【電磁気学】誘電率と電気感受率
Introduction
『誘電体の静電気学:分極と電気変位』において,電場$\bm{E}$と分極ベクトル$\bm{P}$の線形結合として
という量を導入した。 ここでは,$\bm{E}$と$\bm{D}$の関係を与える新たな物理量を導入する。
誘電率
電場が小さければ,電気変位は電場のべき級数で展開できる:
多くの場合,この展開は1次までで十分で
と置ける。 ここで2階のテンソル$\bm{\varepsilon}$は誘電率テンソル(permittivity tensor)や誘電テンソル(dielectric tensor)と呼ばれる。
等方的な物体であれば,$\varepsilon_{ij}$は対角成分のみを持ち,単一のスカラー$\varepsilon$を用いて$\varepsilon_{ij}=\varepsilon\delta_{ij}$と表すことができ,$\bm{E}$と$\bm{D}$の関係は
という単純なものになる。
改めて,この線形な関係は電場がある程度の大きさ以下の場合にのみ成り立つものであることに注意。 その値は物質によって異なるが,電場の大きさがある閾値を超えると,抵抗が急落して物体に電流が流れる。 これを絶縁破壊(dielectric breakdown)と呼ぶ。 雷のように,絶縁体である空気に強い電圧がかかることで,気体分子が電離して電流が流れることを気体放電(gas discharge)と呼ぶが,これも絶縁破壊の例である。 しかしここでは,こうした領域には目を向けず,関係(\ref{eq:linear_relation_D_and_E})が成り立つ場合を考える。
この場合,電気変位の定義(\ref{eq:electric_displacement})より,分極ベクトルも電場に比例し
とおける。 あるいは,分極ベクトルの応答がこのような形で書ける場合,電気変位と電場が単純な比例関係になるともいえる。 $\chi_e$は,見ての通り分極の起こしやさを示す量であり,電気感受率(electric susceptibility)と呼ばれる。
電気感受率を用いると,$\bm{D}$と$\bm{E}$の関係は
と表せる。 これを(\ref{eq:linear_relation_D_and_E})と比べると
であることがわかる。 \( \nabla\cdot\bm{D} =\overline{\rho}_\text{free} \) より
となる。 多くの物質は正の電気感受率を持つ。 その場合,(\ref{eq:div_E_dielectric})は分極により電場が$1/(1+\chi_e)$だけ弱められることを示している。
References
――(1986). ファインマン物理学〈3〉電磁気学. 宮島 龍興 訳. 岩波書店.
――(2002, 2003). 電磁気学 上/下. 西田稔 訳. 吉岡書店.
――(1982). 電磁気学 (ランダウ=リフシッツ理論物理学教程) 1 & 2. 井上健男ほか訳. 東京図書.