磁気モーメント

Dr. SSS 2023/12/02 - 11:35:55 593 電磁気学
はじめに

有限な運動をする荷電粒子系が,離れた場所に作る磁場について考える。 その過程で,磁気モーメントと呼ばれる量が導入され,結果的に得られる磁場の表現は,双極子モーメントが作る電場と類似するものになる。


keywords: 角運動量, 磁場, 電流, 磁気モーメント, 静磁気学

内容

磁気モーメント

双極子モーメントについて考えた場合と同様にして,今度は定常な電流が十分離れた場所に作る磁場について考える。 電流は電荷の運動であり,電流密度は

\begin{equation} \label{eq:current_density_t} \bm{j}(\bm{r},t)=\sum_a q_a \bm{v}_a \delta(\bm{r}-\bm{r}_a) \end{equation}

で与えられるのであった。 ここで$a$は個々の粒子のラベルで,$q_a$,$\bm{r}_a$および$\bm{v}_a$はそれぞれ粒子$a$の電荷,位置,および速度である。

関数(\ref{eq:current_density_t})はある時刻$t$における,局所的な電流密度の瞬間的な値を与えるもので,この値は通常,荷電粒子の運動の速さスケールで刻々と変化する。 しかし,運動が有限(運動量や運動の範囲が有限)であり,我々が観測するマクロな時間スケールで見れば変動が無視できるような場合,電流は定常であるとみなせる。

瞬間的な電流密度(\ref{eq:current_density_t})から我々が観測する電流密度への移行は,マクロな時間スケールを$T$とし,時間平均

\begin{equation} \overline{f}(T) = \frac{1}{T}\int_0^T f(t) dt \end{equation}

を取ることによって実行できる。 ここで$f$は時間$t$の任意の関数である。 平均化された$\overline{f}$は時間$t$には依存せず,時間スケール$T$にわたって不変ならば$T$への依存性もなくなる。 言い換えると,観測量$\overline{f}$が定常であるとは,観測時間スケール$T$でその条件が満たされるということである。

我々が考えるのは,こうした定常な電流密度$\overline{\bm{j}}=\sum_a e_a\bm{v}_a$が作る磁場$\overline{\bm{B}}$あるいはベクトルポテンシャル$\overline{\bm{A}}$であり,観測点を$\bm{R}$とするとベクトルポテンシャルは

\begin{equation} \label{eq:magnetic_moment_potential_single} \overline{\bm{A}}(\bm{R}) = \frac{\mu_0}{4\pi} \int d^3r \overline{\frac{\bm{j}(\bm{r})}{|\bm{R}-\bm{r}|}} = \frac{\mu_0}{4\pi} \sum_a \overline{\frac{q_a\bm{v}_a}{|\bm{R}-\bm{r}_a|}} \end{equation}

となる。 平均は分母を含めた全体について取ることに注意。

ここで,双極子モーメントの考察で行ったように,$|\bm{r}| \ll |\bm{R}|$の下での展開

\begin{equation} \label{eq:small_r_expansion_mag} \begin{split} |\bm{R}-\bm{r}|^{-1} =& [R^2-2\bm{R}\cdot\bm{r}+r^2]^{-1/2} \\ % =& \frac{1}{R} \left[1-\frac{2\bm{R}\cdot\bm{r}}{R}+\left(\frac{r}{R}\right)^2\right]^{-1/2} \\ % \simeq & \frac{1}{R} + \frac{\bm{r}\cdot\bm{R}}{R^3} \end{split} \end{equation}

を用いると,ベクトルポテンシャルは

\begin{equation} \overline{\bm{A}}(\bm{R}) = \frac{\mu_0}{4\pi R}\sum_a e_a \overline{\bm{v}}_a + \frac{\mu_0}{4\pi R^3} \sum_a \overline{q_a\bm{v}_a(\bm{r}_a\cdot\bm{R})} \end{equation}

と近似できる。 右辺1項目は

\begin{equation} \label{eq:mag_moment_ave_v} \overline{\bm{v}} = \frac{1}{T} \int_0^T \frac{d\bm{r}}{dt}dt = \frac{\bm{r}(T)-\bm{r}(0)}{T} \end{equation}

