x_1,...,x_n)$から$(u_1,...,u_n)$により,体積要素は

\begin{equation} dx_1\cdots dx_n = Jdu_1\cdots du_n \end{equation}

と関係づけられる。 ここで

\begin{equation} J \equiv \left|\frac{\pd(x_1,...,x_n)}{\pd(u_1,...,u_n)}\right| \equiv \det \left(\frac{\pd x_i}{\pd u_j}\right) \end{equation}

$J$はJacobianである。

ここでは, 正準変換ではJacobianが常に1であり,したがって正準変数$(q_1,...,q_n,p_1,...,p_n)$から別の正準変数への変換$(Q_1,...,Q_n,P_1,...,P_n)$(あるいはその逆)において

\begin{equation} \equiv \int dq_1\cdots dq_n dp_1\cdots dp_n = \int dQ_1\cdots dQ_n dP_1\cdots dP_n \end{equation}

が成り立つことを示す。 このことは,Liouvilleの定理(Liouville's theorem)と呼ばれる。


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内容

Jacobianの性質

定理を示すために,Jacobianの性質についておさらいしておこう。 改めて,Jacobian$|\pd(x_1,...,x_n)/\pd(u_1,...,u_n)|$は,行列要素を$A_{ij}=\pd x_i/\pd u_j$とする行列の行列式である。 そして,これと$B_{jk}=\pd u_j/\pd \xi_k$を要素とする行列の積は

\begin{equation} A_{ij}B_{jk} = \sum_{k} \frac{\pd x_i}{\pd u_j} \frac{\pd u_j}{\pd \xi_k} \end{equation}

となる。 よって,行列$A,B$の積の行列式$|AB|$は,行列$A,B$それぞれの行列式の積$|A||B|$に等しいという性質から

\begin{equation} \left|\frac{\pd(x_1,...,x_n)}{\pd(u_1,...,u_n)}\right| \left|\frac{\pd(u_1,...,u_n)}{\pd(\xi_1,...,\xi_n)}\right| = \left|\frac{\pd(x_1,...,x_n)}{\pd(\xi_1,...,\xi_n)}\right| \end{equation}

が成り立つ。 すなわち,Jacobian同士の積を取るときは,Jacobianを分数のように扱える。

また,上の意味でのJacobianの分子と分母に共通の量がある場合,その量は定数のように扱われ,式が簡略化される。 簡単のために2変数$(x,y)$から$(u,v)$への変換で考えると

\begin{equation} \begin{split} \left.\frac{\pd(x,y)}{\pd(u,y)}\right| =& \left(\frac{\pd x}{\pd u}\right)_y\left(\frac{\pd y}{\pd y}\right)_u -\left(\frac{\pd y}{\pd u}\right)_y\left(\frac{\pd x}{\pd y}\right)_u \\ % =& \left(\frac{\pd x}{\pd u}\right)_y \end{split} \end{equation}

となり,確かに共通の量,ここでは$y$,が定数となることがわかる。



Liouvilleの定理

$(Q_1,...,Q_n,P_1,...,P_n)$から$(q_1,...,q_n,p_1,...,p_n)$への変換におけるJacobianは

\begin{equation} J = \left|\frac{\pd(Q_1,...,Q_nP_1,...,P_n)}{\pd(q_1,...,q_np_1,...,p_n)}\right| \end{equation}

である。 ここで,上で述べた分数的な性質を用いて$|\pd(q_1,...,q_nP_1,...,P_n)|$を差し込み

\begin{equation} J = \left. \left|\frac{\pd(Q_1,...,Q_nP_1,...,P_n)}{\pd(q_1,...,q_nP_1,...,P_n)}\right| \middle/ \left|\frac{\pd(q_1,...,q_np_1,...,p_n)}{\pd(q_1,...,q_nP_1,...,P_n)}\right| \right. \end{equation}

とすると,分子分母の共通因子が定数扱いになることから

\begin{equation} J = \left. \left|\frac{\pd(Q_1,...,Q_n)}{\pd(q_1,...,q_n)}\right|_P \middle/ \left|\frac{\pd(p_1,...,p_n)}{\pd(P_1,...,P_n)}\right|_q \right. \end{equation}

と簡略化される。 ここで,分子は$\pd Q_i/\pd q_j$を,分母は$\pd p_i/\pd P_j$を$ij$要素とする行列の行列式になっている。

ここで,$F(q,P)$型の母関数を用いた正準変換の性質

\begin{equation} p_i=\frac{\pd F}{\pd q_i}, \quad Q_i=\frac{\pd F}{\pd P_i} \end{equation}

を思いだすと,分子,分母の行列要素はそれぞれ

\begin{equation} \frac{\pd Q_i}{\pd q_j} = \frac{\pd^2 F}{\pd q_j \pd P_i} \end{equation}

および

\begin{equation} \frac{\pd p_i}{\pd P_j} = \frac{\pd^2 F}{\pd q_i \pd P_j} \end{equation}

となる。 すなわちJacobianの分子分母は,互いに行と列を入れ替えた(転置な)関係にある行列の行列式である。 そして転置しても行列式の値は変わらないから,Jacobianは恒等的に1になる。 こうして定理が確かめれた。

相空間内の運動とLiouvilleの定理

正準変換のところで議論したように,相空間内の運動も正準変換とみなすことができる。 相空間の各点は,それぞれ異なる系の力学的状態に対応し,運動方程式に従って相空間内を移動する。 よって,ある時刻における相空間内のある領域$d\Gamma$を取り,その変化を追跡することは,初期条件がわずかに異なる系の運動を追跡することに対応する。 $d\Gamma$は時間とともに相空間内で形を変えていくが,Liouvilleの定理によれば,体積$d\Gamma$は不変に保たれる。 この性質は,統計力学において重要な役割を果たす。


参考文献