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    双極子モーメント

    Dr. SSS 2023/11/04 - 11:47:21 1116 電磁気学
    はじめに

    双極子モーメントと呼ばれる量と,それによって作られるポテンシャルおよび電場について解説する。


    keywords: 静電場, 電気双極子モーメント, 静電ポテンシャル

    単一の双極子が作る場

    電荷$q^+=q$と$-q^-=-q$を,それぞれ原点付近の$\bm{r}^+$と$\bm{r}^-$に配置する(これらの位置付近に原点を取るといってもいい)。 これらが,位置ベクトル$\bm{R}$で指定される位置に作る電場を考える。 まずポテンシャルで考えると

    \begin{equation} \label{eq:dipolar_potential_single} \phi(\bm{R}) = \frac{q}{4\pi\varepsilon_0} \left( \frac{1}{|\bm{R}-\bm{r}^+|} - \frac{1}{|\bm{R}-\bm{r}^-|} \right) \end{equation}

    となる。

    ここで,$\bm{R}$は$\bm{r}^{\pm}$と比べ,原点から十分遠くにあるとする。 すなわち,$|\bm{r}^{\pm}| \ll |\bm{R}|$。 すると,展開

    \begin{equation} f(\bm{R}-\bm{r}^\pm) \simeq f(\bm{R}) -\bm{r}^\pm\cdot\nabla f(\bm{R}) \end{equation}

    を用いて

    \begin{equation} \label{eq:small_r_expansion} \begin{split} |\bm{R}-\bm{r}^\pm|^{-1} =& [R^2-2\bm{R}\cdot\bm{r}^\pm+(r^\pm)^2]^{-1/2} \\ % =& \frac{1}{R} \left[1-\frac{2\bm{R}\cdot\bm{r}^\pm}{R}+\left(\frac{r^\pm}{R}\right)^2\right]^{-1/2} \\ % \simeq & \frac{1}{R} - \frac{\bm{r}^\pm\cdot\nabla R}{R^2} \end{split} \end{equation}

    と近似できる。 これよりポテンシャルは

    \begin{equation} \phi(\bm{R}) = \frac{q}{4\pi\varepsilon_0 R^3} (\bm{r}^+-\bm{r}^-)\cdot\bm{R} \end{equation}

    となる。 ここで,$\nabla R=\bm{R}/R$を用いた。 さらに,電荷の位置のずれを

    \begin{equation} \bm{d}=\bm{r}^+-\bm{r}^- \end{equation}

    とし,電気双極子(electric dipole)電気双極子モーメント(electric dipole moment)と呼ばれる量

    \begin{equation} \label{eq:dipole_moment} \bm{p}=q\bm{d} \end{equation}

    を定義すると,これが作るポテンシャルとして

    \begin{equation} \label{eq:dipole_potential} \phi(\bm{R}) = \frac{\bm{p}\cdot\bm{R}}{4\pi\varepsilon_0 R^3} \end{equation}

    という一般的な表現が得られる。

    電場は(\ref{eq:dipole_potential})の勾配を取ればよく

    \begin{equation} \label{eq:dipole_E_field} \bm{E} = -\nabla\phi = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \left[ \frac{3\bm{R}(\bm{p}\cdot\bm{R})}{R^5} -\frac{\bm{p}}{R^3} \right] \end{equation}

    と得られる。 このように,双極子モーメントが作る電場は,$1/R^3$に比例して減衰する。



    一般の場合

    上の議論を,任意の数の複数の電荷が点在している場合に一般化しよう。 個々の電荷の大きさは必ずしも同じでなくともいい。 ただし,正電荷$q_i^+$と負電荷$-q_i^-$の総量は等しく

    \begin{equation} \sum q_i^+ = \sum q_i^{-} = q \end{equation}

    であるとする。 よって

    \begin{equation} \label{eq:total_q_zero} \sum_i q_i = \sum q_i^+ -\sum q_i^{-} = 0 \end{equation}

    が成り立つ。

    電荷の正負を区別せず,個々の電荷の位置を$\bm{r}_i$とすると,ポテンシャル(\ref{eq:dipolar_potential_single})に対応するのは

    \begin{equation} \phi(\bm{R}) = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \sum_i \frac{q_i}{|\bm{R}-\bm{r}_i|} \end{equation}

    である。 $|\bm{r}_i| \ll |\bm{R}|$より(\ref{eq:small_r_expansion})と同様に

    \begin{equation} |\bm{R}-\bm{r}_i|^{-1} = \frac{1}{R} - \frac{\bm{r}_i\cdot\nabla R}{R^2} \end{equation}

    と展開すれば

    \begin{equation} \label{eq:dipole_potential_eq1} \phi(\bm{R}) = \frac{1}{4\pi\varepsilon_0 R} \sum_i q_i - \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \sum_i \frac{q_i\bm{r}_i\cdot\bm{R}}{R^3} \end{equation}

    である。 上の条件(\ref{eq:total_q_zero})より,(\ref{eq:dipole_potential_eq1})の1項目は消える。

    正電荷と負電荷の位置ベクトルをそれぞれ$\bm{r}_i^+$および$\bm{r}_i^-$と記すと,双極子モーメントの総和は

    \begin{equation} \label{eq:total_dipole_moment} \bm{p} =\sum q_i^+\bm{r}_i^+ -\sum q_i^-\bm{r}_i^- =(\bm{d}^+-\bm{d}^-)q \end{equation}

    と表せる。 ここで

    \begin{equation} \bm{d}^+ = \frac{\sum_{i+}q_i^+ \bm{r}_i^+}{q}, % \quad % \bm{d}^- = \frac{\sum_{i-}q_i^- \bm{r}_i^-}{q} \end{equation}

    は,質量中心ならぬ電荷中心である。 正負の電荷中心の差を$\bm{d}=\bm{d}^+ - \bm{d}^-$とすれば,双極子モーメントは

    \begin{equation} \bm{p} =q\bm{d} \end{equation}

    となり,これを用いることで双極子ポテンシャル(\ref{eq:dipole_potential})と対応する電場(\ref{eq:dipole_E_field})が同じように得られる。

    このように電荷の和がゼロであっても,正電荷と負電荷の電荷中心がずれるとき,電場が生じる。 電荷が連続的に分布している場合,(\ref{eq:total_dipole_moment})に対応するのは

    \begin{equation} \bm{p} = \int \rho(\bm{r}) \bm{r} d^3r \end{equation}

    である。


    参考文献