Maxwell方程式の導出I:Gaussの法則

Dr. SSS 2018/11/06 - 17:01:31 電磁気学

恐らく19世紀を通じての物理学の歴史の中で最も劇的な瞬間は, 1860年代のある日, J.C.マクスウェルが電気と磁気の法則と光の性質に関する法則とを結合したときに訪れたものである.その結果として光の性質はある程度までは解明されることになった.これこそ古くして微妙なもので,創世記が書かれるにあたって,その創造に特別に一日を必要と感ぜられたほどで,重要で神秘的なものであった.マクスウェルなら,彼の発見をした時,"電気と磁気とがあれ,しからばそこに光がある"といいたいところであっただろう。

―Richard Feynman, ファインマン物理学III

はじめに

ここでは,Maxwellの方程式のうち,Gaussの法則(微分形)

\begin{align} \notag \nabla\cdot\bm{E}&=\frac{\rho}{\epsilon_0} \\ \notag \nabla \cdot \bm{B}&=0 \end{align}

(および積分系)

\begin{align} \notag \int_{S}^{\ } \bm{E} \cdot d\bm{S} &= \frac{q}{\epsilon_0} \\ \notag \int_{S}^{\ } \bm{B} \cdot d\bm{S} &=0 \end{align}

を導く。


keywords: 電磁気学, Carl Friedrich Gauss, Maxwell方程式, James Clerk Maxwell

内容

Coulombの法則と電場

静電場の基本法則について復習しよう。 例えば二つの荷電粒子が存在する場合を考えたとき,「それらの粒子同士は,互いの電荷に比例し,互いの距離の二乗に反比例する力を及ぼしあう」というのが経験的に得られたCoulombの法則

\begin{align} \label{coulomb force} \bm{F}_{12}= k\frac{q_1 q_2(\bm{x}_1-\bm{x}_2)}{|\bm{x}_1-\bm{x}_2|^3} =- \bm{F}_{21} \end{align}

である。 $(\bm{x}_1-\bm{x}_2)/|\bm{x}_1-\bm{x}_2|$は粒子間をつなぐ方向の単位ベクトルであることに注意。$k$は比例定数である。

しかしこの表現は,互いの粒子がどれだけ離れていても,瞬時に相互作用を及ぼす遠隔作用を表しており,物理的に受け入れられるものではなかった。 そこで導入されたのが,という概念である。

電場

\begin{align} \label{E field} \bm{E} = k\frac{q_2(\bm{x}_1-\bm{x}_2)}{|\bm{x}_1-\bm{x}_2|^3} \end{align}

を導入して,(\ref{coulomb force})を

\begin{align} \bm{F}_{12}=q_1 \bm{E} \end{align}

と書き直すことで,直接荷電粒子同士が相互作用するのではなく,一方の電荷が独立に作る場の作用によってもう一方に力が及ぼされるという表現に置き換えられる。 複数の電荷が存在している場合,それらの粒子が作る場は,ぞれぞれの場の和

\begin{align} \bm{E}(\bm{x}) =k \sum_i\frac{q_i(\bm{x}-\bm{x}_i)}{|\bm{x}-\bm{x}_i|^3} \end{align}

となる。

電場$\bm{E}$は,空間座標$\bm{x}$のベクトル関数(より一般には$t$にも依存する)であり,空間の各点に対応する矢印を描くことで視覚的なイメージを構築できる。 このとき,その矢印を接線として曲線を描いていくことで,場のある種の流れを描写することができる。 電場の場合はこれを電気力線(electric field line)という(図1)。

図1:電荷$q$を中心とする電気力線のイメージ


電場のGaussの法則

では,その電場の発散を考えてみよう。 簡単のために,電荷$q$を持つ荷電粒子が原点に静止しているとし,それを半径$r$の球面で囲ってしまう。すると,その球面を通る電場の流束は

\begin{align} \int_{S}^{\ }\bm{E}\cdot d\bm{S}=4\pi r^2 E \end{align}

となる。 ここで$\bm{n}$を法線ベクトルとして,$d\bm{S}=\bm{n}dS$であり,$\bm{E}$は$\bm{n}$と平行であるから$E=|\bm{E}|=\bm{E}\cdot\bm{n}$である。 電場の定義(\ref{E field})より,右辺はさらに計算出来て

\begin{align} 4\pi r^2 E = 4\pi r^2 k\frac{q}{r^2}= 4\pi k q \end{align}

となる。 よって

\begin{align} \label{Gauss int} \int_{S}^{\ }\bm{E}\cdot d\bm{S}= 4\pi k q \end{align}

が成り立つことがわかる。 これが,積分系のGaussの法則である。この関係は,『Gaussの発散定理』と同様の議論によって,電荷を囲む曲面の形によらず成り立つことが示せる。

係数の$4\pi$が若干うっとうしいので,比例定数$k$を

\begin{align} k \equiv \frac{1}{4\pi \epsilon_0} \end{align}

と選択してしまう。 すると(\ref{Gauss int})は

\begin{align} \label{Gauss law int} \int_{S}^{\ } \bm{E} \cdot d\bm{S} = \frac{q}{\epsilon_0} \end{align}

と書き換えられる。ここで$\epsilon_0$は真空の誘電率と呼ばれるものである(このブログでは特に断りがない限り,古典電磁気学の記述にはMKSA単位系/SIを採用する)。

また,(\ref{Gauss law int})の左辺は,Gaussの発散定理を用いることで,体積積分

\begin{align} \int_{S}^{\ } \bm{E} \cdot d\bm{S} = \int_{V}\left(\nabla\cdot\bm{E}\right)dV \end{align}

に書き換えられる。 一方,電荷も,電荷密度$\rho$を用いて

\begin{align} q=\int_V \rho dV \end{align}

と表せるため,(\ref{Gauss law int})は

\begin{align} \int_{V}\left(\nabla\cdot\bm{E} - \frac{\rho}{\epsilon_0} \right)dV=0 \end{align}

と書き換えられる。 任意の領域でこの関係が成り立つため,微分系のGaussの法則

\begin{align} \nabla\cdot\bm{E}=\frac{\rho}{\epsilon_0} \end{align}

が得られる。




磁場のGaussの法則

次に,磁場の発散であるが,もし磁場に発散が存在するとすると,磁場の湧き出しか吸い込みがあるということになる。 しかしそのような極,すなわち磁気モノポールは現実には見つかっておらず,磁力線は始点も終点を持たない(図2)。よって,磁場の発散は任意の領域でゼロとなり

\begin{align} \int_{S}^{\ } \bm{B} \cdot d\bm{S} =0 \end{align}

となる。 また,これにもGaussの定理を適用することで,微分形

\begin{align} \nabla \cdot \bm{B}=0 \end{align}

が得られる。


図2:磁力線のイメージ。どのような面で囲っても(図中の長方形に対応)その面に入った力線は必ずどこかから面を出ていくから,発散は常に0になる。


参考文献