はじめに
相対論的な粒子の運動を定式化するために,相対論的なLagrangianと作用およびHamiltonianを,発見的な方法で導く。
\setion{非相対論的Lagrangianとその問題}
まず,復習として,非相対論的な自由粒子の場合を思い出してみると,Lagrangianは運動エネルギーで与えられる:
\begin{equation}
\label{eq:nonrelativistic_L}
L=\frac{1}{2}mv^2
\end{equation}
しかしこのLagrangianから出てくる運動方程式はNewtonの運動方程式であって,相対論的な効果が含まれていないことは明らかである。
そこで,相対論的な効果を含んだ運動を記述するためには,別のLagrangianを見出す必要がある。
相対論的な自由粒子のLagrangianとしては,運動方程式が2階より高階の微分を含まないことに加え,Lorentz変換で不変であり,かつ非相対論的極限で(\ref{eq:nonrelativistic_L})に帰着するものでないといけない。
発見的方法
さて,『固有時間と時間の遅れ』のところで,世界間隔$ds$は,座標の1階微分までを含むLorentz不変なスカラーであることを見た。
そのため,この量に作用の次元に合わせるためになんらかの定数$\alpha$をかけた
\begin{equation}
S=\alpha \int ds =\alpha c \int \sqrt {1-\frac{v^2}{c^2}} dt
\end{equation}
という形の作用を考えてみる(作用の次元から,$\alpha$は質量かける速さの次元でないといけない)。
すなわちこの場合のLagrangianは
\begin{equation}
L = \alpha c \sqrt {1-\frac{v^2}{c^2}}
\end{equation}
である。
そして,この量は
\begin{equation}
v/c \ll 1
\end{equation}
において
\begin{equation}
\label{eq:L_expansion}
L \simeq \alpha c \left(1-\frac{1}{2} \frac{v^{2}}{c^{2}}\right)
= \alpha c -\frac{\alpha v^2}{2c}
\end{equation}
となり,$\alpha = -mc$と選ぶことで
\begin{equation}
L \simeq -mc^2 +\frac{mv^2}{2}
\end{equation}
と,確かに運動方程式に寄与しない定数項を除いて非相対論的なLagrangian (\ref{eq:nonrelativistic_L})に一致することがわかる。
$E=mc^2$
すなわち,相対論的な自由粒子のLagrangianおよび作用はそれぞれ
\begin{equation}
L = mc^2 \sqrt {1-\frac{v^2}{c^2}}
\end{equation}
および
\begin{equation}
S = mc \int ds = mc^2 \int \sqrt {1-\frac{v^2}{c^2}}
\end{equation}
とすることが自然であることがわかった。
これらの関数の形がわかれば,後は非相対論的な場合と同様の手続きによって,相対論的な運動量
\begin{equation}
p_i=\frac{\partial L}{\partial v^i}
=-m c^{2}\left(-\frac{v_i}{c^{2}}\right) \frac{1}{\sqrt{1-v^2 / c^2} }
=\frac{m v_i}{\sqrt {1-v^2/c^2 }}
\end{equation}
および,それを用いてHamiltonian
\begin{equation}
\begin{split}
H=p_i v^i - L
=& \frac{m v^{2}}{\sqrt {1-v^2/c^2 }}+mc^{2} \sqrt {1-\frac{v^2}{c^2}} \\
=& \frac{mc^2}{ \sqrt{1-v^2/c^2 }}
\end{split}
\end{equation}
が得られる。
Hamiltonianは相空間関数としての系の全エネルギーであるから,以下これを$E$と記そう。
(\ref{eq:L_expansion})と同じように,このHamiltonianを$v/c$で展開することで
\begin{equation}
E = mc^2 + \frac{1}{2}mv^2 + \cdots
\end{equation}
が得られ,非相対論的な極限で$mc^2$を除いて非相対論的な運動エネルギーと一致する。
また,$v=0$の場合は
\begin{equation}
E=mc^2
\end{equation}
となり,良く知れた質量とエネルギーの等価性を示す関係式が得られる。