導体の静電場とエネルギー

Dr. SSS 2023/11/05 - 10:45:28 301 電磁気学
はじめに

金属は,多数の自由電子を持つ。 このように自由に動ける電荷を持ち,電気を伝える物質を導体(conductor)という。 ここでは,導体の基本的な電気的性質を調べる。


keywords: 自由電子, 導体, 静電エネルギー

内容

導体内部

導体を静電場$\bm{E}_0$の中に置くと,それに応じて電荷の移動,すなわち電流が生じ,表面に新たな電場$\bm{E}'$が現れる。 この電荷の再分布は,元の電場を打ち消し, $\bm{E}=\bm{E}_0+\bm{E}'=0$となるまで続く。 よって,定常状態($\pd/\pd t=0$)で静電的な場合,すなわち

\begin{equation} \bm{E}=-\nabla\phi \end{equation}

である場合には,導体内部の電場は外部駆動がなければゼロである。 エネルギーバランスの観点からもこの結論が得られる。 電磁場のエネルギー密度$u$の保存則は

\begin{equation} \frac{\pd}{\pd t}u =-\bm{j}\cdot\bm{E} -\nabla\cdot\bm{S} \end{equation}

となるが,内部に電場が存在すれば電流も存在し,したがって右辺の散逸項はゼロにならない。 したがって,何らかのエネルギー供給$-\nabla\cdot\bm{S}>0$がなければ,定常状態を保つことはできない。

ただし,これは導体が一様であると仮定した場合の話である。 例えば温度が不均一である場合

\begin{equation} \bm{j}=\sigma (\bm{E} - \alpha \nabla T) \end{equation}

のように,電流は温度勾配によっても駆動されうる($\sigma$は伝導率,$\alpha$は温度勾配駆動の影響を表す係数)。 右辺の2つの駆動力が釣り合えば,電場がゼロでなくとも電流は流れない。 以下では断りのない限り,温度分布も一様な導体を仮定する。

静電場がゼロということは,静電ポテンシャルが空間的に一様ということである。 また, Gaussの法則より導体中の任意の閉曲面内部に電荷は存在しない。 すなわち

\begin{equation} \varepsilon_0\oint \bm{E}\cdot d\bm{S} = Q = 0 \end{equation}

であるから,導体内では電荷もゼロである。

まとめると,導体内では

\begin{equation} \bm{E}=-\nabla \phi =0, \quad \phi=\text{const.}, \quad \overline{\rho} = 0 \end{equation}

が成り立つ。

導体表面

続いて,導体の表面の静電的性質について調べよう。 表面上の境界条件は,電場が静電的であるがゆえに

\begin{equation} \nabla\times\bm{E}=0 \end{equation}

によって定められなくてはならない(任意のスカラーの勾配の回転はゼロ)。 また,上述の性質より,導体中では,電荷はその表面に分布することになる。 よって,$z$軸を,面上のある点における法線ベクトル$\hat{\bm{n}}$に平行に取ると,平均電荷密度は,表面位置を$z=z_0$として

\begin{equation} \label{eq:conductor_surface_charge} \overline{\rho}(x,y,z) = \sigma(x,y)\delta(z-z_0) \end{equation}

と表せる。 ここで$\sigma$は面電荷密度である(デルタ関数$\delta(z-z_0)$の次元は長さの逆数)。

改めて,我々はマクロな現象を扱うために,様々な理想化された記述を用いていることに注意しよう。 (\ref{eq:conductor_surface_charge})もその例である。 実際の物質では,微小ではあるが有限の厚みの中に電荷が分布し,電場は導体内部から外部にかけて連続的に変化している。 また,個々の電荷に距離がゼロまで近づくことはできない。 よって,電場の面に垂直な成分$E_z$は有限であるとみなせ,その面に沿った方向への変化率$\pd E_z/\pd x$および$\pd E_z/\pd y$も有限な値に留まる。 すると,これらを成分に持つ

\begin{equation} \label{eq:conductor_rot_E_x} (\nabla\times\bm{E})_x = \frac{\pd E_z}{\pd y}-\frac{\pd E_y}{\pd z} \end{equation}

\begin{equation} \label{eq:conductor_rot_E_y} (\nabla\times\bm{E})_y = \frac{\pd E_x}{\pd z}-\frac{\pd E_z}{\pd x} \end{equation}

がゼロであるためには,$\pd E_x/\pd z$および$\pd E_y/\pd z$が連続でなければならないことになる。 もし不連続であれば,そこで値が無限大になり,したがって(\ref{eq:conductor_rot_E_x})および(\ref{eq:conductor_rot_E_y})がゼロにならないためである。 ところが,内部電場はゼロであるから,表面近傍で$z$微分が連続であるということは,外部でも電場の接成分$E_x=-\pd\phi/\pd x$および$E_y=-\pd\phi/\pd y$はゼロでなくてはならないことになる。 これより,静電場は常に面に垂直でなくてはならないこと,そして面に接な方向のポテンシャル勾配がゼロであること,すなわち面が等ポテンシャル面であることが結論付けられる。

垂直成分は,Gaussの法則

\begin{equation} \int \nabla\cdot\bm{E} dV = \oint E_n dS = \frac{1}{\varepsilon_0}\int \overline{\rho}dV \end{equation}

によって決定できる。 導体表面の両側から無限小離れた位置に面を取り,それらをつないでできる微小な円柱領域を考え,Gaussの法則を適用すると,(\ref{eq:conductor_surface_charge})より

\begin{equation} \oint E_n dS = \frac{1}{\varepsilon_0}\int \sigma dS \end{equation}

となり

\begin{equation} E_n = -\frac{\pd\phi}{\pd n} = \frac{\sigma}{\varepsilon_0} \end{equation}

が得られる。 ここで,$\pd/\pd n=\hat{\bm{n}}\cdot\nabla$



導体の静電場のエネルギー

帯電した導体の電場のエネルギーは

\begin{equation} U = \frac{\varepsilon_0}{2}\int |\bm{E}|^2 dV \end{equation}

で与えられる。 ここで,積分は導体外部の空間全体で取られる。 これを

\begin{equation} \begin{split} U =& -\frac{\varepsilon_0}{2}\int \bm{E}\cdot\nabla \phi dV \\ =& -\frac{\varepsilon_0}{2}\int \nabla\cdot(\phi\bm{E}) dV + \frac{\varepsilon_0}{2}\int \phi\nabla\cdot\bm{E} dV \end{split} \end{equation}

と変形する。

右辺2項目は,導体外部では電荷がないことによりゼロである。 右辺1項目は,電場は面に垂直な成分しか持たないことから

\begin{equation} \label{eq:conductor_U_integral} -\frac{\varepsilon_0}{2}\int \nabla\cdot(\phi\bm{E}) dV = -\frac{\varepsilon_0}{2}\int \frac{\pd}{\pd n}(\phi E_n) dndS \end{equation}

と変形できる。 ここで,積分$\int dn$の下限は導体表面上の点で,上限は無限遠である。 無限遠で$\bm{E}\to 0$という仮定より後者の寄与はなくなるから,導体表面上の面積分($n$積分の下限だから負号が付く)が残り

\begin{equation} U =\frac{\varepsilon_0}{2} \oint\phi E_n dS \end{equation}

となる。 導体表面は等電位面であったことから,$\phi$は積分の外に出せる。 残る積分は面上の全電荷を与える。 複数の導体がある場合の一般的な表現は,$a$番目の導体の面上のポテンシャルを$\phi_a$,全電荷を$Q_a$とすると

\begin{equation} U=\frac{1}{2}\sum_a Q_a \phi_a \end{equation}

となる。


参考文献