ベクトル場のフロー

Dr. SSS 2021/01/24 - 08:33:10 微分幾何学
はじめに

ここでは,多様体上のベクトル場が生成するフローについて説明する。 まず初めにフローの直感的イメージを与え,その後より厳密な定義を示す。

以下,$C^\infty$級多様体を念頭に議論するため,特に断りのない限り,多様体という言葉は$C^\infty$級多様体を指すものとする。 また,Einsteinの規約に従い,上下繰り返しの添え字は和を取ることとする($\pd_i \equiv \pd/\pd x^i$は右辺の表現でも下付きとみなす)。


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内容

フローのイメージ

$c(t)$をベクトル場$X$に沿った積分曲線とする。 イメージをしやすくするために,パラメータ$t$を「時間」とみなそう。 このとき,多様体$M$上の任意の点$p$と任意の$t$に対し,点$p$をベクトル場$X$の流れに任せたまま「時間」$t$放置したとき辿り着く先の点に写す写像$\phi_t:M\to M$を考えることができる。 この$\phi_t$の集合$\{\phi_t|t \in R\}$を,フロー(flow)と呼ぶ。 以下で,フローについて,もっと形式的な定義と説明を与える。


局所フロー

ある$\varepsilon>0$に対し$I_\varepsilon=(-\varepsilon,\varepsilon)$と,$U_p \subset M$が与えられたとき,任意の$s+t \in I_\varepsilon$である$s,t \in I_\varepsilon$と$p\in U_p$に対して

\begin{align} \sigma(t,\phi(s,p))=\sigma(t+s,p), \quad \sigma(0,p)=p \end{align}

を満たす連続写像$\sigma:I_\varepsilon \times M\to M$が定義できる。 $t$を固定すれば

\begin{align} \phi_t(p)\equiv \sigma(t,p) \end{align}

は$M$から$M$への微分同相写像となり,$s,t$および$s+t$が$I_\varepsilon$に含まれるなら

\begin{align} \label{eq:flow_group_prod} \phi_{t+s}=\phi_t \circ \phi_s \end{align}

を満たす。 写像$\phi_t$の集合$\{\phi_t |t \in I_\varepsilon\}$を,局所フロー(local flow)といい,局所フローによって定義される点の集合$\{\phi_t (p)|t \in I_\varepsilon\}$を,点$p$の軌道(orbit)という。

$p$の軌道は点$p$を通る曲線であり,その接ベクトル

\begin{align} \frac{d \phi_t(p)}{dt} = \bm{v}_p \end{align}

の集合は$U_p$上でベクトル場を構成する。 このようなベクトル場をフロー$\phi_t$によって誘導される(induced)ベクトル場という。




1パラメータ変換群

フローが$R$全体で定義できるとき,局所フローと区別し,大域フロー(global flow)と呼ばれる。 大域フローの場合,任意の$s,t \in R$と$p\in M$に対して(\ref{eq:flow_group_prod})の条件が満たされる。

任意の2元$a,b$の間にある種の積$ab$が定義され,$ae=ea=a$を満たす単位元$e$と,任意の元に対し$aa^{-1}=a^{-1}a=e$を満たす逆元$a^{-1}$が存在する集合をというが,フローもまたこれらに対応する条件

  1. $\phi_{t+s}=\phi_t \circ \phi_s$
  2. $\phi_0=id_M$
  3. $\phi_{-t}=(\phi_t)^{-1}$

を満たし,群をなすことがわかる。 ここで,$id_M$は$M$上の恒等写像で単位元に対応する。 このことから,大域フローは1パラメータ変換群(1-parameter transformation group)とも呼ばれる。 局所フローの場合も$s,t $および$s+t$がその定義域$I_\varepsilon$に収まる場合に限り群をなし,局所1パラメータ変換群(local 1-parameter transformation group)と呼ばれる。

大域フローは$M$上にベクトル場を誘導する。 このベクトル場の積分曲線は,定義域を$R$全体に拡げることができる。 このようなベクトル場を完備(complete)なベクトル場という。


積分曲線の存在と一意性

解の存在定理より,微分方程式

\begin{align} \frac{dx^i(t)}{dt} =X^i(x^1(t),...,x^n(t)), \quad (i=1,...,n) \end{align}

には,初期値を$(x^1(0),...,x^n(0))$としたとき,十分小さな正の実数$\varepsilon>0$を取れば,$-\varepsilon <t <\varepsilon$の範囲で一意な解が存在することが保証されている。 解が一意であるということは,初期値を共有する2つの解があり,それぞれの定義域が$a < 0 <b$および$c < 0 <d$だったとすると,互いの定義域の共通部分$(a,b)\cap(c,d)$で両者は一致するという意味である。

これをベクトル場$X$の積分曲線に関する議論に適用すれば,初期値を$c(0)=p$とし,十分小さな正の実数$\varepsilon > 0$を取れば,$-\varepsilon < t < \varepsilon$の範囲で

\begin{align} \frac{dc(t)}{dt} =X(c(t)) \end{align}

を満たす一意な積分曲線を決定できると言える。

初期値を$p$とする積分曲線を$c(t,p)$と表すことにする。 $t=0$における点$p$を初期値とすれば,$c(0,p)=p$である。 このとき,$I_\varepsilon=(-\varepsilon,\varepsilon)$と$p$の開近傍$U_p$に対して

\begin{align} \phi_t (p) = c(t, p), \quad t \in I_\varepsilon \end{align}

となり,$X$を誘導する局所フローが一意に定義できる。 このフロー$\{\phi_t | t \in I_\varepsilon\}$を$X$に生成(generate)されるフローや,単に$X$のフローなどという。 このように,ベクトル場の積分曲線を求める問題は,そのベクトル場が生成するフローを求める問題に置き換えることができる。



参考文献


自然科学に関する質問やノート作りは『AfterSchool』で。