Maxwellの方程式は、大統領10人束ねたよりも大きな影響を人類の歴史に及ぼしてきた。―カール・セーガン
はじめに
ここでは,Maxwellの方程式のうち,場の回転に関する法則(微分形)
\begin{align}
\notag
\nabla\times \bm{E} =& -\frac{\pd \bm{B}}{\pd t} \\
\notag
\nabla \times \bm{B} =& \mu_0 \left( \bm{j} +\varepsilon_0 \frac{\pd \bm{E}}{\pd t} \right)
\end{align}
(および積分系)
\begin{align}
\notag
\oint_C \bm{E}\cdot d\bm{l} =&-\frac{\pd}{\pd t} \int_S \bm{B}\cdot d\bm{S} \\
\notag
\oint_C \bm{B}\cdot d\bm{l} =& \mu_0 \int_S \left( \bm{j} +\varepsilon_0 \frac{\pd \bm{E}}{\pd t} \right) \cdot d\bm{S}
\end{align}
を導く。
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Ampèreの法則,
電磁気学,
Maxwellの方程式
内容
静磁場のAmpèreの法則
まず,静的な電磁場で成り立つ法則を考える。
静磁気学の基礎を復習することから始めよう。
電荷同士の間に力が働いたように,電流同士の間にも力が働く。
長さを無限とみなせるような長い直線電流$I_1$と$I_2$が平行に流れているとすると,互いの間に働く力の大きさは
\begin{equation}
F_{12} = \mu_0 \frac{I_1 I_2}{2\pi r}
\end{equation}
となることが経験的に確かめられていた。
比例係数は後の便宜のために選択してあり,定数$\mu_0$は真空の透磁率(vacuum magnetic permeability)あるいは磁気定数(magnetic constant)と呼ばれる。
また$r$は電流間の距離であり,力の方向は電流の向きと垂直で,互いを結ぶ線に沿った方向となる。
ただし,両方の電流が同じ向きに流れていれば引き合う向き,反対であれば退け合う向きに働く。
電場の場合と同様の考えから,この場合電流$I_1$によって作られる力を媒介する磁場の強さが
\begin{equation}
B = |\bm{B}|=\frac{\mu_0 I_1}{2\pi r}
\end{equation}
であると考えられる。
磁場$\bm{B}$の向きは,電流$I_1$に垂直な平面内で,電流の流れる向きに右手の親指を置いて右ネジを回す方向で,閉じた円の形を描く。
これを$I_1$を中心とする円周$C$に沿って積分すると
\begin{equation}
\label{eq:ampere_law_int}
\oint_C \bm{B}\cdot d\bm{l} = \mu_0 I_1
\end{equation}
となる。
ここで$d\bm{l}$は経路$C$の線素ベクトルである。
これは,静磁場のAmpèreの法則(Ampère's law)と呼ばれる。
実際は円周ではなく,任意の閉じた閉曲線を取ることができるが,Stokesの定理で説明したのと同様の考えから,経路が任意の形状をしていても限りなく微小な長方形の組み合わせで近似できるため,結論は同じになる。
(\ref{eq:ampere_law_int})の左辺にはStokesの定理を,右辺には電流は,電流密度を用いて
\begin{equation}
I = \int \bm{j}\cdot d\bm{S}
\end{equation}
と表せることを利用すれば,微分形
\begin{equation}
\label{eq:ampere_law_diff}
\nabla \times \bm{B} = \mu_0 \bm{j}
\end{equation}
が得られる。
電荷の連続の式
ここで,電荷の流れに関する連続の式を確認しておこう。
電荷$q$の体積当たりの密度を$\rho$,電流$I$の面積当たりの密度を$\bm{j}$とすると
\begin{equation}
\begin{split}
-\frac{\pd q}{\pd t} =&
-\frac{\pd}{\pd t} \int_V \rho dV \\
%
=&
\int_S \bm{j}\cdot d\bm{S}
= I
\end{split}
\end{equation}
の関係が成り立つ。
これは,ある体積$V$から出ていく電荷の総量は,それを囲む閉面積$S$を貫く電荷の流れの総量と同じである,ということを示している。
$\bm{j}$の面積分にGaussの定理を使えば,連続の式
\begin{equation}
\label{eq:electric_continuity}
\frac{\pd}{\pd t}\rho + \nabla \cdot \bm{j}=0
\end{equation}
が得られる。
静電場の回転の式
電場の場合も,電流を電荷に置き換えて同様に考えてみよう。
静電場の力線は電荷を中心に放射状に描かれるため,電荷を中心とする円を描く経路$C$に沿って電場を積分しようとすると,力線の方向は線素$d\bm{l}$と直交するため
\begin{equation}
\oint_C \bm{E} \cdot d\bm{l} =0
