はじめに
特殊相対性原理と呼ばれる特殊相対性理論の2つの基本的な前提
- 物理法則はどの慣性系でも同じ(相対性原理)
- 光速は,すべての慣性系で同じ(光速不変の原理)
に基づいて,2つの異なる慣性系$K$と$K'$を結ぶ関係式を導出する。
keywords:
相対性理論,
Lorentz変換,
特殊相対性理論,
Albert Einstein
内容
導出
時刻$t=t'=0$に,$K$系の原点$O$から球面状に光を発する。この光は時刻$t$に半径$ct$の球面上に達するが,その時の座標を$(x,y,z)$とすれば
\begin{align}
S^2\equiv(ct)^2-x^2 -y^2 -z^2=0
\end{align}
が成り立つ。一方,時刻$t'=0$で$K$系と原点を共有する$K'$系から見ると,時刻$t'$に光が達する座標を使って
\begin{align}
\label {S2}
S'^2\equiv(ct')^2-x'^2 -y'^2 -z'^2=0
\end{align}
が成り立つ。
ここで,$K$系から見た$K'$系の運動方向を$x$軸に取り,その速度の大きさを$v$とする。Galilei変換であればこれらの座標系の間の関係は
\begin{align}
t'=& t \\
x'=&x-vt \\
y'=&y \\
z'=&z
\end{align}
であるが,これを代入しても式(\ref{S2})は成り立たない。よって,特殊相対性原理を満たすには,別の変換則が必要になる。
この変換は慣性系同士の変換であるため,一方の観測系で等速運動であるものは,変換後の系で見ても等速運動でないといけない。また,$t$と$x$に依らず,$y$-$z$平面は両慣性系で一致しているはずであるから,$y$座標と$z$座標の関係は一般に
\begin{align}
y'=&K(v)y \\
z'=&K(v)z
\end{align}
の形に置ける。比例係数$K$が2つの座標で等しいのは空間の等方性に基づく。また空間の等方性から,速度の方向によって座標の伸縮に違いが生じてはならないため,$K(v)=K(-v)$でなければならず,変換を2度行うと恒等変換($K^2=1$)になることから$K=\pm 1$とわかる。そして,$v=0$で$y'=y$および$z'=z$となることから符号は正と決まり,$y$,$z$座標の変換は
\begin{align}
y'=&y \\
z'=&z
\end{align}
とわかる。
次に$x$と$t$の変換を考える。$y$と$z$の場合と同様に,これらの変換も線形でなくてはならず
\begin{align}
\label {tpr}
t' =& L_{00} t + L_{01} x \\
\label {xpr}
x' =& L_{10} t + L_{11} x
\end{align}
の形に置ける。
変換が線形ではなく,例えば$x'\propto x^2$のような形をしていた場合,元の系で長さの決まった棒が,新たな系で見ると場所によって長さを変えるといった奇妙がことが生じえてしまう。
$K'$系の原点$O'$を考えると
\begin{align}
L_{10} t + L_{11} x=0
\end{align}
であるから
\begin{align}
x=-\frac{L_{10}}{L_{11}}t
\end{align}
とわかる。$K$系から見ればその位置は$x=vt$で表されるから
\begin{align}
\label {Lv}
-\frac{L_{10}}{L_{11}}=v
\end{align}
<\div>
と決まる。(\ref{tpr})および(\ref{xpr})を(\ref{S2})に入れると
\begin{align}
c^2(L_{00}^2t^2+2L_{00}L_{01}+L_{01}^2x^2)
-(L_{10}^2t^2+2L_{10}L_{11}+L_{11}^2x^2)=0
\end{align}
となる($y$と$z$は省略している)。係数を整理すると,この式が恒等的に成り立つためには
\begin{align}
\notag
c^2L_{00}^2-L_{10}^2 = c^2 \\
\label {LL}
c^2L_{00}L_{01} = L_{10}L_{11} \\
\notag
c^2L_{01}^2 - L_{11}^2 = -1
\end{align}
を満たす必要があることがわかり,(\ref{Lv})および(\ref{LL})から係数が
\begin{align}
L_{00} =& \mp \frac{1}{\sqrt{1-(v/c)^2}} \\
L_{01} =& \pm \frac{v/c^2}{\sqrt{1-(v/c)^2}} \\
L_{10} =& \mp \frac{v}{\sqrt{1-(v/c)^2}} \\
L_{11} =& \pm \frac{1}{\sqrt{1-(v/c)^2}}
\end{align}
と求まる。そして,$v=0$で$x'=x$,$t'=t$であるという要請から符号が決まり,最終的に求める変換の公式
\begin{align}
ct' =& \frac{ct-\beta x}{\sqrt{1-\beta^2}} \\
x' =& \frac{x-\beta ct}{\sqrt{1-\beta^2}} \\
y' =& y \\
z' =& z
\end{align}
を得る。ここで$\beta\equiv v/c$である。これをLorentz変換と呼ぶ。
行列表現
これは,行列によって
\begin{align}
\left(\begin{array}{l}{c t'} \\ {x'} \\ {y'} \\ {z'}\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{cccc}{\gamma} & {-\beta \gamma} & {0} & {0} \\ {-\beta \gamma} & {\gamma} & {0} & {0} \\ {0} & {0} & {1} & {0} \\ {0} & {0} & {0} & {1}\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}{c t} \\ {x} \\ {y} \\ {z}\end{array}\right)
\end{align}
表すと便利である。ここで$\gamma\equiv1/\sqrt{1-\beta^2}$である。
逆変換
また,$K'$系から見れば$K$系は速度$-v$で運動しているため,$K'$系から$K$系への逆変換は
\begin{align}
\left(\begin{array}{l}{c t} \\ {x} \\ {y} \\ {z}\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{cccc}{\gamma} & {\beta \gamma} & {0} & {0} \\ {\beta \gamma} & {\gamma} & {0} & {0} \\ {0} & {0} & {1} & {0} \\ {0} & {0} & {0} & {1}\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}{c t'} \\ {x'} \\ {y'} \\ {z'}\end{array}\right)
\end{align}
となる。