電磁気学 2023-11-05

導体の静電場とエネルギー

ScienceTime Team
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導体の静電場とエネルギー

Introduction

金属は,多数の自由電子を持つ。 このように自由に動ける電荷を持ち,電気を伝える物質を導体(conductor)という。 ここでは,導体の基本的な電気的性質を調べる。

導体内部

導体を静電場E0の中に置くと,それに応じて電荷の移動,すなわち電流が生じ,表面に新たな電場Eが現れる。 この電荷の再分布は,元の電場を打ち消し, E=E0+E=0となるまで続く。 よって,定常状態(/t=0)で静電的な場合,すなわち

(1)E=ϕ

である場合には,導体内部の電場は外部駆動がなければゼロである。 エネルギーバランスの観点からもこの結論が得られる。 電磁場のエネルギー密度uの保存則は

(2)tu=jES

となるが,内部に電場が存在すれば電流も存在し,したがって右辺の散逸項はゼロにならない。 したがって,何らかのエネルギー供給S>0がなければ,定常状態を保つことはできない。

ただし,これは導体が一様であると仮定した場合の話である。 例えば温度が不均一である場合

(3)j=σ(EαT)

のように,電流は温度勾配によっても駆動されうる(σは伝導率,αは温度勾配駆動の影響を表す係数)。 右辺の2つの駆動力が釣り合えば,電場がゼロでなくとも電流は流れない。 以下では断りのない限り,温度分布も一様な導体を仮定する。

静電場がゼロということは,静電ポテンシャルが空間的に一様ということである。 また, Gaussの法則より導体中の任意の閉曲面内部に電荷は存在しない。 すなわち

(4)ε0EdS=Q=0

であるから,導体内では電荷もゼロである。

まとめると,導体内では

(5)E=ϕ=0,ϕ=const.,ρ=0

が成り立つ。

導体表面

続いて,導体の表面の静電的性質について調べよう。 表面上の境界条件は,電場が静電的であるがゆえに

(6)×E=0

によって定められなくてはならない(任意のスカラーの勾配の回転はゼロ)。 また,上述の性質より,導体中では,電荷はその表面に分布することになる。 よって,z軸を,面上のある点における法線ベクトルn^に平行に取ると,平均電荷密度は,表面位置をz=z0として

(7)ρ(x,y,z)=σ(x,y)δ(zz0)

と表せる。 ここでσは面電荷密度である(デルタ関数δ(zz0)の次元は長さの逆数)。

改めて,我々はマクロな現象を扱うために,様々な理想化された記述を用いていることに注意しよう。 (7)もその例である。 実際の物質では,微小ではあるが有限の厚みの中に電荷が分布し,電場は導体内部から外部にかけて連続的に変化している。 また,個々の電荷に距離がゼロまで近づくことはできない。 よって,電場の面に垂直な成分Ezは有限であるとみなせ,その面に沿った方向への変化率Ez/xおよびEz/yも有限な値に留まる。 すると,これらを成分に持つ

(8)(×E)x=EzyEyz

(9)(×E)y=ExzEzx

がゼロであるためには,Ex/zおよびEy/zが連続でなければならないことになる。 もし不連続であれば,そこで値が無限大になり,したがって(8)および(9)がゼロにならないためである。 ところが,内部電場はゼロであるから,表面近傍でz微分が連続であるということは,外部でも電場の接成分Ex=ϕ/xおよびEy=ϕ/yはゼロでなくてはならないことになる。 これより,静電場は常に面に垂直でなくてはならないこと,そして面に接な方向のポテンシャル勾配がゼロであること,すなわち面が等ポテンシャル面であることが結論付けられる。

垂直成分は,Gaussの法則

(10)EdV=EndS=1ε0ρdV

によって決定できる。 導体表面の両側から無限小離れた位置に面を取り,それらをつないでできる微小な円柱領域を考え,Gaussの法則を適用すると,(7)より

(11)EndS=1ε0σdS

となり

(12)En=ϕn=σε0

が得られる。 ここで,/n=n^

導体の静電場のエネルギー

帯電した導体の電場のエネルギーは

(13)U=ε02|E|2dV

で与えられる。 ここで,積分は導体外部の空間全体で取られる。 これを

(14)U=ε02EϕdV=ε02(ϕE)dV+ε02ϕEdV

と変形する。

右辺2項目は,導体外部では電荷がないことによりゼロである。 右辺1項目は,電場は面に垂直な成分しか持たないことから

(15)ε02(ϕE)dV=ε02n(ϕEn)dndS

と変形できる。 ここで,積分dnの下限は導体表面上の点で,上限は無限遠である。 無限遠でE0という仮定より後者の寄与はなくなるから,導体表面上の面積分(n積分の下限だから負号が付く)が残り

(16)U=ε02ϕEndS

となる。 導体表面は等電位面であったことから,ϕは積分の外に出せる。 残る積分は面上の全電荷を与える。 複数の導体がある場合の一般的な表現は,a番目の導体の面上のポテンシャルをϕa,全電荷をQaとすると

(17)U=12aQaϕa

となる。

References

  • 兵頭 俊夫. (1999). 電磁気学. 裳華房.
  • Landau, L. D., & Lifshits, E. M. (1984). Electrodynamics of continuous media (Course of Theoretical Physics). 2nd ed. Oxford: Pergamon press.
    ――(1982). 電磁気学 (ランダウ=リフシッツ理論物理学教程) 1 & 2. ‎ 井上健男ほか訳. 東京図書.
  • 砂川 重信. (1999). 理論電磁気学. 紀伊國屋書店.