有効放射温度

Dr. SSS 2020/03/13 - 10:38:48 8452 気候物理
はじめに

放射以外の過程を介した熱輸送や温室効果などを無視し,太陽からの放射とアルベド(入射光の反射割合)のみを考慮する簡易的モデルによって,有効放射温度と呼ばれる一つの指標量を導出する過程を示す。 以下,地球を一様で一定な温度$T$を持つ半径$a$の球体と仮定して議論する。


keywords: 気候変動, 惑星, 太陽, , 放射, 熱力学, 温室効果, 地球, 大気物理学

内容

太陽定数

地球大気の上端で測定すると,単位面積,単位時間当たりに受け取る太陽のエネルギーは約

\begin{align} F_s=1.36 \times 10^{3} \ \text{Wm}^{-2} \end{align}

である。 太陽活動の変化を考慮しても,過去数百年に渡るこの値の変動は$0.1\%$程度であるため(Lean and Rind 1998),近似的に定数とみなされ,太陽定数(solar constant)と呼ばれる

太陽光線を遮る面積は$\pi a^2$であるため,太陽から地球には単位時間当たり$\pi a^2 F_s$のエネルギー(仕事率)が届けられていることになる(図1)。 よって,これを全表面積は$4\pi a^2$で割ることで,地球全体での単位時間当たりに降り注ぐエネルギー平均値が$F_s/4$と得られる。

しかし,入射光の一部は,大気や地表に反射されるため,このエネルギー平均値$F_s/4$がそのまま地球を暖めるエネルギーとして利用されるわけではない。入射光に対する反射の割合$\alpha$をアルベド(albedo)と呼び,地球での平均値はおおよそ$\alpha=0.3$となる(Goode et al. 2001)。

図1:体積$4\pi a^3/3$の球が平行な光線に対して作る影の面積



有効放射温度

ここでは,大気による吸収を考えないとする。すると,入射光から反射光を差し引いた$(1-\alpha)F_s/4$が地表で吸収されることになる。地球が温度一定であるという仮定から,この吸収したエネルギーと地表から放射されるエネルギーがバランスしないといけない。

地球による放射を黒体放射と仮定すると,Stefan-Boltzmannの法則より,単位時間,単位面積当たりに放出されるエネルギーは $$ \sigma T^4 $$ で与えられる。ここで$\sigma$はStefan-Boltzmann定数である。 よって,エネルギーバランスの式として

\begin{align} \frac{1}{4}(1-\alpha)F_s =\sigma T^4 \end{align}

を得る。この式を変形することで,温度$T$が

\begin{align} T=\left( \frac{(1-\alpha)F_s}{4\sigma} \right)^{1/4} \end{align}

と求まる。この計算で得られる温度を有効放射温度(effective radiation temperature; effective emitting temperature )という(惑星平衡温度(Planetary equilibrium temperature)などと呼ばれることもある)。


太陽系惑星の有効放射温度

太陽定数とアルベドの具体的な値を入れると,地球の有効放射温度として約$255$K($-18^\circ$C)という値が得られる。この値は実際の平均地球表面温度の観測値$288$K($15^\circ$C)よりかなり低い。これは,温室効果(greenhouse effect)などの本質的に重要な効果が考慮されていないためである。

太陽の放射エネルギーとアルベドの値を変えることで,別の惑星の有効放射温度を求めることもできる。金星は地球より太陽に近い軌道を回るが,アルベドの値が大きいため,有効放射温度は約$227$K($-46^\circ$C)と地球よりも低い。しかし,二酸化炭素を主成分とする分厚い大気による温室効果の影響で,平均表面温度は$737$K($464^\circ$C)にもなる(Williams 2018a)。

他方,太陽系惑星で最も太陽に近い水星にはほとんど大気がなく,温室効果などが生じないため,有効放射温度も実際の平均表面温度も約$440$K($167^\circ$C)で大きな差がない(Williams 2018b)。

これらの見積もりは,簡易的ではあるが,大気による温室効果の重要さをわかりやすく示している。



参考文献