エネルギーバランスモデル

Dr. SSS 2020/07/29 - 11:12:18 1093 気候物理
はじめに

エネルギーバランスモデル(EBM)は,エネルギーのつり合いから,時間および空間に渡る平均温度を求める方程式あるいは方程式の集まりを指す。 この種のモデルは,現実の気候システムの詳細な性質を分析するには単純すぎるものであるが,それでもいくつかの重要な性質を捉えるのに非常に有用なツールとなる。 ここでは,EBMの中でも最も単純なゼロ次元モデルについて説明する。


keywords: 気候変動, 放射, 大気物理学, 温室効果ガス, 放射強制力, 気候感度, CO2

内容

黒体惑星モデル

最も単純なものは,地球をゼロ次元の点とみなし,放射のエネルギーバランスから全球気温度を求めるものだ。 このとき,温度$T$は,エネルギー保存則の表す式

\begin{align} \label {eq:EBMdT} C\frac{dT}{dt}=F^\downarrow-F^\uparrow \end{align}

から求められる。 ここで,$C$は熱容量,$F^\downarrow$は太陽からの下向きの放射フラックス(照度),$F^\uparrow$は地表からの上向きのフラックスである。

系が平衡状態にあるとすれば,(\ref{eq:EBMdT})の左辺は落とせて

\begin{align} F^\downarrow=F^\uparrow \end{align}

となる。 下向きフラックスを,太陽定数$F_s$とアルベド$\alpha$を用いて

\begin{align} F^\downarrow = \frac{1}{4}(1-\alpha)F_s \end{align}

とし,上向きフラックスは地表による放射を黒体放射とみなせるとして

\begin{align} F^\uparrow =\sigma T^4 \end{align}

とすれば,全球平均温度として有効放射温度

\begin{align} T=T_e=\left( \frac{(1-\alpha)F_s}{4\sigma} \right)^{1/4} \end{align}

が得られる。




Budykoの経験式

今度は,地球からの放射をを黒体放射ではなく,Budykoにしたがって,地表温度$T$について

\begin{align} F^\uparrow =A+B T \end{align}

と線形の形に書けると仮定する。 $T$を摂氏で測った場合,観測値に基づけば,大体$A=210$Wm$^{-2}$および$B=1.90$Wm$^{-2}$K$^{-1}$と見積られる。 このとき

\begin{align} A+BT=\frac{1}{4}(1-\alpha)F_s \end{align}

より,太陽放射とアルベドの値をそれぞれ$F_s=1360$および$\alpha=0.3$と代入して計算すれば,平衡温度は

\begin{align} T=\frac{(1-\alpha)F_s/4 - A}{B} =14.7 \ ^\circ \text{C} \end{align}

となる。

続いて,この平衡状態にCO$_2$の変化による摂動が加わった場合の温度変化を見積ってみる。 CO$_2$の変化による強制力は,CO$_2$濃度の比の対数

\begin{align} \Delta A = -5.35 \ln {\frac{[\text{CO}_2](t)} {[\text{CO}_2](t_0)}} \ \text{Wm}^{-2} \end{align}

で与えられるから,基準時$t_0$からCO$_2$濃度が2倍になったときの強制力は

\begin{align} \Delta A = -5.35 \ln {2} = -3.71 \ \text{Wm}^{-2} \end{align}

となる。 よって,系が別の平衡状態に落ち着いたとき,前の状態と比較した温度の増分は

\begin{align} \Delta T_{2\times \text{CO}_2} =-\frac{\Delta A}{B} \simeq 2.0 \ ^\circ \text{C} \end{align}

と見積られる。 このとき,$-1/B$は,平衡気候感度(equilibrium climate sensitivity)と呼ばれるものに対応する。



参考文献