より,有限な運動では十分大きな$T$の下で消失する。 したがって2項目の寄与だけが残り

\begin{equation} \overline{\bm{A}}(\bm{R}) = \frac{\mu_0}{4\pi R^3} \sum_a \overline{q_a\bm{v}_a(\bm{r}_a\cdot\bm{R})} \end{equation}

となる。 この項はまた

\begin{equation} \begin{split} \bm{v}_a(\bm{r}_a\cdot\bm{R}) =& \frac{1}{2}\frac{d}{dt}\bm{r}_a(\bm{r}_a\cdot\bm{R}) +\frac{1}{2}\bm{v}_a(\bm{r}_a\cdot\bm{R}) -\frac{1}{2}\bm{r}_a(\bm{v}_a\cdot\bm{R}) \\ % =& \frac{1}{2}\frac{d}{dt}\bm{r}_a(\bm{r}_a\cdot\bm{R}) +\frac{(\bm{r}_a\times\bm{v}_a)\times\bm{R}}{2} \end{split} \end{equation}

を用いてさらに変形できる。 時間全微分からなる1項目は(\ref{eq:mag_moment_ave_v})と同様の議論より寄与せず

\begin{equation} \overline{\bm{A}}(\bm{R}) = \frac{\mu_0}{4\pi R^3} \sum_a \overline{ \frac{q_a(\bm{r}_a\times\bm{v}_a)\times\bm{R}}{2} } \end{equation}

が残る。 そして,磁気モーメント(magnetic moment)

\begin{equation} \label{eq:magnetic_moment_micro} \bm{m} =\frac{1}{2}\sum_a q_a\bm{r}_a\times\bm{v}_a \end{equation}

を定義すれば

\begin{equation} \label{eq:magnetic_moment_potential} \overline{\bm{A}}(\bm{R}) = \frac{\mu_0}{4\pi} \sum_a \overline{ \frac{\bm{m}\times\bm{R}}{R^3} } \end{equation}

という表現が得られる。

(\ref{eq:magnetic_moment_micro})に含まれる外積は,質量$m_a$をかければ角運動量$\bm{L}_a$と一致するから

\begin{equation} \bm{m} =\frac{1}{2}\sum_a \frac{q_a}{m_a}\bm{r}_a\times\bm{p}_a =\frac{1}{2}\sum_a \frac{q_a}{m_a}\bm{L}_a \end{equation}

と表すこともできる。 電荷と質量の比がすべての粒子において等しければ,それを$e/m$と表して和の外に出し,全角運動量$\bm{L}=\sum_a \bm{L}_a$を導入することでさらに

\begin{equation} \bm{m} =\frac{e}{2m}\bm{L} \end{equation}

と簡潔化できる。



マクロな観点からの定義

磁気モーメントの定義(\ref{eq:magnetic_moment_micro})は,個々の荷電粒子の観点から導いた一般的なものであるが,個々の電荷のレベルには立ち入らないマクロな表現を導出することもできる。 以下扱う物理量はすべて,すでに平均操作を施されたマクロな視点から見た量であるとし,平均記号は省略する。

ベクトルポテンシャルの式

\begin{equation} \bm{A}(\bm{R}) = \frac{\mu_0}{4\pi}\int d^3r\frac{\bm{j}(\bm{r})}{|\bm{R}-\bm{r}|^2} \end{equation}

に,展開(\ref{eq:small_r_expansion_mag})を用いれば

\begin{equation} \bm{A}(\bm{R}) = \frac{\mu_0}{4\pi R}\int d^3r\bm{j} + \frac{\mu_0}{4\pi R^3} \int d^3r(\bm{R}\cdot\bm{r}) \bm{j} \end{equation}

となる。 電流が定常であるという仮定より,1項目は$\int d^3r \bm{j}=\int dS\nabla\cdot\bm{j}=0$となって消える。 2項目の積分は,ベクトル量を成分で表し,部分積分を行うと

\begin{equation} \begin{split} R_i \int r_i j_k d^3r =& R_i \int r_i j_l \frac{\pd}{\pd r_l} r_k d^3r \\ % =& -R_i \int \left(\frac{\pd}{\pd r_l}r_{i}\right) j_l r_k d^3r \\ % =& -R_i \int j_i r_k d^3r \end{split} \end{equation}

