アイコナール方程式

Dr. SSS 2023/10/19 - 11:41:29 985 古典力学
はじめに

特定の条件を満たす波は,平面波によって近似できる。 力学的な観点からは,古典的粒子の運動も,ある種の波に対する同様の近似の結果として理解することを可能にするため,この近似に伴う種々の概念は重要な意味を持つ。 この波動と力学のアナロジーについては別で扱うとして,ここではその近似に関係する基本概念を説明する。


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内容

アイコナール

平面波は,伝播方向が位置と時間の依存性は指数関数の肩にのみ含まれており,振幅は定数であった。 また,波数ベクトルも位置に独立で,伝播方向はどの場所でも同じであった。 しかし,任意の波はこの性質を持たない。 それでも,波の振幅と伝播方向の変化スケールが,波長スケールよりも十分大きい場合,すなわち1波長の間の変化がわずかである場合,近似的に平面波として扱うことができる。

これらの条件が成り立つ場合,射線(ray)[光であれば光線(ray of light)]と呼ばれる概念が利用できる。 射線とは,波の伝播経路を線で表すもので,その線の接線が,波の伝播方向に対応する。 また,光を射線として扱う分野を幾何光学(geometrical optics)[音であれば幾何音響学(geometrical acoustics)]という。

射線の基本的な性質を調べよう。 まず,波動場を

\begin{equation} \phi(\bm{x},t)=a(\bm{x},t)\exp[i\psi(\bm{x},t)] \end{equation}

の形に置く。 位相$\psi$の変化が緩やかであるという仮定から,微小な空間領域において,短い時間で

\begin{equation} \psi(\bm{x},t) \simeq \psi_0 +(\bm{x}-\bm{x}_0)\cdot\nabla\psi +(t-t_0)\frac{\pd\psi}{\pd t} \end{equation}

と近似できる。 ここで,$\psi_0=\psi(\bm{x}_0,t_0)$とした。 同様の仮定の下,平面波とみなせることから,$\psi_0$を移項して極限を取ることで

\begin{equation} \label{eq:eikonal_k_omega} \bm{k} = \nabla \psi, \quad \omega = -\frac{\pd\psi}{\pd t} \end{equation}

という関係を定義できる。 こうして導入される$\psi$を,アイコナール(eikonal)という。



アイコナール方程式

分散関係$\omega^2=c^2k^2$に(\ref{eq:eikonal_k_omega})を代入すると

\begin{equation} \left(\frac{\pd\psi}{\pd x}\right)^2 +\left(\frac{\pd\psi}{\pd y}\right)^2 +\left(\frac{\pd\psi}{\pd z}\right)^2 -\frac{1}{c^2}\left(\frac{\pd\psi}{\pd t}\right)^2 =0 \end{equation}

を得る。 これを,アイコナール方程式(eikonal equation)という。


参考文献