\end{equation}
となる。
図の赤線のように力線に沿った方向に経路を迂回することもできるが,経路を閉じさせるためには,力線に沿って逆方向に戻る経路も加える必要があるため,結局力線に接な方向への積分は寄与しない。
この場合もStokesの定理を使えば微分形
\begin{equation}
\nabla \times \bm{E}=0
\end{equation}
が得られる。
改めて,ここで得られた結果は静的な電磁場でのみ成り立つものであり,場が時間変化する場合は修正が必要となる。
時間変化する電磁場の回転
電磁場の発散と回転の4つの式のセットが得られたが,これだけでは十分ではない。
場が時間変化する場合の現象に対応するには,あと2つ加えなければならないことがある。
そのうちの1つは,Faradayが見出した,電磁誘導の法則である。
電磁誘導の法則
Faradayが発見したのは,磁場が時間的に変化すると,そこに電流が発生するということ,つまり起電力が生じるということである。
閉じた経路$C$の間を貫く磁場のフラックスを
\begin{equation}
\Phi_B =\int_S \bm{B}\cdot d\bm{S}
\end{equation}
とし,$C$を境界とする面を$S$とすると,電磁誘導の法則は
\begin{equation}
\oint_C \bm{E}\cdot d\bm{l} =-\frac{d\Phi_B}{dt}
\end{equation}
と書き表される。
右辺の負号は重要で,フラックスが減少している場合には誘導電流による磁場がフラックスの減少を妨げる方向に,フラックスが増加している場合には誘導電流による磁場がフラックスの増加を妨げる方向に,電場が誘導されるということを意味している(図3)。
これにもまた,Stokesの定理を使うことで
\begin{equation}
\nabla\times \bm{E}
= -\frac{\pd \bm{B}}{\pd t}
\end{equation}
と微分形が得られる。
電磁誘導については,コチラの記事でも個別に解説してある。
Ampèreの法則の一般形
もう1つ考慮すべきことは,電荷の保存則を満たすためにMaxwellがAmpèreの法則に対して行った拡張である。
式(\ref{eq:ampere_law_diff})の発散を取ると
\begin{equation}
\nabla \cdot \nabla \times \bm{B} = \mu_0 \nabla \cdot \bm{j}
\end{equation}
となるが,左辺はベクトルの性質から恒等的にゼロとなる。
しかし,連続の式(\ref{eq:electric_continuity})と比べると,電荷密度が時間変化している場合($\pd \rho/ \pd t \neq 0$)矛盾が生じてしまう。
よって,電荷の保存則を満たすためには,式(\ref{eq:ampere_law_diff})は
\begin{equation}
\nabla \cdot \nabla \times \bm{B} = \mu_0 \left( \nabla \cdot \bm{j} +\frac{\pd\rho}{\pd t} \right)
\end{equation}
の形でなければならない。
電荷密度の時間変化は,Gaussの法則
\begin{equation}
\nabla\cdot\bm{E}=\frac{\rho}{\varepsilon_0}
\end{equation}
を用いて書き換えることができ,時間変化を含んだ場合も扱える,修正されたAmpèreの法則は最終的に
\begin{equation}
\nabla \times \bm{B} = \mu_0 \left( \bm{j} +\varepsilon_0 \frac{\pd \bm{E}}{\pd t} \right)
\end{equation}
と与えられる。
こうして以下のようにMaxwellの方程式がすべて得られた。
微分形:
\begin{align}
\notag
\nabla\cdot\bm{E}=&\frac{\rho}{\varepsilon_0} \\
\notag
\nabla \cdot \bm{B}=&0 \\
\notag
\nabla\times \bm{E} =& -\frac{\pd \bm{B}}{\pd t} \\
\notag
\nabla \times \bm{B} =& \mu_0 \left( \bm{j} +\varepsilon_0 \frac{\pd \bm{E}}{\pd t} \right)
\end{align}
積分形:
\begin{align}
\notag
\int_{S}^{\ } \bm{E} \cdot d\bm{S} =& \frac{q}{\varepsilon_0} \\
\notag
\int_{S}^{\ } \bm{B} \cdot d\bm{S} =&0 \\
\notag
\oint_C \bm{E}\cdot d\bm{l} =&- \int_S \frac{\pd\bm{B} }{\pd t} \cdot d\bm{S} \\
\notag
\oint_C \bm{B}\cdot d\bm{l} =& \mu_0 \int_S \left( \bm{j} +\varepsilon_0 \frac{\pd \bm{E}}{\pd t} \right) \cdot d\bm{S}
\end{align}