電磁波を伝える仮想的な媒質,エーテルの存在を否定し,相対性理論の確立に導いたMichelson–Morley実験について説明する。
光が電磁波であるということは,その波を伝える媒質が存在するはずだ,と19世紀の科学者たちは考え,その仮想的な媒質にエーテル(ether)という名前を付けて呼んだ。
エーテルが真空中に満ちているとすると,エーテルに対して相対的に運動している系では光の速度は伝播方向によって変わるはずである。地球は実際に回転しているため,この伝播速度の差が生じることが予測される。
この差を検出するために,Maxwellが提案した実験を1881年にMichelsonが実行し,その後改良を行って1887年に同僚のMorleyと共に優位な結果を出した実験が,有名なMichelson-Morley実験である。その結果はエーテルの存在に対して否定的なものだった。
実験の概略を述べると,地球をエーテルに対して速さ$v$で運動する慣性系とみなして,発した光を$v$と垂直方向と平行方向の二方向に分離し,それぞれ分離点から距離$l$離れた鏡で反射した光を干渉させ,位相差を見るというものである。
エーテルが,相対的に右から左に速さ$v$で動いているように見える慣性系で,光源から発せられた光がハーフミラーで二方向に分離され,帰ってきた光の位相差が干渉計で検出される。
$v$と平行方向の光の場合,距離$l$離れた鏡で反射して戻るのにかかる時間は行きで$l/(c-v)$,帰りで$l/(c+v)$なので
となる。ここで$\beta\equiv v/c$,$c$は光速である。一方,垂直方向の光が同じ行き帰りをするのに要する時間は,三平方の定理
より
となる。
これらより,経路の違いによる経過時間の差は
となる。
実際の実験では,装置を回転させることでこの二倍の時間差を稼ぎ,位相差への寄与
を計測しているが,優位な値は検出されなかった($\nu$は振動数)。
エーテルが地球に引きずられて運動しているという見方も挙がったが,そうすると地球から離れるにつれ引きずりの速度に差が生じ,天体からの光の伝播に影響を与えるはずだが,そのような証拠は得られなかった。
その後,これらの結果を解釈するために,エーテルの存在を保持した説としてFitzGeraldとLorentzにより,エーテルに対して運動する物体の長さが収縮するという収縮仮説が唱えられる。 そしてその10年ほど後に,Einsteinによるエーテルの存在を仮定しない特殊相対性理論が発表される。