剛体の転がり

Dr. SSS 2019/05/30 - 08:36:04 7210 古典力学
Source: GIFER
はじめに

剛体が坂を転がる例を考える。剛体は質点と違い大きさがあり,かつ形が変わらない物体のことを指す。 この場合,回転の自由度も持つため,位置エネルギーの変化が並進エネルギーだけでなく,回転のエネルギーにも持っていかれる。 よって,慣性モーメントが小さく,回転に費やすエネルギーが小く済む物体ほど速く坂を下り落ちる。 以下でこのことを数式を使って説明する。 ポイントは以下の通りだ:

  • 剛体は回転もできる。
  • 高さが下がると位置エネルギーが運動エネルギーに変換される。
  • 運動エネルギーは,並進のエネルギーと回転のエネルギーに分けられる。
  • 回転させやすい物体ほど,運動エネルギーを並進エネルギーにたくさん分配できる。


keywords: 古典力学, 剛体, 慣性モーメント

内容

転がる速さ

$xy$平面内の坂を滑らずに転がる丸い剛体の運動を考える。 剛体の場合,運動エネルギー$K$は,並進のエネルギー$MV^2/2$に加えて,回転のエネルギー$I\omega^2/2$が加わり

\begin{align} K=\frac{1}{2}MV^2+ \frac{1}{2}I\omega^2 \end{align}

となる。 ここで,$M$は全質量,$V$は重心の速度の大きさ,$I$は慣性モーメント,$\omega$は角速度(回転の速さ)である。 質量が物体の動かしにくさとみなせるのと同様に,慣性モーメントは物体の回転させにくさとみなせる。

重力加速度を$g$,物体の高さを$y$とすれば,重力エネルギーは$Mgy$なので,全エネルギー$E$は

\begin{align} \label {Eeq} \frac{1}{2}MV^2+ \frac{1}{2}I\omega^2 + Mgy=E \end{align}

となる。滑らずに転がる条件は,物体の半径を$a$とすれば$V=a\omega$であり,この条件を全エネルギーの式(\ref{Eeq})に入れると

\begin{align} \frac{1}{2} \left(M+ \frac{I}{a^2} \right) V^2 + Mgy=E \end{align}

となる。この式を時間で微分すると

\begin{align} \label {dEdt} \left(M+ \frac{I}{a^2} \right) V\frac{dV}{dt}= -Mg \frac{dy}{dt} \end{align}

である。

一方,$y$方向の速さは,斜面の角度を$\theta$とすれば

\begin{align} \frac{dy}{dt}=-V\sin{\theta} \end{align}

なので,これを(\ref{dEdt})に入れると

\begin{align} \left(M+ \frac{I}{a^2} \right) \frac{dV}{dt}= Mg \sin{\theta} \end{align}

となり,加速度が

\begin{align} \label {acc} \frac{dV}{dt}=\frac{Mg \sin{\theta}}{\left(M+ \frac{I}{a^2} \right)} \end{align}

と得られる。

あるいは,初速度$0$で転がる系が,傾斜に沿って$s$下ったときの速さは,エネルギー保存則

\begin{align} \frac{1}{2} \left(M+ \frac{I}{a^2} \right) V^2 = Mgs\sin{\theta} \end{align}

より

\begin{align} \label {Veq} V=\left( \frac{2 Mgs\sin{\theta} }{M+ I/a^2 }\right)^{1/2} \end{align}

と求められる。



(\ref{acc})あるいは(\ref{Veq})より,質量$M$と半径$a$が等しければ,慣性モーメント$I$が小さいほうが速く転がることがわかる。




慣性モーメントの違い

質量分布が一様なら,筒では$I=a^2M$,球殻(中身が殻の球)では$I=(2/3)a^2M$,円柱では$I=(1/2)a^2M$,球では$I=(2/5)Ma^2$となる。

トップのgif画像の例は,立方体を除いて,同じ半径の筒,球殻,円柱,球が滑りなく転がっているもので,緑の球が球殻,赤いの球が詰まった球であると思われる。立方体の場合は回転していないので,(\ref{acc})あるいは(\ref{Veq})において$I=0$の場合を考えればいい。



参考文献