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    線形変換

    Dr. SSS 2020/12/09 - 14:37:51 3491 線形代数とベクトル解析
    はじめに

    ここでは,線形変換の定義と,線形変換によってベクトルの表現がどう変化するのかについて説明する。


    keywords: 行列, 回転行列, ベクトル解析, 写像, 線形代数, 線形変換, 座標変換, ベクトル空間

    線形写像と線形変換

    同じ体$F$(四則演算が定義できる集合)上のベクトル空間$V$から$W$への写像で,任意の$\bm{x},\bm{y} \in V$と$a,b\in K$について

    \begin{align} T(a\bm{x}+\bm{y}) = aT(\bm{x})+bT(\bm{y}) \end{align}

    という性質を満たすものを,線形写像(linear map)という。 同じ体上というのは,例えばベクトル空間$V$が実ベクトル空間であれば$W$も実ベクトル空間,$V$が複素ベクトル空間であれば$W$も複素ベクトル空間といった意味である。 特に,$V=W$であるとき,すなわち同じベクトル空間上の写像であるとき,$T$を線形変換(linear transformation)1次変換などという。


    線形変換の表現行列

    $V$の次元を$n$とし,基底を$\bm{e}_j \ (j=1,2,...,n)$と選ぶと,$V$の任意のベクトル$\bm{x}$は

    \begin{align} \bm{x}=\sum_{j=1}^n x_j \bm{e}_j \end{align}

    と展開できる。 これが線形変換$T$により

    \begin{align} \label{eq:xprime} \bm{x}'=T\bm{x} \end{align}

    と変換されたとする。 座標は固定したまま成分だけが変換されたとみなすと,左辺は同じ基底$\{\bm{e}_j\}$を用いて

    \begin{align} \bm{x}'=\sum_{j=1}^n x_j' \bm{e}_j \end{align}

    と展開できるから

    \begin{align} \sum_{j=1}^n x_j' \bm{e}_j = \sum_{j=1}^n Tx_j \bm{e}_j \end{align}

    という等式が成り立つ。 この両辺と$\bm{e}_i$の内積を取ると

    \begin{align} x_i' = \sum_{j=1}^n \langle \bm{e}_i , T \bm{e}_j\rangle x_j \end{align}

    となるから,ここで

    \begin{align} T_{ij}\equiv \langle \bm{e}_i , T \bm{e}_j\rangle \end{align}

    を定義すると,$T$による成分の変換は

    \begin{align} \label{eq:trns_component} x_i'=\sum_{j=1}^n T_{ij}x_j \end{align}

    と表すことができる。 この$T_{ij}$を,変換$T$の表現(representaion)と呼び,$T_{ij}$を成分とする行列を表現行列(representation matrix)という。

    (\ref{eq:trns_component})を(\ref{eq:xprime})に戻すと

    \begin{align} \bm{x}' = \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n T_{ij} x_j \bm{e}_i \end{align}

    という表現が得られるが,これは成分が変換されたという(\ref{eq:trns_component})の見方とは別に,成分は固定したまま,基底が

    \begin{align} \label{eq:trns_basis} \bm{e}'_j=\sum_{i=1}^n T_{ij} \bm{e}_i \end{align}

    と変換されていると見ることもできる。




    例:2次元回転

    例えとして,2次元数空間上の回転操作を考えてみる。 基底を標準基底に選ぶと,変換の行列は回転角を$\theta$として

    \begin{align} R_{ij}(\theta) = \left( \begin{array}{cc} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{array} \right) \end{align}

    と表現できる。 これによる点$\bm{x}=\sum_i x_i \bm{e}_i$の成分の変換は

    \begin{align} \left( \begin{array}{c} x'_1 \\ x'_2 \end{array} \right) = \sum_{j=1}^n \left( \begin{array}{c} R_{1j}x_j \\ R_{2j}x_j \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} x_1\cos\theta -x_2\sin\theta \\ x_1\sin\theta + x_2\cos\theta \end{array} \right) \end{align}

    で表されるため,変換後の点$\bm{x}'$は

    \begin{align} \bm{x}' =& (\bm{e}_1,\bm{e}_2) \left( \begin{array}{c} x_1\cos\theta -x_2\sin\theta \\ x_1\sin\theta + x_2\cos\theta \end{array} \right) \notag \\ \label{eq:exeq1} =& (x_1\cos\theta -x_2\sin\theta)\bm{e}_1 + (x_1\sin\theta + x_2\cos\theta)\bm{e}_2 \end{align}

    と求められる。 これは,$\bm{x}'$を,原点から$\bm{e}_1$に沿って$x_1'$,$\bm{e}_2$に沿って$x'_2$進んだ点として表現することに対応している。

    他方,$R_{ij}$により基底が変換されるとすると

    \begin{align} (\bm{e}'_1,\bm{e}'_2) =& \sum_{i=1}^2 (R_{i1}\bm{e}_i, R_{i2}\bm{e}_i) \notag \\ =& (\cos\theta \bm{e}_1+ \sin\theta\bm{e}_2, -\sin\theta\bm{e}_1 + \cos\theta \bm{e}_2) \end{align}

    となる。 すると,変換後の点の,変換前の基底を用いた表現は

    \begin{align} \bm{x}' =& (\cos\theta \bm{e}_1+ \sin\theta\bm{e}_2, -\sin\theta\bm{e}_1 + \cos\theta \bm{e}_2) \left( \begin{array}{c} x_1 \\ x_2 \end{array} \right) \notag \\ =& (x_1\cos\theta -x_2\sin\theta)\bm{e}_1+ (x_1\sin\theta + x_2\cos\theta)\bm{e}_2 \end{align}

    となり,期待通り(\ref{eq:exeq1})と一致する。これは,$\bm{x}'$を,原点から$\bm{e}'_1$に沿って$x_1$,$\bm{e}'_2$に沿って$x_2$進んだ点として表現することに対応している。

    下の図は$(x_1,x_2)=(1,0)$とした場合のイメージで,左図は成分を,右図は基底を変換したとみなした場合にそれぞれ対応している。



    参考文献