気候システムにおいては,放射に関係するプロセスが非常に重要になるが,関心のある対象によって,以下のような互いに似ているが異なる量を扱うため,それぞれ混同しないように注意する必要がある。
点$\bm{r}$を中心とする微小面$dS$上から,$\nu$と$\nu+d\nu$の間の振動数を持つ放射によって,単位ベクトル$\bm{s}$の方向に時間$dt$の間に運ばれるエネルギーを$dE$としたとき
で定義される$L_\nu (\bm{r},\bm{s})$を,スペクトル放射輝度(spectral radiance)あるいは単色放射輝度(monochromatic radiance)と呼ぶ。 ここで,$\theta$は面$dS$の法線$\bm{n}$と$\bm{s}$のなす角である(図1)。
これは,特定の振動数を持った光子によって,$\bm{s}$の方向に単位面積当たり,単位立体角当たりに運ばれる仕事率に対応しており,${\rm Wm}^{-2}{\rm sr}^{-1}{\rm Hz}^{-1}$の次元を持つ。 著者や文献によっては,スペクトル輝度のことを,スペクトル放射強度(spectral radiation intensity)と呼ぶことも多いが,別の量を指して強度と呼ぶこともあるため,混同しないように注意が必要である。
スペクトル輝度を振動数について積分したもの
を,放射輝度(radiance)あるいは放射強度(radiation intensity)と呼ぶ。
図1:点$\bm{r}$を中心とする半球
スペクトル放射輝度の法線成分を半球に渡って積分したもの
を,スペクトル放射照度(spectral irradiance)あるいは単色放射照度(monochromatic irradiance)と呼ぶ。
立体角要素は
であるから,法線方向に正の側の半球に渡る積分とは
である。
スペクトル照度を振動数で積分したもの
を,放射照度(irradiance)という。 この量は,単位面積当たりの仕事率の次元${\rm Wm}^{-2}$を持つ。
法線$\bm{n}$の方向をの照射を$F(\bm{r},\bm{n})=F^\uparrow$,反対方向の照射を$F(\bm{r},-\bm{n})=F^\downarrow$とすると,法線方向への正味の面積当たりの仕事率は
で求められる。