循環とその保存

Dr. SSS 2024/09/01 - 16:56:15 15 流体力学
はじめに


keywords: Kelvinの循環定理, 循環, 渦度

内容

循環

理想流体の流れの基本的な定理が,循環定理である。 ある閉曲線$C$に沿った循環(circulation)は,$C$に沿った速度場の積分

\begin{equation} \Gamma =\oint_C \bm{v}\cdot d\bm{l} \end{equation}

で定義される。

ある時刻で流体中に描いた閉曲線は,流体の運動とともに変形していく。 そのため,上の積分中で,速度だけではなく,線素$d\bm{l}$も時間に依存する。 すなわち,循環の時間変化率は

\begin{equation} \label{eq:dcirculation_dt} \frac{D}{Dt} \oint_C \bm{v}\cdot d\bm{l} = \oint_C \frac{D\bm{v}}{Dt}\cdot d\bm{l} +\oint_C \bm{v}\cdot \frac{D}{Dt}d\bm{l} \end{equation}

となる。

この2項目からの寄与を評価しよう。 線素$d\bm{l}$の両端の座標を$\bm{x}_A$と$\bm{x}_B$とすると,$d\bm{l}=\bm{x}_B-\bm{x}_A$である。 よって

\begin{equation} \frac{D}{Dt}d\bm{l} = \frac{D}{Dt}(\bm{x}_B-\bm{x}_A) = \bm{v}(\bm{x}_B)-\bm{v}(\bm{x}_A) =d\bm{v} \end{equation}

である。 したがって(\ref{eq:dcirculation_dt})の2項目は結局

\begin{equation} \begin{split} \oint_C \bm{v}\cdot \frac{D}{Dt}d\bm{l} =& \oint_C \bm{v}\cdot d\bm{v} \\ % =& \oint_C d\left(\frac{1}{2}v^2\right) \\ % =& 0 \end{split} \end{equation}

となり消える。 最後,全微分の周回積分はゼロであることを用いた。



Kelvinの循環定理

こうして得られた

\begin{equation} \frac{D}{Dt} \oint_C \bm{v}\cdot d\bm{l} = \oint_C \frac{D\bm{v}}{Dt}\cdot d\bm{l} \end{equation}

に,エンタルピー密度$h$を用いたEuler方程式の表現

\begin{equation} \frac{D\bm{v}}{Dt} =-\nabla h \end{equation}

を用いると

\begin{equation} \frac{D}{Dt} \oint_C \bm{v}\cdot d\bm{l} = -\oint_C \nabla h\cdot d\bm{l} \end{equation}

となるが,Stokesの定理と,任意のスカラー$f$に関する恒等式$\nabla\times\nabla h=0$を用いると

\begin{equation} \label{eq:circ_rot_h_zero} \oint_C \nabla h\cdot d\bm{l} = \oint \nabla \times h \cdot d\bm{S} = 0 \end{equation}

のように,恒等的にゼロになる。 したがって

\begin{equation} \frac{D}{Dt}\Gamma = \frac{D}{Dt} \oint_C \bm{v}\cdot d\bm{l} = 0 \end{equation}

あるいは

\begin{equation} \Gamma = \oint_C \bm{v}\cdot d\bm{l} = \text{const}. \end{equation}

という結果を得る。 これを,Kelvinの循環定理(Kelvin's circulation theorem)と呼ぶ。

これは,途中で外力の内Euler方程式を仮定して得られた結果であることに注意しよう。 非保存的な外力[式(\ref{eq:circ_rot_h_zero})に対応する部分で$\nabla\times\bm{f}=0$とならない力$\bm{f}$]が作用していたり,$\nabla p/\rho$をスカラーの勾配で表せなかったりする場合(順圧でない場合)は,循環定理は成り立たない。


参考文献