となる。 添え字についてはEinsteinの規約に従い,途中,$\pd r_i/\pd r_k=\delta_{ik}$を用いている。 左辺と右辺の表現を半分ずつ足し合わせて表現すれば

\begin{equation} \begin{split} \frac{R_i}{2} \int d^3r (r_i j_k - r_k j_i) =& \frac{\epsilon_{ikl} R_i}{2} \int d^3r (\bm{r}\times\bm{j})_l \\ % =& -\frac{1}{2} \left[\bm{R}\times\int d^3r (\bm{r}\times\bm{j}) \right]_k \end{split} \end{equation}

である。 $\epsilon_{ijk}$はLevi-Civita記号である。 よって,磁気モーメントを

\begin{equation} \label{eq:magnetic_moment_macro} \bm{m} = \frac{1}{2} \int \bm{r}\times\bm{j} d^3r \end{equation}

と定義すると,この場合のベクトルポテンシャルは

\begin{equation} \bm{A}(\bm{R}) = \frac{\mu_0}{4\pi} \frac{\bm{m}\times\bm{R}}{R^3} \end{equation}

となる。

ミクロな定義との関係

(\ref{eq:magnetic_moment_macro})の定義にミクロな電流密度の定義(\ref{eq:current_density_t})を入れれば

\begin{equation} \bm{m} = \frac{1}{2} \sum_a q_a \int \bm{r}\times\bm{v}_a \delta(\bm{r}-\bm{r}_a) d^3r = \frac{1}{2} \sum_a q_a \bm{r}_a\times\bm{v}_a \end{equation}

となり,定義(\ref{eq:magnetic_moment_micro})が得られる。

磁気モーメントとループ電流

電流がループを流れている場合,磁気モーメント(\ref{eq:magnetic_moment_macro})の積分は周回積分に置き換わり,一様な電流$I$が流れているならば,電流に沿った線素を$d\bm{l}$とし

\begin{equation} \bm{m} = \frac{I}{2} \oint \bm{r}\times d\bm{l} \end{equation}

と書き換えられる。 この式が含む積分はループが囲む面積を表しており,その形状にかかわらず

\begin{equation} |\bm{m}|=I\times(\text{ループの面積}) \end{equation}

であることを示している。

双極子磁場

磁気モーメントが作る磁場は,定義よりベクトルポテンシャル(\ref{eq:magnetic_moment_potential})の回転を取ることで得られる。 以下,平均操作の記号が省略する。

$\nabla$は$\bm{R}$の関数のみに作用することに注意し,$\nabla\times(\bm{m}\times\bm{R}/R^3)$にベクトル公式

\begin{equation} \label{eq:dxAxB} \nabla\times(\bm{a}\times\bm{b}) = \bm{a}(\nabla\cdot\bm{b}) -\bm{b}(\nabla\cdot\bm{a}) +(\bm{b}\cdot\nabla)\bm{a} -(\bm{a}\cdot\nabla)\bm{b} \end{equation}

を適用すると

\begin{equation} \nabla\times\left(\frac{\bm{m}\times\bm{R}}{R^3}\right) = \bm{m}\nabla\cdot \left(\frac{\bm{R}}{R^3}\right) - \bm{m}\cdot\nabla \left(\frac{\bm{R}}{R^3}\right) \end{equation}

となる。 1項目は

\begin{equation} \nabla\cdot \left(\frac{\bm{R}}{R^3}\right) = \bm{R}\cdot \nabla \frac{1}{R^3} +\frac{1}{R^3}\nabla\cdot\bm{R} = -\frac{3\bm{R}\cdot\bm{R}}{R^5} +\frac{3}{R^3} =0 \end{equation}

より消え,2項目は

\begin{equation} \bm{m}\cdot \nabla \left(\frac{\bm{R}}{R^3}\right) = \bm{R}\bm{m}\cdot\nabla \frac{1}{R^3} +\frac{1}{R^3}\bm{m}\cdot\nabla\bm{R} = -\frac{3\bm{R}(\bm{m}\cdot\bm{R})}{R^5} +\frac{\bm{m}}{R^3} \end{equation}

となる。 よって磁場は

\begin{equation} \bm{B} = \frac{\mu_0}{4\pi} \left[ \frac{3\bm{R}(\bm{m}\cdot\bm{R})}{R^5} -\frac{\bm{m}}{R^3} \right] \end{equation}

のように,双極子モーメントが作る電場と類似する形になる。。


参考文献